はじめに

タイトル:愚者のロンド
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、なんちゃってミステリー風味、不可思議、元素はある

※サクサク進めるためにほぼ会話文です。

カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。草の神の目持ち。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。

江戸川コナン…小学生。名探偵。
沖矢昴…大学生。FBI。赤井秀一。
安室透…探偵。喫茶ポアロのアルバイト店員。公安。バーボン。降谷零。

灰原哀…小学生。
阿笠博士…発明家。

毛利蘭…高校生。

アルハイゼン…???
ナヒーダ…???


・・・


 息をしていた。
まるで空を飛ぶ鳥を落とすように。
 呼吸を繰り返す。
まるで海を泳ぐ鯨を追い回すように。
 荒々しく、走る。
まるで、まるで、

ここは火の海。

「大好きだよ、僕は、君の事が」
 ずっと、花の夢を見ていた。
全てを燃やす地獄の底で。


・・・


 カーヴェは阿笠邸を訪れていた。
「灰原さん、これでいいかい?」
「ありがとう、こちらのデータも入力してもらえる?」
「任せておくれ」
「カーヴェさんのところに江戸川君から連絡は来たの?」
「来ないね。また何かに首を突っ込んでるんだろ?」
「ああもう。まだ頼まれた資料が作れてないのよ」
「大丈夫。二人がかりなら終わるよ。博士だって、新作の為に睡眠を削ってるし、あまり根を詰めないの」
「ありがとう。全く、あなたは本当に気がきくわね」
「ふふ、これでも三十路のおじさんだからね」
「そうは見えないけれどね」
「いやもうこの顔面については親譲りとしか」
「知ってるわよ」
 灰原はカタカタと情報を精査している。カーヴェは資料をまとめ上げながら、コーヒーをちまちまと飲む。

「一人分のひだまりがあったら、」
 灰原とカーヴェは資料を仕上げて、休憩する。灰原はカーヴェの膝にこてんと頭を乗せて、呟く。カーヴェは取り寄せた海外の論文を読んでいた。
「あなたはきっとひとに譲るんでしょうね」
「それなら灰原さんにあげよう」
「いらないわよ。悪趣味ね」
「そうかい? ひだまりはきっと心地良いよ。あたたかくて、眠たくなる」
「あなたはお昼寝が好きね」
「まあね。仕事に追われてるとなかなか出来ないけれど」
「徹夜はパフォーマンスを低下させるわ」
「時間が24時間しか無いんだから、仕方ないさ」
「仕事人間ね」
「そうだね。しょうがないさ」
「無茶は良く無いわよ」
「お互い様だね」
「ええ、そうね」
 そうして灰原はすうっと眠った。カーヴェは膝の上の彼女の頭をそのままに、論文にすらすらと書き込みを入れていく。
「寝たかの」
「あ、阿笠博士」
 カーヴェの膝の上の灰原の穏やかな顔を見る。阿笠は嬉しそうに、そして疲れ切った顔で、昼食にサンドイッチを作ろうかのうと言っていた。


・・・


「灰原! カーヴェさん!」
「なによ、江戸川君」
「おや、思ったより早かったね」
「調べてほしい事があるんだけどよ」
「はあああ……」
「それよりも前の件の資料まとめたよ」
「あ、サンキュー、灰原どうしたんだ?」
「お疲れなんだよ」
「なんで?」
「新一、全人類が推理オタクではないんだよ」
「わ、わりい……」


・・・


 バーボンとして、安室透として。そうして喫茶ポアロで働く。抜けがちなので、同じバイトである梓には迷惑をかけていると思うものの、梓はとくに気にする事なく働いてくれる。
 からんからんと音が鳴って。いらっしゃいませと顔を上げると、やあとカーヴェがいた。

「お一人ですか?」
「まあね。良い人もいないからなあ」
「あなたはとても綺麗なので人が放っておかないでしょう」
「そう? あなたほどかっこいい顔だったら良かったんだけど」
「ああ……お疲れ様です」
「まあ、慣れてるよ。何かあったら対処する方法は学んでるから」
 カーヴェはコーヒーを頼んだ。カウンター席で、カーヴェはゆっくりと雑誌を捲る。
 からん、と毛利蘭がやって来た。
「あ、カーヴェさん!」
「うん? 蘭さんか」
「お久しぶりです。えっと、新一から連絡ありましたか?」
「いや、何も。蘭さんにも無いのかい?」
「はい……」
「全くあの子は。会う機会があったらよくよく伝えておくよ」
「ありがとうございます。カーヴェさん、隣に座っても?」
「構わないよ。安室さん、彼女にミルクティーを」
「はい」
 そうして蘭と会話に花を咲かせるカーヴェに、降谷はとっても納得いかなかった。降谷零とカーヴェが過ごした期間は短い。毛利家と工藤家との交流の方が長いことはもう調べがついている。
 でも、でもでも!
 彼は降谷をゼロと呼べる、数少ない人なのだ。少しぐらいは降谷を、安室を、優先してくれたっていいのに。二十九歳にもなって、女子高生に嫉妬していると、カーヴェはそうだと口にした。
「今度お菓子を持っていくよ。一人だとなにかと消費が大変でね」
「あ、暇になると作っちゃうって言ってましたね」
「うん。バクラヴァ。どうかな?」
「私、カーヴェさんのバクラヴァが好きです! 新一も好きだったな……」
「あいつにも渡さないとね」
 バクラヴァってなんだ。降谷は今度こそ臍を曲げた。


・・・


 カーヴェは自宅に帰ると、ふんふんと鼻歌を歌いながら発信機の類がないことをよく確認する。
 そして、とんとんっとスマホを叩いた。
「メラック、こんばんは。今日のメッセージを見せておくれ」
 ピッポとスマホが光って、空中にパネルが浮かんだのだった。


・・・


『森林火災だ』
「本当に?」
『自然発火だと思われている。表向きはな』
「実際は、元素の関係ってことか」
『炎スライムが出現した可能性がある。スライム液の痕跡があったからな』
「場所は?」
『日本ではない』
「そう……でも、スライムが同時多発的に出現する可能性もある」
『偶発性だとクラクサナリデビ様は仰っておられる』
「それを君は信じていない、と」
『何者かの手引きを感じる。君の方でも気をつけてくれ』
「了解。ああそうだ」
『何だ?』
「君もバクラヴァが食べたいなら、早くおいで」
『……誰に食べさせるつもりだ』
「じゃあね」
『おい』


・・・


 きれい、きれいの夕焼けの。小さな小さな種のような。

 真っ赤な、火。


・・・


「日本での森林火災」
「自然災害ならば名探偵の範囲ではないね」
「自然災害なら、ね」
 江戸川コナンが思考を巡らせている。
「そもそも自然災害として山火事が起きる第一条件を満たしてないんだよ、カーヴェさん」
「空気が乾燥していない」
「そう、この山火事があった日の朝、森は雨だった」
「夜になるまでずっと天気は曇り空。乾燥するような、日差しも暑さもない、平穏な日だった、って?」
「だからこれ、おそらく放火だよ。それも、一人や二人の仕業じゃないのかも」
「一人だとしたら誰だと思う?」
「情報が少なすぎるんだ」
「灰原さんに頼むにしても、少ない?」
「おう」
「じゃあもっと推理するか、コナン君と僕の足で調べるか、もしくは」
「もしくは?」
「第二の事件まで待つか」
「それはダメだ」
「だろうね」


・・・


 降谷は事件の首謀者を調べようとしていた。森林火災にしては明らかにおかしい点しかない。ただ、これだけの規模の火事を起こした犯人が分からない。山の所有者はすでに調べてあり、全くの無関係としか考えられなかった。そもそも公安案件なのかと言われたら、日本の森林率と今回の山火事のパーセンテージを見てもらうしかない。この勢いで第二第三の火災が起きては、そう遠くなく日本の森林の大半が失われる。それは、本物の災害へと繋がる。
 防がなければ。降谷はバーボンとして不審でない範囲で駆けずり回る。


・・・


『カーヴェ、アビスの魔術師を呼び出した痕跡があった』
「……そこから?」
『犯人はアビスの魔術師を手にしている。そして、おそらく既にアビスの魔術師に殺されている。たった一体ですら、この世界では脅威だ。よって、旅人が出る。話を合わせるように』
「旅人は僕に接触したい?」
『いや、おそらく火属性。カーヴェでは厳しい』
「ふうん。じゃあ、僕は誘蛾灯か」
『名探偵と、探偵たちの目を引けばいい。事件は彼らにとっては何をしてもお粗末だろう』
「事件以外で彼らの目を引く? 無理だろ!」
『だろうな。だから名探偵の安全だけを目指せ』
「はあ、探偵たちは無視か」
『名探偵だけは元素ではない方面で何らかの真実を見つけるだろう』
「まあね、何かあったら連絡するよ」
『どうせメラックが記録するが』
「知ってる」


・・・


「カーヴェさん、こちらは鈴木園子。友達だよ」
「あ! 知り合いよ!」
「どうも。久しぶりだね、園子さん」
「日本に来ているって話は本当なんですね! 建築業界がずーっと依頼を溜め込んでるとか」
「ははは、まだしばらく大きな仕事は受けないつもりなんだ。悔しいけどね」
「悔しいんですか?」
 キョトンとする園子に、もちろんとカーヴェは言った。
「できれば、僕は仕事を必要とする人としたい。でも体はついていかないからね」
「カーヴェさんの仕事量すごかったですから……あの量をずーっと抱え続けるのは無理ですよ」
「園子、そうなの?」
「うん。全部の仕事を把握してる人はいなかったと思う。どれも大きなプロジェクトで皆びっくりしながらも、あのカーヴェさんならって納得してたかな。変なのと思ったけど」
「そうかな」
「カーヴェさん、体そんなに丈夫でしたっけ?」
「蘭さん鋭いな。体調をよく崩していたよ」
「やっぱり! うう、休んでください」
「こっちに来てから一年、ずっと小さな仕事だけにしてるから、休んでるさ」
「仕事人間なんですねえ」
「そうなの!」
「そうだね。園子さんも小さな依頼ならぜひ」
「だめです!」
「蘭の友達として、控えておきます」
「うーん、手厳しいな」


・・・


「森林火災の前後での人の移動が知りたい……」
「コナン君、それ、どのレベルで?」
「世界規模」
「無茶を言わないでくれ」
「わーかってるよ! ああもう、ダメだ俺の手に負えない」
「名探偵とはいえ、一人の人間なんだから」
「あくまで俺は東の名探偵なんだよなあ」
「落ち着いて」
「悔しい」
「コナン君が悔しがると何かしそうで怖い」
「悔しい!!」
「分かったから。まだ覚えてないミステリ小説でも読んでようね」
「うううう」


・・・


「あれ? 安室さん、お疲れですね」
「あ、カーヴェさん。そうなんですよ、くたくたで」
「梓さん、安室さんの休憩にしてください」
「はあーい!」
「え、えっ?」
「少し休もう。店内だけどね」
「はは、じゃあ少しお喋りしてくれますか?」
「寝たりしてもいいんだよ?」
「カーヴェさんがいるんだから話します」
「食い気味だな……ええと、お眼鏡に適う話ができたらいいんだけど。寝かしつけるなら建築学を語ろうか」
「やめてください。でもあなたの講義を一人で受けるかと思うと贅沢ですねえ」
「そうかな?」


・・・


「何をしている」
「沖矢さん、落ち着いて。赤井さんが出てる」
「アレはダメだろう」
「安室さんのこと?」
「アレはダメだ。カーヴェ君」
「いや無茶だよ。僕としては蘭さんたち一般人と関わりが深いから、心配だよ、どちらも」
「……」
「いや私怨だったりする? えっ、何があった、のか、聞いても大丈夫なやつ……?」
「君なら聞いても平気だろう。君はFBIの客人だ」
「機密ってことだろう! やめてください」
「例の彼と同居する予定なんだろう?」
「機密の意味!」
「君はほぼFBIの一員だからな。日本の公安に近づかれては困る」
「だからそれほぼ私怨っぽく聞こえる」
「……」
「沈黙は肯定なんですよ」


・・・


「アルハイゼン、赤井さんが変」
『赤井と降谷はただならぬ因縁がある』
「サラッと言うなあ。元素は?」
『関係しているが、そのことを二人は知らないな』
「ああもう」
『あと五ヶ月か四ヶ月程度で俺が行く。それまでうまくやればいい』
「無茶を言うな! 扱い要注意だろ!」
『君は正直その二人を引き付けているだけでも助かる。名探偵まで引き受けているからな、あのお方がご満悦だ』
「草神様ぁ……」
『俺としてはさっさと身バレでもして安室に距離を置かれろと思う』
「なんで勝手に私怨持ってるんだよ」
『トラブルの元でしかないからだ』
「まあ近い未来の同居人にトラブルがない方がいいよな」
『……』
「無言やめろ」
『汲み取れ』
「無茶言うな!」


・・・


「カーヴェさん」
「やあ園子さん。ご依頼かな?」
「う、えっと、話があって」
「うん」
「蘭には、言わないでください。鈴木財閥の令嬢の一人として、来ました」
「素直でよろしい。聞くよ」
「ごめんなさい……」


・・・


 鈴木財閥、新施設セレモニー、ビッグジュエル。怪盗KIDを呼び出したい。怪盗KIDの対抗馬として、KIDキラーのコナン君。
「……どれだけコナン君の暇を潰せるかな」
 怪盗KIDについて何も知らないが、KIDキラーとしてしばらくは暇つぶしをしてほしい。だけど。
「なんか引っかかる」
 怪盗KID。


・・・


「愚者とは愚かなだけの者でしょうか」
「……ここにビッグジュエルはないよ、ええと、怪盗KIDかな」
「失礼。あなたを必要とする人がいまして」
「怪盗KIDは人攫いはしないと思う」
「あなたと利害は一致するでしょう?」
「……えっ、とお、」
「KIDキラーも、鈴木財閥も、毛利蘭も、安室透も、沖矢昴も。何もかも、あなたさえ攫われたら、目を引ける」
「うーん、どこまで知ってるんだい?」
「さあ? ただ、あなたは魔女の血を引いてますね?」
「それは、そうらしいね。僕は魔女のことを何も知らないけど」
「こちらの魔女があなたを気にしてます」
「……分かった。攫われようか」
「同意が得られて嬉しいです。カーヴェ様」
「やめておくれ、カーヴェさんとかその辺でいいから」
「はい、カーヴェ様」
「はああ」


・・・


「は? KIDがカーヴェさんを攫った?」


・・・


「は? カーヴェが怪盗KIDと接触した?」
「そうね」
「アイツは何してるんだ……」
「まあ、いいことよ。怪盗KIDを調べてみてご覧なさい」
「元素関係ですか」
「もちろん。FBIには無理だわ」
「ああ……」
「察しがいいわね。ふふ」
「だとしたら今生のカーヴェに混ざる魔女の血が?」
「魔女側の動向を見てみましょうね」
「……わかりました」


・・・


 深い深い森の奥。カーヴェは日本の奥地で本を読む。仕事を完全に取り上げられた休暇だと思うことにした。
「カーヴェさん! ラムネもらった!」
「快斗君、学校は?」
「行った!」
「ならいいや。ラムネなら貰おうかな」


・・・


「……鈴木財閥がカーヴェさんに依頼したの」
「そんな、」
「それでカーヴェさんがKID様に攫われたとしたら、私達鈴木財閥の責任になるの」
「それって!」
「カーヴェさんは世界的な建築業界の星よ。もし、カーヴェさんに何かあったら、でも、KID様がそんなことしないと、思う。だからKIDキラーのコナン君に話してるの。蘭は、カーヴェさんと友達だから、話さないと」
「人一人攫われても、警察もマスコミも何も発表しないには理由があるわけだね」
「そう、この件で誰かが責任を取ることになったら、どれだけのことが起きるか」
「カーヴェさんは無事だと思うよ。ただ、むしろ、」
「「むしろ?」」
「いや、えっと、気に入られてそうだよね」
「ああ……」
「カーヴェさん、人がいいもんね……」


・・・


「森林火災が気になるんだ?」
「こっちの魔女は火を扱う。だから、すごーく気にしててさあ」
「僕は残念なら火は扱わないなあ」
「それは本当っぽいね。じゃあ、今回の世界的連続森林火災への見解は?」
「僕はただの建築デザイナーなんだけど」
「特にないの?」
「まあ、魔女ではない、としか」
「ふうん。オレもしかして利用されてる?」
「僕を利用してるのはそっちだろう?」
「そうだけど、もう少し焦らない?」
「うーん、休暇だと思ってる」
「図太いね」
「そう思い込まないと気が狂いそうだよ」
「うわ、ごめん」
「謝られてもね」


・・・


「絶対に公には捜査できないけどカーヴェさんが日本で何かあったら国際問題なんだよ」
「安室さーん、落ち着いて」
「誰がやった?」
「いや、たぶん怪盗KIDが連れ去って、そのまま安全を保証してると思う」
「その理由は?」
「だって、カーヴェさんに何かしたらマズイのは怪盗KIDもでしょ?」
「……犯罪者だぞ」
「でも怪盗KIDなら丁重にもてなしてそうだよね」
「知らない」
「安室さん、落ち着いて。それよりも森林火災の話知らない?」
「何で君がカーヴェさんの心配をしてないんだ」
「だから、まあ、怪盗KIDだから?」
「分からないな」


・・・


「ビッグジュエルー」
「鳴き声みたいに言われても」
「カーヴェさんーオレ疲れたあ」
「何か料理でも作ろうか?」
「ほしい! いやそうじゃなくて」
「ビッグジュエルならいくつか博物館とか建築デザインしたけど機密は言わないからね」
「分かるけど! そうじゃなくて」
「何?」
「カーヴェさん、ビッグジュエル似合うよね」
「やめてくれ。嫌な予感がする」


・・・


 カーヴェの無事を保証するために怪盗KIDが出した写真が芸術的すぎる。
「え、ビッグジュエルとカーヴェさんの組み合わせ、すっごい綺麗……」
「そーなのよ。そうじゃないのよ」
「あ、うん。いや、無事を保証するならいいかなって」
「これが世界的に発表されちゃって、もう隠せないのよ」
「園子お姉ちゃん、鈴木財閥はどーするの?」
「まずKIDキラーを雇う」
「ははは、なに?」
「まずKIDキラーを雇う。お願い、コナン君!」
「ボク、帰っていい?」
「「ダメ!!」」
「蘭ねーちゃんまで……」
「だってコナン君、あのカーヴェさんが多分今仕事してないんだよ」
「それはまずいね」
「そこなの?」


・・・


「風見ィ……」
「ヒィッ」
「建築デザイナーカーヴェを探せ、痕跡ひとつ逃すな」
「は、はいっ」


・・・


「コナン君」
「沖矢さん、赤井さんが出てる」
「察しているだろうが、カーヴェ君はFBIにとって上等な客人だ」
「うん、そうだろうね」
「あえてさらに言うなら、約半年後にカーヴェ君と同居する予定なのはFBIの非戦闘員だ」
「え、マジで?」
「よって、カーヴェ君に何かあったら」
「ちなみに例の写真については?」
「カーヴェ君にモデルしてもらおうと各国の大手ジュエリーブランドが企画してる程度だな」
「一般人映えと、各国の警備への挑戦状かあ」
「不快だ」
「赤井さんが出てるよ」


・・・


「本当にアラサー?」
「僕の肉体については親譲りとしか」
「本当にアラサー??」
「写真撮ったの、快斗君だろうに」
「いやだって、オレ、この手にはど素人だぜ?!」
「うーん大手ジュエリー会社たちから依頼の連絡が止まらない」
「そのスマホ何?」
「僕の居場所がバレるようなものじゃないよ」
「それは調べたけど」
「依頼は来る。建築の仕事したいなあ」
「させないけどな?!」
「うん。はあ、気が狂いそう」
「ごめんて」


・・・


『カーヴェ、よく気を引いた』
「うん。もういいだろ?」
『旅人が駆け付ける』
「良し。あー、仕事しよ」
『手柄は、イギリス魔女とする』
「いいよ。一番、誰も何も言えない。というか、僕も魔女界は知らないんだけど」
『最後の一仕事だ』
「僕のやることはないけどね」
『普段通りにしていろ』
「頑張るよ」


・・・


「「カーヴェ、来たよ」」
「カーヴェ! 大丈夫かあ?!」
「旅人たちありがとう。さて、帰ろうか」


・・・


「あー、やられたかあ。まあ、そろそろ迎えはくると思ったけど」


・・・


「イギリス魔女側からの受け渡しってあなた?」
「やあ、ええと、あなたは?」
「ボクは世良真純かな。ママからの指示だよ」
「ありがとう。家に帰してくれればいいから」
「うん、乗って」
「あ、このバイクいいね」
「でしょ」


・・・


「カーヴェさん!」
「カーヴェ君」
「うん? まだ帰宅して二時間……」
「赤井さんが監視してたから」
「あの子と帰宅しただろう」
「ああ。世良さん?」
「世良さん?!」
「英国との関係強化か……」
「え、知り合い?」


・・・


「カーヴェさんさあ、少しは反省して」
「コナン君落ち着いて。ああもうこのメールもモデル? 僕は建築デザイナーだ!!」
「カーヴェさん仕事の手を止めて、話を聞いて」
「ごめん早く連絡しないと勝手に話が進むから」
「カーヴェさんが俺の話を聞いてないんだよ」
「蘭さんに無事は伝えたから」
「メールだけだからすごく心配してるよ」
「まだ依頼が膨大でね、ああもう、僕は建築デザイナーだ!!」
「うわあ」
「いつになく苛立っているな」
「カーヴェさんの素としてはこっちだよ」
「そうか。それを知るのは?」
「んー、蘭と工藤家? あとは、例の同居人さんとか?」
「公安は?」
「知らないんじゃない?」
「フッ」
「めちゃくちゃ優越感に浸ってるところ悪いけど、カーヴェさんを止める手伝いしてよ」
「やめておこう。仕事はせねばならない」
「うわあ」


・・・


「灰原さん、こんばんは」
「っ、カーヴェさん、あなた、」
「ええと、これは心配かけたであろうお礼っていういうか、たぶんコナン君が無茶振りしただろう? 謝罪かな」
「お菓子? ありがとう、いいの、無事なら……」
「心配かけたね」
「本当にっ、ああもう、あの写真は断らなかったの?」
「いや、犯人にとっても頼まれて、まあ、仕方ないから」
「安全の保証にはなったわ。怪盗KIDが秘匿しているビッグジュエル達と並んでいたら、あなたはつまり、怪盗KIDにとってビッグジュエルと並ぶ価値のある人」
「まあそうなってしまうよね。犯人としては、ビッグジュエルと写真撮ったら映えそうだよね程度の話だったんだけど」
「何なのよ……」
「いや、犯人も焦ってたよ。ここまで写真が飛び交うことになるとは思わなくて。僕もモデルの話が何本も飛んできててとても迷惑だよ」
「だったら止めておいてほしかったわ」
「いや、一応攫われてたし」
「悪質……」
「まあそうだよね」
「あと、世界的に森林火災が有耶無耶になって、いつの間にか森林火災が起きなくなってるの。江戸川君はあなたの対応で気が逸れたみたいだけど」
「そう」
「あなた、何をしたの?」
「何もしてないよ」
「そうでしょうね」
 あなたは、ね。灰原の指摘に、カーヴェは曖昧に笑っただけだった。


・・・


「やあ安室さん久しぶりだね」
「カーヴェさん! ニュースになってましたね!」
「あーうん。あの写真ね」
「誘拐されていたとか」
「誘拐だけど」
「怪我は?」
「何もないよ。モデルの仕事が舞い込んできてて、断るのに苦労してるぐらいかな」
「モデルはやめておいた方がいいですよ」
「うん。僕は建築デザイナーだからね」
「……無事で良かったです」
「心配かけてごめんね、安室さん」
「はい」


・・・


 愚者とは愚かなだけではない。それ即ち、無垢である。それは愚かな側面だけではない。
 愛しておりました。
「愛は無垢なままではいられない」
 愛しておりました。花の香り、地獄の底。火の中で、ずうっと、ずっと。
「神は見ている」
 旅人たちは切り伏せた。パイモンは、目を伏せる。


・・・


━━ 「大好きだよ、僕は、君の事が」

 アルハイゼンは夢を見た。夢を見て、起きて、分かる。
 カーヴェの見目はものすごくタチが悪い。

「アルハイゼン、すこしいいかしら?」
「はい」
「今朝、夢を探ったのだけど、おそらく、カーヴェに混じった魔女の血が元素と共に世界的な影響を与えたわね」
「集団認識が、アビスの魔術師を呼び出す原因となったと」
「カーヴェは助けを求める人を、助ける。そして彼らが毒を喰み、カーヴェに牙を向く。その上で、カーヴェにやがて恵みをもたらすことになる。ええとこれはね、言うならば犯人は」
「カーヴェだった、と」
「原因を論ずるならば、ね」
「ただ、今生のカーヴェに混じった魔女の血さえなければ何事にもならなかった」
「そう。でも、カーヴェは魔女の血を受け継いで生まれたの」
「厄介な」
「この世において魔女達の扱うものは元素とはまた別よ。モンドの魔女も把握できていない」
「対立は?」
「おそらく元素側も魔女側も避けるわ」
「拮抗状態だと?」
「そうするしかないの。どちらも世界の裏側なのだから」
「……まったく、厄介な」
「探偵たちが動いているわ。この世において探偵とは真理のかけらを手にしている。特に名探偵は……工藤新一は、その中でもトップクラス。そして、不可思議の影響を一切受け付けない」
「元素も、魔女側の力も、彼には無意味と」
「そうなるわ。探偵たちは基本的に不可思議をあまり受けつけないけれど、彼は特別、無効化する」
「元素側も魔女側も、彼の動向を気にするしかない」
「とすると、この世界のキーは確実に工藤新一ね」
「……それがカーヴェと深く関わっている、と」
「厄介よ。何せ、カーヴェが守りたいものに、工藤新一が組み込まれてしまっているわ」
「厄介な」
「とりあえず今回の集団認識、ええと、そうね、いうなれば集団幻覚はとりあえず止まるわ。魔女側も元素側もできることはした。残りはするけれど、これ以上おなじ幻覚が増えることはないはずよ」
「この、言うなれば強烈な催眠は、どの程度の人々が見たことになる?」
「それは調べても調べがつかないでしょうね。皆の心の奥底に、愛の種は根付いたわ」
「……」
「面倒そうね?」
「俺もさっき見たので。俺は分かるのですが、」
「ええどうぞ」
「アレはとてつもなく、タチが悪い」
「ふふ、そうでしょうね。愛されたい、認められたい。それが人間だもの」
「それを肯定された。カーヴェの形で」
「あれはカーヴェではないということ?」
「カーヴェは聖人君子ではない。誰にでも愛を振り撒くわけでもない。牙を向いた悪には相応の対応をとる」
「そうね。ならば、これは、とっても厄介なことが起きるわ」
「愛されていると誤認した者たちの暴走があるでしょう」
「まあまあ、たいへん」
「あれはひ弱だ」
「強いわよ。とてもね」
「ひ弱です」
「なら、そういうことにしましょう。ふふ、今生のあなたが暗部に徹してるからかしら、カーヴェがとても星として動くわね」
「あれは星などではない」
「ごめんなさいね」
「いえ」
 とにかく、厄介である。


・・・


 深層記憶。集団幻覚。集団認識。集団催眠。

 愚者とは常に無垢の面を持ち得ている。

 人はすべてが無垢である。

「神はその類ではない」

 神の目はカーヴェの手の中にもある。


・・・


「モデルの依頼は受け付けていません! 受けて! ない! ああもう!!」
「カーヴェさん、とりあえずメール処理、終わりそう?」
「コナン君、相手が何人も、ものすごく諦めが悪くて嫌だ。僕はもう嫌だ……くそ、やっぱり僕の人生は最悪なんだ……」
「ああ……」
 こりゃしばらくダメだな。コナンは苦笑したのだった。


・・・


タイトル:愚者のロンド
ジャンル:クロスオーバー/名探偵コナン/原神
要素:事件、なんちゃってミステリー風味、不可思議、元素はある


カーヴェ…建築デザイナー。休暇として一年前から日本に来ている。草の神の目持ち。イギリス魔女の血が混じっている。全くもって聖人君子ではない。普通に人が嫌いになる時もあるし、人生が嫌になる時もある。
メラック…万能スマホ。元素で動いてる。

江戸川コナン…小学生。名探偵。不可思議(元素も魔力も)を無効化する。
沖矢昴…大学生。FBI。赤井秀一。カーヴェはFBIのもの。
安室透…探偵。喫茶ポアロのアルバイト店員。公安。バーボン。降谷零。カーヴェは日本人。

灰原哀…小学生。
阿笠博士…発明家。

毛利蘭…高校生。
鈴木園子…高校生。鈴木財閥の令嬢の一人。

世良真純…???

怪盗KID…快斗。今回の誘拐事件の依頼主はいる。

アルハイゼン…FBIの非戦闘員。草の神の目持ち。カーヴェは人間。
ナヒーダ…???

旅人…双子揃っている。パイモンもいる。元素案件担当。神の居場所を把握している。

七神…ナヒーダはFBIと共にいる。彼女以外は現在不明。どっかにいる。

魔女界…まじ快要素。カーヴェ母はイギリス魔女。

- ナノ -