そうしてわたしは番を得た。03→n周目の璃月編上


!gnsn夢!
すみません、夢主の名前は固定です。
ただ、夢主本来の名前は出てこないので正しく言うとネームレスです。

!女主ですが性別は適当です!
わけあって変更できる。
今回は女性バージョンのみです。

!恋愛夢では今のところない!
仲良くはなる。仲良くなれないこともある。
恋愛する可能性あるのかこの夢主……?
無計画で書き始めたので全く考えてなかったのですが、誰夢か、になるなら鍾離夢か旅人夢か創作夢しか今のところ可能性が無い。
やや鍾離夢優勢かもしれない→いや今回すごい蛍ちゃんが押してくる。
あと旅人からの感情がだいぶギリ。旅人(蛍)夢っぽさがある。

!夢主がキャラから敵対、不和、警戒などの感情を向けられることがあります!
これは〇〇マイナスってやつか?

!カーヴェ愛され!
捏造だよ!!!!今回でないよ!!ただ夢主が心の中でめちゃくちゃ愛してる。恋愛感情ではない。

!ちっちゃいカーヴェを擬似母として愛している夢主です。恋愛感情ではない!
1周目の記憶なんてだいぶ薄れたはずなのに、それでもカーヴェとの思い出を大切にしてる。一つも忘れていない。テイワットで、幸せになってほしいと願い続けている。

!カーヴェも夢主を母だと慕います。恋愛感情はない!
記憶は消えたが。

!そもそも夢主がろくでなし!
人外。

!自作一次創作の設定集から夢主の設定を練ったのでそれなりにイロモノ夢主です!

!細かい設定はゆっくり書いていきます。何せ作者は設定だけ作って満足する設定厨だからです。つまり、一次創作設定が、膨大!

!カーヴェはぎり人間です!

!カーヴェの設定はふんわりしてます。何故ならカーヴェは実装前だからだ!

!テイワット周回n回目夢主です!

!一応異世界転移系ではある!
夢小説用語のトリップ夢……でもあの、特殊設定なので……原神知識もほぼ無い夢主なので……なんか生前とか転生とかあるんだなぐらいで……無計画なので……。

!無駄に長い!
字数。

何でも読める方向けでしかないです。


・・・


 というわけでアタッカー二人、サポート私、パイモンは賑やかしである。
 ガイアさんは目が死んでいた。今までの周回でここまで目が死んでるガイアさんは見たことないので、壺で泊まる際は酒を渡しておいた。流石に、年下の人の子の、普通ならよく喋る人が、死んだ目してたら、好物ぐらいは差し入れようと思う。あとガイアさんが物理的距離を取ったり、探りも入れてこなくなった。今周の緊急発生事態はディルックさん治療事件だけだったので、おそらく、それで何かストレスがあったようだ。私はマジでその手の人生相談とか無理なタイプなので、いやこれは恋愛アレルギーではなく、色んな意味で人の心がないので相談事は蛍さんと空さんとパイモン案件にしてるんだ。
 なのでとりあえずという壺で食事の際に酒を渡すという謎の日課ができた。ちなみに私は酒の味が分からんので、異世界産の有名所のお酒を渡している。好みは知らんので種類はランダムだ。人生ガチャだと思っておけ。
 ああそう、瑠月に行くまでにモンド内での戦闘を当然挟む。故の冒頭だ。蛍さんは今回も私が戦えることを隠しておきたいらしいし、パイモンはサポートできるならそうしてくれと言うし、私としてもまあ余力はあった方がいいよなと思う。知ってるか、あれだけ働き者ばかりのアリの巣(コロニー)でも一定数の余力があるんだ。
 つまりだ、ガイアさんは私が戦えることを知らない。蛍さんが強いし、ガイアさんも当たり前に強いし。私のスキル想像の効果を体感し、発動条件も知ったガイアさんはサポートキャラだと誤認こと勘違いしてくれました。まあ間違いでは無いが。
 ちなみに壺は相変わらず稲妻風旅館だが、部屋は数個作られた。そういや、これ制限とかなかったか?妹が制限に泣いてた気がするんだが。周回してて自然と増えていく屋敷とかなんかすごい建物群に今更気がついた。
 そんなようなことを蛍さんにテレパシーで聞いたら、テレパシーで、いやオーブランが出現したからだよと言われた。なるほど。番の仕業か、もしくは私の創造主の力と相性が良すぎたなこれ。
[ちなみに、今更、気がついたの?]
[だいぶ前の周回からだったなこれ]
[うん]
 全然気が付かなかった。

 かくして何日かかけて移動して、璃月港である。
 さて。
「では蛍さん、頼みました」
「いいよ」
「ん? 分かれるのか?」
「別の宿に泊まるだけですよ」
 微笑む。パイモンはそうなのかと不思議そうだ。ガイアさんはただならぬ様子に察してくれた。最近やっと目に光が戻ってきた。人の子よ、健やかであれ。酒は適量がいいらしいが。
「安心してください、瑠月の外には出ません」
[モラ稼ぐよ!!]
[ごめん。出来るだけ大量に欲しい]
[毎回恒例だから分かってるさ]
 ということで、賑やかな瑠月の港に私は気配を消した。


・・・


「なあ、旅人」
「やっと元気になってきたね。オーブランのお酒で元気になった?」
「まあ、全くラベルの字が読めん謎の酒ばかりだったが、香りと飲み口でどんな種類かは何となくわかったぜ。あれ、どれもかなりの上物だろう。あと彼女、酒は飲めない。で、合ってるか」
「いや、それは、」
「そういやオーブランは酒飲んでなかったなあ? オイラ飲んでるとこ、見たことないぞ」
「飲めない、じゃなくて、水ぐらいに思ってる。酔わない」
「あー、そうじゃないんだ。いや、持ってくる酒に統一感が無くてな、感想も必要としてないだろう。合ってるか?」
「うん。人外だからね、人の慰め方が分からなくて、置いてるんだよ」
「で、あと、なんだが、彼女を、一人にして良かったのか?」
「多分戦闘が必要なところには行かない」
「多分?」
「うん。まあ、そのうちね」
「オーブランは宿にアテがあるのか?」
「あると思う。とりあえずしばらくはコンタクト取れないから」
「そりゃ、」
「私たちは人探しと勧誘と冒険者協会依頼のお手伝いかてね」
「構わんが」
「ヒント。私たちがここにきた理由。シールド、槍、先生」
「……鍾離先生か? 悪い人では無いだろう、むしろ穏やかだし、人離れはしているが、無理にオーブランに話しかけたりするタイプではないだろ?」
「思い出して欲しいんだけど。オーブランは男性恐怖症で、特に年上男性がダメ」
「……つまり」
「鍾離先生は全部の地雷を踏み抜くよ。あとね、やったねガイア。オーブランに拒絶すべき異性ではなく、多分年下の哀れな人の子ぐらいには思われてるよ」
「……」
「目が死んでるぞ??」
「悪趣味な番とやらに巻き込まれたく無い」
「大丈夫か、ガイア??」
「まあ、夫婦の……、馬に蹴られたく無いわけかあ」
「あと、絶対に番ってやつは悪趣味だろう」
「殺意仲間ができて嬉しいよ」
「そこまでは言ってないんだがな??」


・・・


 民家はある程度把握している。とはいえモブばかりなので、そっと聞き耳立てながら、民泊させてもらえそうな老夫婦を探す。何周かしてるとモブの家とか所在地って何故か変わったりするんだよね。
 ということで、目的の家に辿り着く。ああ、いる。老夫婦だ。周回のたびにお世話になっている。
「ごめんください」
「はい、おや、モンドからのお客さんですか」
「分かりますか」
「老いた目、老いた体でも、感じられます。自由の風の匂いですよ」
「はい。民泊させてはいただけませんか」
「お嬢さんを、ですか? ですが、私では……」
「あの、失礼ですが、旦那様は?」
「昨日から床に伏せておりまして、薬をもらわねばと……」
「モラが入り用ですね」
「そうなります。ですから」
「私はこれでもモンドから来た冒険者です。腕は立ちます。モラを稼ぎ、民泊に必要な金額に上乗せして薬代も出します。台所仕事も空き時間にできます」
「ですがそれは」
「契約をさせてください。私にどうか雨に打たれぬ屋根と、温かな愛情を。そして、私はモラを支払いましょう」
 璃月式の契約のようなものだ。口約束だが、目が老いた老女は、もしやと口にした。
「あなたは……」
「璃月は人の優しいところだと、聞きました。さっき着いたばかりですが、とても活気のある、良い港です」
「ありがとうございます。元は商売をしていたもので。他の国の方に褒めていただけると嬉しいですね」
「はい。契約を結んでもらえますか」
「爺さんにも合っていってくれますか」
「喜んで」
 私は床に伏せた老人を見る。情報開示。情報はほぼ無い。モブなので。でも、床に伏せていた理由が分かった。薬を飲めば治る。
「薬はどこで?」
「不卜廬にて、いつもかかっています」
「分かりました。どこにあるか教えてください」
「ですが、それは」
「安心してください。私はモンドの冒険者です。本当は契約なんてよく分からないんですよ」
「……ありがとうございます」
 というわけでさくっとお使いだ。
 老夫婦の名前と症状で薬はもらえた。モラをきちんと払っておく。
「あの老夫婦の元に間借りするのだね」
「はい。よろしくお願いします」
「素直な良い子だ」
 これは嬉しいものだ。あ、七七ちゃんかわいい。

 とりあえず老人に薬をゆっくり飲ませて、看病を老婆と行う。お婆ちゃん、お爺ちゃんと呼ぶことにした。夕食を作って振る舞ってる際に呼ぶことの許しを貰いたいと告げると、出来る限りの助けとなりましょうと頭を下げられた。目の見えない彼らに私の姿は見えない。たとえ老いて体に不調があったとしても、私の愛しい人の子に変わり無い。
 とまあ、日常生活の手伝いをする。この老夫婦は基本的に介護は要らない。なので、重い物を持ったり、お使いしたりだ。もちろんネームドキャラには蛍さんと合流するまで会わん。
 空き時間は近所の子供たちと遊ぶ。ここは瑠月の港の中でも迷路の奥のような住宅地、といったところだろう。路地で子供たちの相手をする。子供は好きだ。大人たちは最初こそ不思議にしていたが、老夫婦の態度と、私の彼らへの献身、モンドからの冒険者という情報、その他諸々で、受け入れた。あと、子供とは地域で育てるものだ。少なからず、このコミュニティにもその意識があるのだろう。

 で、夜は老夫婦に心配されながらも、朝までには必ず無傷で帰りますと毎日正座からの頭を下げて、九寸五分を持って港の外のなるべく遠い場所を駆け抜けた。蛍さんと合流するつもりはしばらく無い。
 やはり今回は生き物たちが強い。モンド、瑠月と続けば、ガイアさんが同行したのはおそらくこれか、と納得した。各国で生き物たち強くなっている。元素生物は特に気性が荒くなっている。地脈、だったか。いや龍脈だっけ? 忘れた。とりあえず、エネルギーの流れ。あれが乱れてるんだろうな。なるほど、今回の【世界存続のための災厄】はそれがメインとなって各国を回ることになるわけだ。というか、前にも話したが、私が降り立ったのは災厄が起きる証なんだが、蛍さんはいいのだろうか。私を守ることは、自身の信頼を揺るがすかもしれないことだ。まあこの件については、蛍さんが【世界の天敵】である以上、覚悟しているのだろう。
 だったら、野暮だ。モラもある程度稼げたし、戦利品も得た。鞄は持って無いので、人里が遠く、誰も見てないのをいいことに創造主の力を使って想像、作成、四次元ポケット並みの容量の鞄のできあがり、である。今まで持ってなかったのは蛍さんに頼っていたからと、世界があんまり装備というものを好まないからだ。今回は私が作ったのでセーフである。え?神の目もモドキを作ればいい?そもそも神の目は神からの授かり物みたいなやつなので、厳密には違うけども、でもだとしてもぶっちゃけ神と繋がる証でもあるとして、番の嫉妬と独占欲で即破壊である。たとえ私が自ら使ったとしても結果は同じだ。これは周回の間に既に何度も試している。
 というわけで帰る。
 老夫婦はいつも起きて待っていてくれた。しかも明かりはなるべく落としてくれていた。周囲の民家への配慮である。眠たかったでしょう。そう苦笑すれば、二人は言った。神の目が、ありますので、と。
 そう、彼らを頼ったのはそこも大きい。彼らは昔授かった神の目、それも風元素のものを大切に身につけている。だから、目が見えなくとも気配に敏感だ。いまだに介護がいらないぐらいに自立している。丈夫なのもそれでだ。それでも老いる。床に伏せた、まあつまり風邪を引いたのは、老いからだ。
 私は神の目というものの本質をよく知らない。何周しても、知識しか溜まらない。便利なもの、というだけではない、大切なもの。この世界に生きるものたちの大切な証。らしい。だから、大丈夫なんだろうな。そう認識して、私は言うのだ。
「お二人は、強いですね」
「あなたこそ」
「ああ、そうだ。あなたのほうが、ずっとたくましいさ」
「ありがとうございます」
 私は頭を下げた。

 こんな日々が何日か続く。昼間は日常の手伝いと子どもたちの相手、夜には番の子たちを殺してモラを稼ぐ。正直、今後のことを考えるとモラはいくらあっても足りない。創造主の力で無限にモラを作成することも可能だが、このモラは私から他者に渡るものだ。金とはすべからく人の間を流れるものである。つまりだ、私が作成するにも、そのモラにはきちんとした理由付けなどの設定を決めねばならない。額が大きくなればなるほど、そう、である。何が言いたいかと言うと、そんなことにリソースを割くなら敵を殺してモラを稼ぐというこの世界の規則に則ったほうがとてもとても効率的なのである。創造主の力を振るうこは、万物の作成であり、それはつまり制限の作成なのだ。条件を整え、情報を詰め込まねば、存在とはなかなか作れない。
「モンドのお姉ちゃん!」
「おねーちゃ、おはなし!」
「ねえねえお使い? ぼくもついていく!」
 子どもたちは私が老夫婦の家から出てくるのを見つけるなり、遊ぶのをやめて駆け寄ってきたり、家を飛び出してくる。家人たちはお嬢さんよろしくね、とか、洗濯の間預かっておいてくれ、とか、お使いをこっちからも頼めるかいと次々に言う。なんか今周は特に馴染みすぎでは? まあ、情報開示したところ、全員がモブなので大丈夫だろう。多分。
 あ、ちなみに彼らからモラは受け取っていない。代わりに食材や瑠月の知識、生活の知恵などを教えてもらう。これは正直モラを渡されるより有難い。この辺の設定は私が作っていない。番たる世界が誕生し、番が大きくなる中で、形成されたもの、つまり、番の作り出した設定といえる。私はその情報に何の権限も持たない。だからこの細かい設定を知るには本来なら番に情報開示を要求しなければならない。ここで私の唯一ともいえるプライドだ。番には頼りになる姿をなるべくなら見せたい。以上。頼りたくないんだ。あとやっぱり原神を遊んでないからな!!
 そもそもこの辺りに住むモブたちに資産はそう多くない。モラは払うのが厳しい。なので、私としてはそれはもう対等な等価交換である。お互いにリスク(負担)が少ない。素晴らしい。まあ、モブたちに少しは思うところがあるようだが、大事にはならんだろ。知らんが。あっても私が何とかする。
 ひとまず付いてきたいとせがんだ子ども二人を連れて住宅地を進み、港に行く。この距離はとても近い。で、お使いとして買い物をする。モブが日常で他人にお使いを必要とする買い物など、簡単なものばかりだ。なお、子どもたちは私がモンドの冒険者であり、瑠月のことをあまり知らないことをよく察しているので、というか隠してないので、あれこれ教えてくれる。なお商品の相場は周回したので分かる。露天の商人から食材を買う。なお、ここまでにおいて誰もが分かっているが私の名前は誰も知らない。モンドからの冒険者。それだけ。でも簡単なお使いの取引に名前なんて必要ない。必要なのは等価交換だ。
 だがまあ、と思う。食材にしろ何にしろ、日常必需品の値段が他の周回より高騰、までではないが、高くなっている。そのことに今日は商人がこっそりと子どもたちに聞かれぬように教えてくれた。
「流通が滞ってんですよ」
「そうですか……モンドも値上がりしていました」
「そちらもでしたか。原因はご存知ですかい?」
「あなたもでしょう」
「ええ。冒険者さんの方が知ってるでしょうが……、この間も一つの商隊が、壊滅に」
「……どの辺りですか」
「冒険者さんとはいえ、一人じゃ行かん方がいい」
「すみません。少し、取り乱しました」
「いや何、少しでも解決しようと思ってくれただけでいいさ」
「弔いは?」
「行かんでくれ。頼む」
「……余所者ですが、亡くなった命を弔うことは、必要です」
 私は鞄から地図を出した。瑠月のもので、買ったばかりだ。流石に子たちが不思議そうにしている。商人はしばしの無言の後、震える手て場所を指差した。子どもたちに記憶される前に印をさっとつけて、くるりと鞄に仕舞った。
 商人は頭を下げた。子どもたちが不安そうにした。だが、商人は構ってられないのだ。
「妹がいたんでさあ」
「……働き者でしたでしょう」
「ええ、とても、とても……」
 この商人は裕福ではない。ただ、露天を開ける幸運はあった。それだけのモブだ。手が、働き者の、それだった。

 子どもたちを不安がらせないために、商人にお使いだけではない買い物をした。察した商人は、震える手で私から対価のモラを受け取った。本当は受け取りたくないと目が訴えている。だが、これは等価交換だ。瑠月の契約は、創造主に関係無い。まあ、契約が交わされたらそれなりに効力はあるんだろうが。その辺は知らん、というより、1周目の思い出が蘇る。鍾離さんは瑠月の契約を私と交わした。結果が、記憶を失ってもカーヴェを守る行動を、周回全てにおいて行うことに繋がった。契約はささやかな上、契約に使った名前は、愛しい子のカーヴェがつけた、1周目だけのだった。無自覚故に、鍾離さんは契約に気が付かない。無意識のはずだ。律儀というか、何と言うか。そのあたりは有難いし、助かる。だからと言って年上男性であるが故に嫌悪の対象だし、あの声と、紡ぐ言葉は、嫌いだ。
 子供たちと住宅地への帰路に着く。不安そうなので、いつもなら子どもたちがそれなりに集まらないとしないことをした。物語だ。物を語る。テイワットにおいて、物語は大変な意味があるようだ。よく分からんが、神クラスの伝説、逸話を諳んじられるモブも多い。なのでまあ、モンドの冒険者が物を語るぐらいは不自然ではない。
 ただし、私が物語るのはテイワットの話ではない。元々、私が生きていた場所で身につけた各国の逸話、伝説、伝承、叙事詩、etcである。これでも大卒である。専攻は日本文学だったが、ぶっちゃけ各国の物語を誦じられるぐらいには各地の図書館に通い、記憶した。基本的に本が好きで、その中にある物語が一等好きなのだ。まあ周回していたら物語に没頭できなくなったが。やることが多いので。
 今から語るのはイギリスに伝わる民話だ。
「これはゴボン・シーアという男の物語です」
 ゆっくりと、子どもたちの疑問に答えながら歩きながら語る。家族を大切にする、大体そんな話である。愛しい妹たちにもせがまれて語ったことがある話だった。
「ほんとうにジャックはおおきなおしろをたてたの?」
 物語の終わり、子ども達は言った。ゴボン・シーアの息子、ジャック。
「きっと、本当に大きな立派なお城を建てたのでしょうね」
 ジャックは幸せに暮らしたのだから。

 とまあそんな事を語ってゆったり歩いている間にネームドキャラとすれ違ったのである。鍾離さんではない。タルタリヤくんである。
 ちなみに私はタルタリヤくんが好きである。本来の名前?あっはっは。ぶっちゃけ忘れた。だが、このタルタリヤくんには正直毎回愛おしさが込み上げる。何故なら!目が!愛しい妹の一人とよく似てるのだ!!
 あの目は本当に良い物だ。蛍さん、PT勧誘してくれないかな。何周しても、蛍さんも空さんも、なかなかタルタリヤくんと私を同じPTにしたがらないし、なんなら会わせたがらないけど。悲しいな。戦闘に思い切りがあるのもいい。これに関しては戦闘狂仲間だと勝手に思っている。機会があって、戦うと素晴らしく楽しいんだ。本当に。楽しすぎてうっかり殺しそうになるからその際は蛍さんなり空さんなりに止めてもらっている。タルタリヤさんと相棒らしいし、タルタリヤさんの命を守るためと都合がつくので私をちゃんと止めてくれる。あ、タルタリヤさんを実際に殺したことはない。私の基本方針は『全員生きろ』である。ネームドキャラ全員に言ってんだぞ、おい。生き急ぐな。数名頭に浮かぶ。私がテイワットに立つのは全てのストーリーが片付いてからであるので、私が降り立つまでに死んだネームドキャラについては本気で弔いに行くだけにしている。私が降り立ったからには『全員生きろ』である。だがまあ私というか私と番は厄災であり、世界という番は創造主に対してそれはそれは嫉妬深く独占欲に溢れてるので、番がよく殺すんだよなあ!!今回の第一のターゲットはディルックさんであった。毎回手は尽くす。今回は助かって、よかったものである。
 でさーーータルタリヤくん。子供たちをチラッと見てたよーーー、私は視界に入れなかったっぽいので万々歳である。蛍さん、頼んだ。
 そういえば、タルタリヤくんは周回するたびになんかどの国でもわりと見るが、職業は何だっけ。専門用語だったから分からん、冒険者並みにありふれた職業にしてくれ。もしくは現代日本基準で存在する職業にしてくれ。ああ、成人した妹も死んだ目でよく働いていた。帰ってきて、抱きついてくるのをよしよしと撫でると嬉しそうにしたのが愛らしい妹であった。うう、妹、元気にしてるかな。今となっては二度と会えない。私は創造主なので。
 そんな感じで住宅地に着くと、世話になっている老夫婦にお使いの品を渡して、商人から買った小さな飴玉たちを子供たちや、大人にだって渡して回った。愛しい人の子たち。
 モブであれ、愛しい人の子に変わりはない。

 ということで夜。やることは一つ。壊滅したモブ商隊の弔いである。いつもの挨拶を老夫婦と交わして、窓から飛び降りる。あ、玄関は使わない。住宅地なので人の目が不安だ。モブしかいないと思うが。
 九寸五分を手に、あの商人が震える手で指差した場所に向かう。勿論、道中で戦闘し、モラは稼ぐ。


・・・


 書類に書類に書類仕事だった。タルタリヤは昼食を外で食べるという口実で瑠月の港を歩いていた。流石に気晴らしがしたい。戦いたいが正直そんな時間が取れない。何故かデスクワークが増えたね。何故かなんて簡単だ。各地の元素が活性化している。まあまあ事件が起こる。その事後処理書類が、タルタリヤに回ってくる。本来なら部下がやることだってあったが、何せ被害がバカなの?というレベルなのである。被害はファデュイだけじゃない。各国である。一般人も巻き込まれつつある。先日は商隊がひとつ壊滅した。商品がダメになった。人がたくさん死んだ。今更そんなこと、ではある。でも、文面だけでも嫌にはなる。
 ふらふらと歩く。とりあえずなんか食べよう。そうしていると子どもを二人連れた女がいた。手には食料を詰めた荷物がある。買い物だろう。食材も高騰しつつあるな。報告にあった。報告がなくとも分かるけれど。
 女は若い、だろうか。多分成人はしてる。茶色の腰までの髪を紐で結んでいる、目は淡い茶色だろうか。なにやら子供たちが不安そうに女の白いワンピースを掴む。白いワンピースだ。軽装だなあと思う。素足だし。いやなんで靴履いてないの?いや相棒も靴履いてないな。
 女は低めの柔らかな声で、瑠月の言葉をゆっくりと使う。他の国の出身だろう。瑠月に嫁に来たのだろうか。にしては、子どもたちの外見と似てない。子どもたちもお姉ちゃんと呼んでいた。というかこの二人の子も似てない。三人に血の繋がりはないのかな、
「不安にならなくていいんですよ」
「でも、」
「おねーちゃ……」
「じゃあ、皆の前では無いですが、物を語りましょう」
 物を語る。その言い回しが引っかかる。単語を間違えてるのか?
「これはゴボン・シーアという男の物語です」
 女はそこから、絵本を読み聞かせるように子どもたちへ語り始めた。家族の話だ。愚直な息子のジャックを、ゴボン・シーアとその妻が知恵と覚悟で救い、そして息子がお姫様の嫁を迎えて、新たな家族が幸せになる話。
「ほんとうにジャックはおおきなおしろをたてたの?」
 物語の終わり、子ども達は言った。ゴボン・シーアの息子、ジャック。
「きっと、本当に大きな立派なお城を建てたのでしょうね」
 女の声は夢を語るように、子供たちを愛しんでいた。
 行き交う人も、女の話に聞き耳を立てていた。名も無き市井の人たちは、仕事をしながら、女の話を噛み締めるように聞いていた。
 タルタリヤは自然と家族を思い出した。市井の人たちもそうなのだろうとわかった。
 て、待って。
 今の話、女の創作なのか?それにしては、語り慣れてるというか、違和感がある。だって、聞いたこともない物語だった。よくある話の展開、だと思う。でも、違和感が襲ってくる。不安がした。
「おねーちゃんはいっぱいおはなし知ってるね」
「はい。故郷の妹たちによくせがまれたので覚えたんです」
 女と子どもたちは路地へと、住宅地への入って行った。
 女の顔つきは、どこの国の特徴とも、当てはまらない。でも、特段の美人でも、可愛くもない。国籍不明、名前不明、謎の女。でも、子供達を、タルタリヤがよく知る家族の愛で包んでいるように見えた。
「……調べようかな」
 謎の不安が、体を埋め尽くしていた。


・・・


 夜に目的地に着いたわけである。徘徊していた敵の類は全て殺した。静かになった場所で荒らされた積荷と、十人ほどの死体を見つめる。商人と護衛の冒険者。こんなに人数がいるのは、自衛のためだったのだろう。だが、戦力が足りなかった。一人、一人の顔を見る。人間の区別は苦手だ。人の顔を覚えるのは苦手だ。それでも、脳裏に焼き付けるように見ていく。死に顔を、全てが苦しみに満ちたそれを。
 馬鹿だなあとは思わない。モブとはいえ、愛しい人の子。落ちている神の目のガラクタ。この中の誰かのものだろう。光はない。神に見放されたという判断なのか、まあ知らんが、兎に角。私は彼らを埋葬するべきか悩む。人としては行うべきだ。だが、埋めてしまったら、もう二度と彼らはその骨すら見つからないかもしれない。人里から離れ場所に埋められた死体は、数年後に発見されたら良い方だ。白骨化したぐらいなら良い方だ。
 埋めない。そう決めた。ただ、弔いと手向けをしよう。彼らの魂は既に世界の輪廻に乗っている。自分が死んだ事を、皆受け入れている。しょうがない。これが、この世界での、危険との隣り合わせの日常だ。しょうがない。
 花を摘んでたら時間がない。陽が明ける前に、弔いをしよう。
 手を組む。祈る神はいない。でも、手を組むと、胸に手が寄る。ふわり、ふうわり。私の魂のかけらがそっと出てくる。ほんのかけらだ。
 それを手で捕む。握りしめると、砕ける。人数分に砕いたら、それを花の形にする。白い菊の花。日本の花、尊い方の花、手向けの花。どうか、弔いになるように。魂がもうここに無くとも、この人の子たちの命を奪った原因は。
 私だ。

 花を遺体に一輪ずつ。全てを配置すると、踵を返す。これ以上は世界に影響を与えてしまう。女性の顔もあった。あの商人とよく似ていた。遺品は持ち帰らない。死体を漁る趣味はない。羅生門。あの老婆は、命のために死体を漁る。今の私は命に支障がない。それでいい。

 老夫婦は今日も明かりを暗くして待っていた。ただいま戻りました。窓から帰ると、二人はいつも通りにおかえりなさいませと言ってから、告げた。
「温かい茶でも飲みましょう」
 冷えたでしょう。二人は言った。雨はない。冷えてなどない。私の人格はまだ形がある。人の心はまだある。でも大部分が壊れた。体に冷えはない。心も冷えない。私は、外から多くの死を、見つめて、さらには与えてきたのだから。
「取り乱してすみません」
 ただ、そう言った。老夫婦は二人で茶を入れ始めた。
 愛しい人の子だ。そう思えた。


・・・


 鍾離は瑠月を歩く。商店のある通りで、一軒の雑貨屋に入る。馴染みとなった店主は先生いらっしゃいと笑った。ここでは掘り出し物がよくある。穴場というやつだ。
 いつも通りの世間話をしながら、品物を見ていく。ああ、これは良い。そう思って茶器を手にした。
「そういや先生知ってるかい?」
「ん? 何をだ?」
「最近の物語だと思うんだが」
「ものがたり?」
「ああ、ええと、『これは雪のように白い肌と血のように赤い唇の美しい姫君の話』」
「うん?」
「題名が分からねえんだ。多分異国の話だが……あとは『豆の木』、『不思議の国の少女』……」
「うん?」
「博識な先生ならと思ったんだがなあ。仕方ねえ、また本屋を覗くよ」
 店主はそう言って、茶でも淹れるかと奥に行こうとする。確かに鍾離は品物を見始めたら長いとは思う。毎回茶を飲む。でも、店主の言う物語とやらにさっぱり心当たりがなかった。これでも記憶力に自信はある。
「詳しく教えてもらえるか?」
「いやー俺もよくは知らねえよ。冒険者さんが子どもたちを連れてる時に歩きながらたまに語ってるだけだからなあ。物語の全部もわからねえ。題名さえ分かれば本を探して物語の全部を読めるかって……」
「冒険者? 講談師ではないのか?」
「違えなあ。確かに語り慣れてはいたが、ありゃ子どものための語り口だよ」
「だが、店主も気になったのだろう?」
「ははっ子どものためだからこそ、俺たちみたいな市井の人間にも分かんのよ、しっかし、中途半端にわかっちまったら気になるもんだなあ。これが学びというやつかね」
「ふむ。そうかもしれんな」
「ああすまねえ、茶を出す。先生は見ててくれ」
「助かる」
 鍾離は手元に視線を戻す。茶器だ。良い物だ。それを見ながら、店主の不思議な話が気になった。冒険者。最近は地脈が大きく乱れている。全ての生き物が凶暴化している。こんな時に、冒険者が、異国から、瑠月へ来たのだろうか。いや、最近ではないのかもしれない。
 茶を飲みながら茶器を買う話をまとめる。いつも通りにツケて、言った。
「その、語る冒険者とはどのような男だ?」
「うええ? 違うよ先生。冒険者さんはお嬢さんさ」
「ん?」
「つい最近、港で、ありゃお使いだな。お使いをするようになったんだ。たぶんどっかの家か宿に泊まってるんだろうが、宿ならお使いはしねえだろ? たぶんどっかの家に間借りしてんじゃねえかね。いつも子どもたちと一緒さ。あの、あんま裕福とはいえねえ人らの区域の子どもらだろうね」
「……」
「悲しい顔せんでくれ先生。あんたは優しいなあ。不幸な子どもらはいる。でも、あの冒険者さんが来てから、子どもたちは楽しそうだ。大人も、助かってるだろうな」
「そうか。良い人物なのだろう」
「話したことはねえが、きっと良い人だろうなあ。ま、うちの店に来てくれることはねえだろうが。はは、日用雑貨は置いてねえからな!」
「そうか。では茶器の配送を頼めるか」
「いつも通りだな。任せな!」
 鍾離は雑貨屋を出た。危険な人物ではないならいい。むしろ、瑠月のために滞在しているなら、歓迎すべきだろう。まあ、鍾離は鍾離である。凡人だ。瑠月は人の手で未来に進む。ならば、探る必要はない。
 ああでも、出会えたとしたら。その物語というものを聞かせてほしい。知らないものは、知りたくなる。


・・・


 商人に会いに行った。
「弔いはしました」
「そうかい」
「埋葬は、していません。火葬も。周囲は静かにしておきました。遺品は、持ち帰っていません。私は、触れなかった」
「そうか」
「私では、無理です。冒険者協会に依頼をすれば、腕が立つ方が、きっと遺品を、もしかしたら遺体も戻してくれるかもしれません」
「そう、か」
「飴を、」
「ん?」
「先日、買った飴はありますか」
「あ、ああ、あるが」
「買います。モラはこちらで」
「っ!! こんなには貰えねえ! 飴玉の値段は!」
「商人にしてはいけないことだとわかっています。ですが、あなたは働き者の、美しい手をしています。妹を思う、美しい心をお持ちです。どうか、そのモラを報酬に、依頼をしてください。きっと、強い方が依頼を受けてくださるでしょう」
「冒険者さん、そんな、だめだ」
「これは"等価交換"です。あなたに痛みを与えた。身に合わない願いを持たせた。肉親の死という、身を引き裂くような心の痛みを与えた。希望なんてものを、持たせた」
「ちが、ちがうんだ……」
「本当は飴玉を買う口実も、いけないことです。でも、どうかそのモラを、私の、不躾な、あなたの決意を踏み荒らしたことへの対価として、お受け取りください」
「あ、ああ……そんな」
「未来を諦めないでください。有用にお使いください。生活資金に充ても、私は構いません」
「……あんたは」
「取り乱してすみません。どうか。良き未来へとお進みください」
 飴玉の入った瓶を手に、立ち去ろうとする。
「恩人さん! 名前を!」
「恩人ではありません。ただの、冒険者です」
「だが」
「名前はありません。どうか、あなたが思う、私の名を」
「……モンドからの冒険者のお嬢さん。ありがとう」
「すみませんでした。そして、ありがとうございました」

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