そうしてわたしは番を得た。02→n周目のモンド編

!gnsn夢!
すみません、夢主の名前は固定です。
ただ、夢主本来の名前は出てこないので正しく言うとネームレスです。

!女主ですが性別は適当です!
わけあって変更できる。
今回は女性バージョンのみです。

!恋愛夢では今のところない!
仲良くはなる。仲良くなれないこともある。
恋愛する可能性あるのかこの夢主……?
無計画で書き始めたので全く考えてなかったのですが、誰夢か、になるなら鍾離夢か旅人夢か創作夢しか今のところ可能性が無い。
やや鍾離夢優勢かもしれない→今回は鍾離出ないのでなんにもならないかと思ったら手が滑った。
今回はディルック夢っぽいです。恋愛感情は無い。進展することはないと思われる。多分。再登場したら分からん。
あと旅人からの感情がだいぶギリ。旅人(蛍)夢っぽさがある。

!夢主がキャラから敵対、不和、警戒などの感情を向けられることがあります!
これは〇〇マイナスってやつか?

!カーヴェ愛され!
捏造だよ!!!!今回でないよ!!ただ夢主が心の中でめちゃくちゃ愛してる。恋愛感情ではない。

!ちっちゃいカーヴェを擬似母として愛している夢主です。恋愛感情ではない!
1周目なんてだいぶ薄れたはずなのに、それでもカーヴェとの思い出を大切にしてる。し、幸せになってほしいと願い続けている。

!カーヴェも夢主を母だと慕います。恋愛感情はない!
記憶は消えたが。

!そもそも夢主がろくでなし!
人外。

!自作一次創作の設定集から夢主の設定を練ったのでそれなりにイロモノ夢主です!

!細かい設定はゆっくり書いていきます。何せ作者は設定だけ作って満足する設定厨だからです。つまり、一次創作設定が、膨大!

!カーヴェはぎり人間です!

!カーヴェの設定はふんわりしてます。何故ならカーヴェは実装前だからだ!

!テイワット周回n回目夢主です!

!一応異世界転移系ではある!
夢小説用語のトリップ夢……でもあの、特殊設定なので……原神知識もほぼ無い夢主なので……なんか生前とか転生とかあるんだなぐらいで……無計画なので……。

!無駄に長い!
字数。

何でも読める方向けでしかないです。


・・・


 私は多分悪運というやつが強いのだろう。何度か繰り返したこのテイワットで、愛しい番の気配を感じながら、戦う。弱い。九寸五分を出すまでもなす、適当に落ちていた強度のありそうな棒でヒルチャールを殺していく。弱い。
 何回目のテイワットだろう。前回も失敗した。今度こそ成功させなければならない。成功、というか、愛しい子がテイワットで幸せになるのを見届けたいだけなんだが。愛しい子とはカーヴェである。幼いカーヴェが私のプライベートの庭に迷い込んだので、仮の母として過ごしたら普通に情が湧いたし、愛しい子どもと認識してしまった。カーヴェに会いたい。だがおそらくこの時間軸ならカーヴェは青年だ。うーん、青年でも可愛い子どもに変わりはないが、愛しい我が子と伝えるのは難しい。何せカーヴェは記憶を失った。私の番である世界は、まあ、カーヴェを許さなかったわけである。何せ名前を失った私に初めて名前を与えたのがカーヴェなのだ。あの番ならばそりゃあ気に食わないだろう。だが、あの一件で世界は私を番として認知してくれたようだし。万々歳だ。ただし名前はくれなかった。非常に悲しい。
 怒涛の喋りをしてしまったが絶賛ヒルチャールと戦闘中である。弱いので適当に殺していくが、果たしてこれで正解なのか。生命を守る方が大切だと思う。たぶん。あとヒルチャールは何故か知らんが定期的に復活してるし。ソシャゲだからかな。私、原神やってないんだよな。ガチャ担当ではあったが。もちろん課金は私は関与していない。プレイヤーたる妹の判断だ。
 そうやって一通り倒し終えて、息を吐く。白いワンピースには汚れひとつない。あったら怖い。番が私に与えたものだ。汚れたら私は即死だろう。一応長生きは目標の一つである。わりと毎回短命だが。とりあえず毎回大抵みんな忘れてるので、周回したところで問題はない。多分トラウマ作成とかもしてない。あったら怖いな。
 唯一、私と周回の記憶がある人物がいる。人なのかよくわからないが。でも、とりあえず目的は違えど、その人物もテイワット周回中なのだ。
 ああ、ほら、声がする。私は振り返って微笑んだ。


・・・


 モンドで蛍は走っていた。とにかく走る。走り回る。スタミナがめんどくさい。とにかく走って、見つけなければ。きっと、彼女は今回もいる。いや、彼かもしれないが、今回は彼女のような気がする。一通りのストーリーを回収して、何なら伝説任務とかも念のためにやって。地図も現在の限界まで埋めて。そうしたら、居るはずだ。
「げっなんだあれ! ヒルチャールの巣が丸っとひとつ壊滅してるぞ!」
「急ぐよパイモン!」
「ま、待てよおー!」
 走って、走って、丈の長い白いワンピースがひらりと風で舞った。
「蛍さん!」
 茶色の髪を一つに結んで。薄い茶色の目は太陽光だと金色に光って。肌は日差しを浴びてないような白で。細くて、でも成人女性で。私の名前を呼ぶ、私の大切な、守るべき、救うべき存在。お兄ちゃんも私も、ずっとずっと前に決めたこと。必ず、この人を救う。だから、忘れないで、愛を胸に抱いて。そうして、絶対に、今度こそ、あなたを救う。全部を、お兄ちゃんもテイワットの危機も救ってみせる。だから、私はお姉さんの胸に飛び込んだ。
「お姉さんっ良かった! 会えた!」
「はい、蛍さん。再会できて良かったです」
「お、おい旅人、そいつは誰だ? 知り合いなのか?」
「うん。パイモン、この人は私とお兄ちゃんの大切な人。戦力になるよ。しばらくモラに困ることはないと思う」
「そうじゃなくて! 名前だよ!」
 パイモンの力説に微笑ましくなる。お姉さんも嬉しそうだ。
「私はオーブランといいます」
 ああ、名乗ってくれた。私とお兄ちゃんが付けたその名前を。その事実に胸がいっぱいになる。ちゃんと彼女は覚えている。だったらやるべきことはひとつ。私はオーブランを救い出す。
「ていうかすっごい薄着だけど平気なのか?! どうやってヒルチャールと戦ったんだ?!」
「ええと手頃な、これですね。ヒルチャールが落とした槍先がたまたま欠けていたのでそのまま脆いところを叩いてこのような、寸鉄のようなものに」
「す、すんてつ?」
「そのうち教えます。蛍さん、現状はどうですか?」
 微笑むオーブランに、私は現状報告を端的にする。つまり、いつも通りだと。
「変な動きの人はいないよ」
「それなら良かったです。蛍さんは色恋沙汰は大丈夫ですか? 世には良からぬ輩が多いですから」
「大丈夫だよ。私は強いから」
「女の子はいつだって危険ですから。空さんも危なっかしいですけれど」
「えっ何か知ってるのか?!」
「いえ、何も。ただ、蛍さんとは古い知り合いなんです。ね?」
「知り合いじゃないよ、お姉さん」
「友達ではいけませんか?」
「私が妹なのは嫌?」
「ええと、蛍さんは妹にしては、その、しっかりされてるので、私の方が妹みたいな気持ちになりますよ」
「そうかな?」
「旅人が凄い勢いで喋ってる……」
「パイモンさん。というわけで、一緒に旅をしてもよろしいですか?」
「ええっオイラに聞くのか?!」
「私は構わないから、あとはパイモンだけ」
「いつ決めたんだよ! あーもう! オーブランは戦えるんだな?」
「はい、勿論です」
「だったらオイラは問題ないぞ!」
「よし、決定だね」
「はい。改めて、よろしくお願いします」
 オーブランがすっかり肩の力を抜いて笑う。その笑顔が嬉しくて、私はじいっと見ていた。この笑顔はこの先、きっとあまり見られない。今周の、旅をしてひたすらに強くなるために、生活のために、移動して。それはいいけれど、同行者が必要だから、それを呼び寄せたら、誘ったら。この肩の力が抜けた笑顔はもう見れない。
「蛍さん?」
 彼女の未だに慣れないテイワットの言葉。ここはモンドだから、モンドの言葉を喋ってる。ああ、最初の方なら彼女は言語が分からなかった。テレパシーで意思疎通するしかなかった。今でも必要なら使うだろう。でも、彼女はテイワットの言葉を学んだ。それはやっぱり、彼女の望みのため。そして、私が決意を新たにするもの。
 でも、やっぱりちょっとだけ物足りなくて。
「ねえ、普通に喋って?」
 こてんとお願いすると、オーブランは指先を彼女自身の顎に当てて、脳に語りかけてきた。
[ええと、これでいいのかい?]
[ばっちり]
[丁寧な言葉を学んだんだがなあ。ほら、言葉遣いは丁寧な方が得をする。外見と同じだ。全く、ルッキズムは何処の世でも蔓延る。まあ、それが世渡りにもなるんだから、ままならん]
[それそのままモンドの言葉で言えばいいのに]
[いやうん。もう今更言えないだが。というか、こういった俗語はどこで学べばいいんだ? 本か?]
[また知の殿堂行きたいの? 止めないけど]
[そこまでなのか?! モンドの言葉じゃないのか?!]
[答えはモンドの司書]
[悪い人ではないだろう]
[それはそうだね]
[正直学ぶのがもう面倒だ。意思疎通が出来るだろう。言葉遣いはともかくとして]
[私はオーブランの砕けた言葉、オーブランらしくて好きなのにな]
[やめてくれゾッとする]
[友愛だよ]
[分かってるが、分かってるんだが]
[流石の恋愛嫌い]
[女性からも迫られる経験は恐怖と怒りしかない]
[殴ったの?]
[控えめに振った]
[それ絶対相手に深い傷を負わせたよね、精神の]
[当たり前だ。うう、気持ち悪い]
[本音ダダ漏れだね]
[テレパシーとはそういうものだろう]
[知ってる。だから好き]
[やめてくれ、揶揄うな、本当。蛍さんは嫌いになりたくない]
[うん。でも好意は受け取ってね。立派な友愛だよ?]
[つらい]
[あ、喋れなくなった?]
[もうやだ。殺したい]
[何を?]
[蛍さんは大切な友人なのでヒルチャールを滅多刺しにしてモラを稼ぐよ]
[うん。正しい]
 無言の私たちにパイモンがどうしたんだーと声を掛けてくる。オーブランはテレパシーを使いながらも、パイモンとお喋りしていた。私は流石にそこまで器用じゃないし、久しぶりのお姉さんこと大切な友人と再会できて浮かれているので仕方ない。
 ということで。
「パイモン! しばらく壺で寝泊まりしてモンドのヒルチャールを徹底的に潰そう!」
「何言ってるんだ?!」
「私も手伝いますね」
「オーブランまで?! な、何なんだよおー!!」
「何も何でもないよ、パイモン。これは立派なモラ稼ぎだからね」
「ええ、モラは必要ですから」
「それは知ってるけどなあ!」
 そうして、私はまず適当なヒルチャールの巣を地図で見せて、オーブランと駆け回ったのだった。
 ちなみに、オーブランは私とパイモンの三人旅で、なおかつ戦力が二人なので、攻撃型の戦い方をしてくれた。助かるけれど、オーブランの攻撃型は怖い。パイモンが始終騒いでいた。わかる。オーブランの武器は九寸五分。つまり、短刀である。それを敵と近接して、超近接して、刺して引き抜くなり、肌を切り裂くなり、はらわたをぶっ飛ばしたりする。つまり血塗れのオーブランが出来上がる。全て返り血である。白いワンピースが汚れてるのが、蛍的にはとても嬉しいことであった。彼女の白いワンピースは特別なものだ。それを汚すのは彼女の番が許さない。なのに汚れてる。つまり、番が許しているわけだが、それが完全に悦だとかではない。むしろ逆で怒り狂ってる可能性が高い。あれは知能が低い。怒り狂ってたら番への対応が雑になる。ふふん。やってやった。
「蛍さん?」
「オーブラン! 血! 汚れ! 大変だぞ?!」
「あら、本当ですね。ええと、壺ですか?」
「そうだよ。壺」
 今日はちゃんと皆帰したし、何なら今回もちゃんと改装してる。
「じゃあ行こう!」
「はい」
「いくぞー!」

 壺の中。イメージは稲妻の旅館である。オーブランの表情が輝いた。
「蛍さん! これ好きです!」
「稲妻の家具が好きだね」
「はい!」
 うっとりと家具を見ている。オーブランは意外と調度品とか家具が好きだ。ていうか建物が好きだ。拘りが無いというが、稲妻のものを好きになりやすい傾向にある。蛍はすでにそのことを知っている。
「お風呂そっちだからね」
「はい」
「一緒に入らないのか?」
「オーブランは一人で入りたい人なんだよ」
 ふうんとパイモンは首を傾げた。

 オーブランが入浴する音を聞きながら、夕飯を作る。うん、この言い方は変態っぽい。却下。オーブランは好まない。
「何作ってるんだ?」
「スープだよ」
「スープだけか?」
「そうだね。でも具沢山にするよ。パイモンいっぱい食べたいでしょ?」
「そうだな! なあ、オーブランはどのくらい食べるんだ?」
 パイモンは心配そうに言った。うーん。わかる。
「オーブラン、細いもんね……」
「ワンピースだけの薄着だからすごく、分かりやすいんだぞ……」
 あいつちゃんと食べてるのか?
 パイモンの不安そうな声に、多分ね、としか答えられなかった。オーブランの番は低知能なので食事をオーブランに渡すという思考はないし、そもそも番は食事を必須としてないらしいし。それでいてオーブランは空腹を感じない場所にいても、ちゃんと衰弱する。何が言いたいかというと、オーブランは毎回私かお兄ちゃんと会うまで、空腹を感じないようにさせられて、軟禁されているわけである。忌々しい。本当に忌々しい。あいつ嫌い。殺す。
 蛍はスープをかき混ぜる。香辛料は控えめに、モンド風のスープだ。材料にはじゃがいもを多めに入れた。土地柄を感じてもらいたかった。
 たとえ、オーブランの味覚も嗅覚も機能をほぼ停止していたとしても。見た目で味わうことだってできるから。
「オーブラン、夕飯できたよー!」
「スープだぞー!」
「はい、今行きます」
 オーブランが歩いてくる。白いワンピースは純白に戻り、返り血は綺麗に流され、素足でペタペタと歩いている。
「いつの間に服を洗ったんだ?!」
「あ、えっと、綺麗にしてくれて」
「どういうことだ?!」
「番が」
 ああ、気がついたか。蛍はむっと膨れっ面になる。オーブランは優しく蛍の頬を撫でた。
「私の番は不器用なんです」
「あーうん、そうだね」
 そういうことにしておいてあげよう。というわけで、私たちはスープを食べて寝たのだった。
 なお、勿論ベッドは一つである。オーブランは特技というか何というか。誰が一緒だろうと眠れるのだ。勿論、私がここでむずがるように動けば気配ですぐに起きて、大丈夫ですかと声をかけてきてくれる。つまり、危機感がゼロではない。むしろ常に気を張っている。
 でもやっぱりオーブランが一緒だと守られている気がしてよく眠れるので、私は同じベッドで寝こけたのだった。


・・・


 そんな生活をしばらく続けると鞄がいっぱいになった。モラも貯まった。ならばモンド城な行くべきだ。ちらりとオーブランを見上げる。オーブランは成人女性より少し背が低い。でも私よりは高い。オーブランも周回してるんだからモンド城に行かなきゃいけないことはわかるし。モンド城がどこか知ってるはずだし。どういう人たちがいるか知ってる、けど。
 すごく、すごく、会わせたくない。戦力としてはPTに他の人を入れたい。でも、確実にPTに入ってくる人がいる。だいたいそのパターンだもん知ってる。その度にオーブランの恋愛嫌いと男性拒絶で、オーブランはどこかミステリアスな顔しかしなくなる。それはそれで魅力的だけど、それはつまり警戒だし、嫌悪だ。オーブランに悲しい思いはさせたくない。
 あ、つまり男性が必ず声をかけてくるのだ。いつもそう。あれだ。人一倍にこやかに、怪しい人物に声をかける人。
「蛍さん、私は平気ですよ」
 それはつまり平気ではないということである。蛍はオーブランが虚言癖ではないが、演技力が詐欺師なのはよく知っている。悲しいが、モンド城に行こう。そしてなんか、観光しよう。オーブランは建築物が好きだから。


・・・


 来ましたモンド城! お久しぶりだな! 帰っていいか?
 野生児だといわれてもいいから帰りたい。というかカーヴェに会いたい。私の可愛い子。記憶がなくても愛おしみたい。これからくるストレスを思っての逃避である。大丈夫。言いたいことはテレパシーで蛍さんに流そう。そうしよう。
 というわけでまず冒険者関係の手続きを済ませる。身分をゲットしました。冒険者だ。何周目の冒険者か忘れたが。これは強くてニューゲームでは? 記憶は引き継ぎである。死に際の記憶もちゃんと引き継ぎである。うーん、気が狂いそう! 元から狂ってるか! あっはっは。
 全て現実逃避である。ペタペタと歩く。蛍さんが街の説明をしてくれる。わあ、いっぱい。正直わからん。とりあえず、周回特典ということで人が少ないカフェに入る。というか蛍さんが選んだ。流石だ。よく分かってる。
 少し路地に入り込んでいて、光が入ってくる。光が入れば影が際立つ。綺麗なものだ。
「何だ、新しい恋人か?」
 予想範囲内。でも、ちょっとパンを喉に詰まらせそうだった。気配を断つ、というキャラクターが多すぎないか。
 振り返る。うーわ、青い髪のイケメンだ。
 ちなみに私は年下男性ならギリギリ許容範囲内である。ただし、これは年下らしい可愛さがないのでわりとアウト。
「蛍さんはモテますね」
「うん。恋人作ってないけどね」
「まあ、勿体無い」
「うそつき。恋愛嫌いだから、私に恋人できたら近寄らないでしょう?」
 蛍さんが笑う。うーんこれは牽制だ。青髪イケメンへの。蛍さんの友情がありがたいが、それをあまりやりすぎると私の恋愛アレルギーが発動するぞ。息を吐いて、言った。
「恋人との時間を邪魔してはいけませんもの」
 馬に蹴られたくない。本気で。

 とまあ私と蛍さんの百合寸劇を見せた結果、パイモンは気にせず食べることにしていたし、イケメンはしばし呆気に取られたのち、笑った。
「演技派だったか!」
「ガイアに言われたくないな」
「ガイアさんというのですね」
「そうだよ」
 ガイアはひいひいと笑ってから、私をじいと覗き込んだ。うん。うん。イケメンだから許される行為はひとつもねえんだよな。純粋な怒りである。
「オーブラン、ストップ」
「はい」
「ん?」
「ガイア、命が惜しかったら引いて」
「寸劇か?」
「いや、あのね、オーブランは、なんていうか」
「ほう?」
「極度の男性嫌いで、ガイアはだいぶダメ」
 にこ、と、the愛想笑いをすると、ガイアは察しの良い人間なので引いた。うん。そこは評価したい。でも近寄るな。
「あともう結婚してる」
「えっ蛍さん?!」
「おお、そうなのか」
「私はあんなやつ殺したいけどね」
「寸劇の続きか?」
「いや、あいつめちゃくちゃ性格悪いから」
「蛍さん! 私の番は少し言葉を選ぶのが不得意なだけです!」
「恋は盲目か?」
「そうだよ。あいつが出てきたらガイアも一緒に仕留めよう。私の攻撃が一番効くらしいから」
「殺すのか? ふむ、物騒だな」
「私の番はひとつ死んだところで問題ありませんから!」
「いやそれは何だ? 人間なのか?」
「私の番です」
「うん、そうか」
 ガイアの目が生温かい。とりあえず恋愛アレルギー問題は解決した。でも、結婚報告恥ずかしいのでやめてほしい。番だから、人間なら結婚と同義だけども。
 とりあえずガイアからの私の印象。やばい人間で固定したとしてほしい。実際気狂いだから何も間違ってない。番の気配を感じる。楽しそうに火の精霊たちを踊らせてる。上空の、はるか彼方。成層圏で、世界は遊んでる。良いことだ。
「ところでどこに泊まるんだ?」
「適当な宿」
「騎士団に顔を出したらどうだ?」
「オーブランにはまだ早いよ」
「蛍さん、私なら平気です」
 これは平気ではないという意味である。ガイアさん怖い。騎士団には怖いのがいっぱいいる。なにも男性だけじゃねーんだなこれが。なんでテイワットの人間ってパーソナルスペース壊れてるんだろうね。知らんけど。
「騎士団に空き部屋があるんだがなあ」
 あ、騎士団の建築は見たいな。カーヴェへのお土産話になりそう。でもなあ。やっぱり騎士団こわい。怖すぎて破壊しそう。
「オーブラン、ストップ」
「はい」
「おお?」
「宿に泊まるからガイアは帰ってね、あーでも、明日からしばらく借りれる人いる?」
「うん? どこかに遠出するのか?」
「璃月に用事だよ」
「ふむ、なら」
「ガイア以外は?」
「空いてないな」
「そっかー」
 すごい。白々しい。蛍さんは歴戦の旅人なので、それはもう度胸はあるし、ガイアさんは掴めないキャラしてるし、パイモンはおろおろしつつも食べてる。いやこの中で食べてるんだすごいな。
「俺でいいだろう?」
「オーブラン……」
[うっかり殺しても許してくれ]
[わかった]
 蛍さんはガイアをPT入りさせた。ははは、ガイアさんもちゃんとテイワットの人間だし、戦えるもんね、なかなか死なないですよね。
[強いよ]
[知ってる]
 戦力として頼りになることは、知ってる。まあ周回してますので。

 で、宿である。モラに余裕あるので。
「オーブラン、作戦会議」
「はい」
「お、何だー?」
「パイモンも来てね」
 まずパイモンに説明ね。蛍さんは言った。
「オーブランは男性拒絶とかではなくて、」
「おう?」
「男性嫌いなだけで戦闘に支障は出さないよ」
「お、おう」
「でもまあ男性が……特に年上がダメだから、基本的に戦闘以外は関わらせないようにしてあげて」
「わ、分かったぞ!」
「あと戦術。これで私とガイアがアタッカーになるモンド内ならたぶんオーブランはサポートになれるよ」
[うっかり殺しそうだからな]
[ガイアはそんなに簡単に死なないから安心して]
[人殺しをしたいわけではないんだ]
[それはどうかな?]
「えっとオーブランってサポートできるのか?!」
 そこである。今までは九寸五分、スキルで言うところの拒絶を使用していた。だが、基本的に私はサポート向きではある。共に戦う人たちの心理的に。何せ拒絶だと私は返り血塗れになる(番が気がついた時に汚れが消えるが)し、九寸五分に塗った毒が敵に回るとまるで勝手に身体中から血を吹いて死んでいくのである。ヒルチャールやスライムなどが相手だとしても、心理的苦痛は相当なものだろう。なおパイモンは慣れたようだ。慣れってすごい。
「そもそもオーブランが戦えることはなるべく伏せておきたいの」
「何でだ?」
「オーブランの戦闘スタイルはあれだし、」
「返り血べとべと?」
「あと暗殺向きだから……」
「すんてつ?」
「それ。あと単純にサポートとして優秀なんだよ?」
「何で知ってるんだ?」
「オーブランとは古い友人だからね」
「うーん?」
 パイモンは愛らしく首を傾げている。まあサポートとしての活躍は瑠月への道のりで分かるだろう。蛍さんは私の拒絶を出来れば伏せたいし、うっかり興が乗って永別を使うと大変だ。世界召喚なので。何というか、私は創造主だけれど、テイワットでいう神様の二面性なら、私が善性であり、世界が悪性になるのだろう。無邪気で可愛いんだけどな。
「で、何ができるんだ?」
「広範囲の味方に強力なバフ、かな。どっちかというと四人揃ってシールドもいると助かるよ」
[ゾッとした]
[耐えて]
「シールドっていうと、鍾離か? だから瑠月なのかあ」
「うん。でもさっき言った通り、オーブランは年上男性がダメだから……」
「鍾離は優しいぞ?」
「その辺はオーブラン基準になる……」
「年上は年上だろうけどよお」
 パイモンは不思議そうだ。まあ一般的に鍾離さんは人に好かれるタイプだろう。私はダメだが。何周してもダメだが。まず年上でアウト、口調でアウト、声でアウト、性格がアウト、行動がアウト、発言がアウトである。全否定ではない。一応、悪い人ではないことは分かっている。何せ、カーヴェを助けてくれる。薄れてしまった最初の記憶。そこで交わした瑠月式の契約は、ずっと有効なようだ。まあ魂に刻まれた名前が消えない限りは、契約が有効なのだろう。鍾離さんは契約したことを忘れさせられているが。まあ、契約ではあるが、微々たる効力だ。それなのにカーヴェをしっかり守ってくれるのだから、何というか、律儀なのだろうとは思う。そこは頼れる。私はカーヴェを守れない。母親ってとことん、巣立った子を見守るしかできないし、layer(止まり木)にはもうなれない。そもそも、カーヴェが真の意味で守られる必要があるのは、私が番を召喚した時、つまりスキルでいうところの永別、世界召喚だ。カーヴェにとっての害は私である。
「おい、大丈夫か……?」
 パイモンが不安そうに見ている。本当に優しい子だ。何度繰り返しても、パイモンは優しい。記憶を失っても、パイモンは変わらない。すごいことだ。尊いことだ。優しさは、嬉しい。
「ありがとうございます。私なら平気です」
「じゃあガイアが臨時PTメンバーとして、アタッカー。私もアタッカー。オーブランはサポート。瑠月で鍾離を掴まえて……モラ足りるよね?」
「おそらく」
「で、もう一人アタッカー。スメールでアルハイゼンを誘ってみようかな」
「スメール、行きますか?」
「うん。会いたいでしょ?」
「はい、もちろん」
「ん? 会いたいやつがいるのか?」
「向こうは覚えてないですけれどね」
「んー?」
 あれ、とパイモンは言った。
「というか、PTって四人じゃないのか?」
「あ、オーブランは別枠になるよ。パイモンと一緒」
「えっ?!」
「戦えるパイモンだよ」
「ええっ?!」
 何故か知らんがそういうカウントである。まあ、その方が世界として面白いのだろう。番が面白いならそれでいいと思ってる。ただ、このやりとりは何度も行われることになる。うーん、面倒ではないか。いや世界がケラケラ笑ってるならそれでいいや。
「じゃあ寝よっか」
「はい」
「オイラも寝るぞ!」
 ということで、三人並んで就寝である。


・・・


 翌朝、宿の簡易食堂。ガイアさんはもう起きていた。同じ宿に泊まったらしい。多分どころか確実に私を警戒しているわけであるが、そりゃそうとしか言えないので、とりあえずガイアさんから離れた席に座る。テーブルは同じだ。PTメンバーとしての礼儀である。これでも一般常識はある。蛍さんは私とガイアさんの間に座る。パイモンも私に違和感を感じたのか私の周りをふわふわと浮いていた。優しい子だ。
 ていうか蛍さんはこの時点で各種問題をオールクリアしているのだ。強者であり、したたかであり、信頼に足る人物として全キャラクターから認められてると言っていい。信頼度も多分マックスである。恋愛面で厄介なことになってないか心配だけれど、私が恋愛嫌いなわけであって蛍さんは自由恋愛すべきだ。大切な友人として、それは尊重したい。それはそれとして私はたぶん甘々ラブラブいちゃいちゃを見せつけられたら気が遠くなる。恋愛映画とか恋愛漫画とか、ダメなんだよなあ。恋愛小説は平気だったけれど。たぶん視覚情報がダメのだろう。知らんけど。
 息を吐く。一先ずは食事だ。モンド料理を少しずつ食べていく。味覚も嗅覚も、殆ど機能していないが、周回特典というか、情報として、その料理が何を使って作られているか、は分かる。で、私は料理のいろはは幼少期に躾けられた。つまり、食材と調味料で味の判断はできる。あと痛覚はあるので、辛味は分かったりする。知ってるか、辛味って痛覚なんだ。
「ガイアさん」
「ん? なんだ?」
「蛍さんと話したいことがあるなら素直にどうぞ。私は聞かないことにしますから」
「いや、それは」
「現在の食堂には私たちしかいません。恐らく、近くにも誰もいません。心配なら耳を封じます」
「耳を封じる?」
 意味不明不思議生物だと思ってくれ。蛍さんがこくりと頷く。
「じゃあオーブラン、お願い」
「はい」
 というわけで。聞かないことにする。聞き流しである。興味を遠ざける、世界の存続に関係のない会話。そう認識さえすれば、私の感覚は一気に消える。番のおかげだ。あまり頼りたくはないが。だって番なんだぞ。少しは頼りある番になりたいだろ。


・・・


 黙々と料理を食べているオーブランという女性は、さっきの発言通りに聞かないことにしたらしい。
 どうやって? なぜ?
 疑問だが、旅人はにこりと笑った。
「事実だよ。今のオーブランには何も聞こえない」
「どういうことだ?」
「そのまま。特異体質なの」
「……仙というやつか?」
「違うよ。オーブランは私たちの大切な人」
「恋人、ということではない、か」
「そう。オーブランにはもう番がいるからね。私は大嫌いだけど」
「結婚相手で合ってるか?」
「人間式ならね」
「人間ではないのか」
「オーブランは人間だよ。私たちが人間にするの」
 旅人は強い目をしている。"私たち"が"人間にする"。その言葉はやけに重たい。決意が見える。あの歴戦練磨の旅人が、それだけの決意を必要としている。その事実が、真実を告げる。
「オーブランも、番とやらも、人間ではないんだな」
「オーブランは人間にする。番は知らない。あいつはどうしたって人間になれないし、そもそもあいつは人類の敵だよ」
「ほう?」
「ごき」
「そっちか?」
「増殖するし」
「増殖??」
「何ならあいつ、最悪のタイミングで、オーブランを喰うよ」
「……性的な意味ではないな」
「ガイアにしてはストレートにありがとう。カニバリズムに近いよ。人間じゃないけど」
「絵面が酷いだろうな」
「ガイアの顔色が悪いの珍しいね」
「食事中に食人趣味の話をされたら誰でもそうなるぞ?」
 で、と旅人は言う。
「伝えたいことは?」
 ここまで番の悪口を言っていたが、オーブランに反応はない。料理だけに視線を向けて、淡々と食べていた。パイモンはちらちらとオーブランを見ながら料理を食べていたが、それにも反応しない。事実かどうかは判断がつかない。でも、反応はしない。なら、ある程度の話はしても大丈夫だ。
「ヒルチャールが異常にいただろう」
「討伐したよ」
「ああ、助かった。地脈の乱れがあるらしい」
「秘境案件かな」
「そうだ。三人で潜るのはやめた方がいいだろうな」
「各地の状況は」
「詳しくは伝わってない。何せ、ヒルチャールは前座だ。元素生物が特に活性化してるぜ」
「地脈の乱れ、だろうね。そういう効果が発動してしまった。テイワット全体に。違う?」
「恐らくな。伝達網が機能していない」
「実力のある冒険者が護衛しなければならないんだね」
「冒険者ではなくても構わないが、とにかく人の行き交いが厳しくなっている」
「ガイアはどこでもいいから他国の状況を知りたいんだね」
「そうだ。モンドだけの問題ではないのは確実だろう。推測だけどな」
「合ってるだろうね。ガイア自身が私たちについてきたい理由はよく分かったよ。一人は無理だね」
「そうなる。神の目があっても危険だぜ」
「無いならもっと危険」
「それは話が戻るけどな」
「情報は大切だもんね?」
「そうだな」
 笑って見せれば、旅人も笑う。パイモンはうげえという顔をしていた。そう嫌な顔をされたくはない。俺としても、パイモンはマスコットとして愛らしいと思う。
 さて、オーブランだ。彼女は一切の反応を見せない。食事は終えていたが、目を皿に向けてじっとしている。無。そう感じた。そして、服装を改めて見る。座っているため、よく見えないが、服装は白いワンピースだろうか。丈が長い。襟元はシャツのようになっている。そこで気がついた、合わせが違う。
 このワンピースの仕立ては男性のものだ。肩幅はきちんとオーブランに合わせてあるが、その仕立てだって男性のものだ。強烈な違和感があった。オーブランは目を引くような美人ではない。例えば、旅人は美少女だろう。パイモンは愛らしいだろう。だが、オーブランは違う。美しさも、愛らしさも、特筆するようなものはない。でも、その顔立ちはミステリアスだ。これは良い言葉で飾っただけで、謎であるというものだ。顔立ちから国籍が判断できない。どこの人物か、分からない。髪は美しい艶をした、茶色だ。紐らしきもので一つにまとめている。目は淡い茶色だが、朝日が射し込む食堂の、その光を浴びると金色に見えた。肌は白いが、基本は黄色みを帯びている。
 これは、どこの誰だ?
「オーブランを人間にするの」
 旅人は繰り返した。ああそう、今の彼女は、少なくとも人間ではない。その実感が、すとんと落ちた。
「……一度、騎士団には顔を見せた方がいい。オーブランは連れて来るな」
 思わず溢れたのは本音だ。小声だったが、旅人はしっかりと頷いた。
「それは助かるよ」
 パイモンには聞こえなかったようだ。


・・・


「私は騎士団に行ってくるね」
「はい」
「オーブランはモンド城内にいて。嫌なことがあったら外に出てていいよ」
「はい」
「でも、私が呼んだら来て。これは大切な友人としてのお願いだからね」
「はい」
[モラを稼ぐぞ!!]
[たまに元気になるよね]
[城内のどうでもいい人間が嫌だ]
[好かれるよね、恋愛フラグ建設機]
[フラグは折る。できるだけ心に致命傷を与えるものだ。慈悲はない]
[ただの恋心に対して物騒だよね]
[気持ち悪い]
[嫌悪がすごい]
「じゃあ、また後でね」
「オーブランまたな!」
「またな」
「それでは失礼します」
 私はくるりと背を向けて、モンド城内を歩く。そして、意図的に人混みに紛れた。すまない。多少不自然だが、ガイアさんがちょっとごめんやっぱダメです。悪い人じゃないことは知ってるけど。

 とまあ堂々と城を出て、ヒルチャールおよび元素生物たちを殺してモラを稼ぐ。使うのは当然九寸五分だ。超接近戦で殺して、殺して、殺していく。慈悲はない。まあ、悪いなとは思う。世界の中の生き物だ。彼らはつまり、私の子とも言える。やろうと思えば、ヒルチャールも元素生物も、私だけで生成できる。本当に、子なのだ。でも、愛してるから、殺すべきだ。彼らは今、悲鳴を上げている。暴走している。見た目には分からない。テイワット住民にはおそらくわからない。ただ、いつもより強いなとか思うんだろう。そりゃ、苦しいんだ、悲鳴を上げて助けを求めているんだ、必死なんだ。レベルより、強くもなる。だから、彼らを殺すことに躊躇いは持ってはいけない。この胸の愛で、彼らを殺す。どうか、輪廻の果てに、彼らに安寧がありますように。ただ、それだけは願う。謝らない。慈悲はない。でも、愛してる。私と番の子供達。
 一通り戦う。まあ、さて。話が逸れたが。
 つまりは私はテイワットで起きた事件を人伝にしか知らないし、大抵の核心はちゃんと皆黙るし、なんなら記憶が消されてる。私は旅人が、つまり蛍さんか空さんが、ほぼ全ての事件を解決して、皆と絆を深めてからしか、テイワットに降り立てない。まあ、私は厄災だ。その自覚ぐらいはある。テイワットに事件が起きてる時に現れるのは流石に人の心がない。創造主としても、忙しいと行動しづらいのはある。リソースはわりと割いてもらいたい。でなければ【世界の存続】に関係する厄災に対応できず、まあ普通にそのテイワットが壊滅する。もしくは消滅か。世界の機嫌でそこは変わる。で、世界の外から眺めてるだけではマジで中で何起きてるんだ?って感じなのだ。ぶっちゃけ外と内では時間の流れが違う。そもそも創造主が管理してるのは一つのテイワットではない。同時進行で複数の世界を眺めて、何かあれば(世界の存続に関われば)対応である。正直、人の話とかよく聞こえないし、愛着は人並みには持つが世界単位なのでよく分からん。なんなら周回n回目の今だからこそある程度大丈夫だが、最初は言語が分からんかったし、人の名前も覚えられなかったし、外見も同じに見えた。外側から見ているだけなら内側の子達と恋愛沙汰にならないので、ぶっちゃけどうでもいいのにリソースは割かないのが基本方針だ。なので、本当にテイワットでどういう事件があったか、は一般人並み以下の知識しかない。周回で何となく察したぐらいの内容だ。はっきり言うと、何もわからん、に該当する。
 あとまだ各言語の難しい単語は分からないんだなこれが。一応テレパシーで蛍さんや空さんに聞くこともあるが、難しい単語はイコール難しい話をしてることが多い。蛍さんたちに質問するのは空気が読めないが過ぎる。流石に大切な友人の迷惑になりたくない。
 お、ヒルチャールの巣を発見。モラ稼ぐぞ。今の私はモラを稼ぐしか蛍さんの役に立てない。つらい。そしてガイアさんがいたらサポートになる。前線に立てない。戦闘狂の自覚はある。あっはっはっ、創造主になる前も各種手段で法に触れない程度に不審者等を捕まえる為に護身術は学んだぞ。人体の急所は教えられずともわかったし、テイワットでの戦闘経験で各種生物の急所も分かる。だから迷いはない。あと、愛する子ではあるが敵なので、敵を倒せば普通に気分が高揚する。これはもう、なんていう、どう客観的に判断しても戦闘狂なんだよなあ。仲間を攻撃したいとか、仲間を殺して高揚することはないと思う。あ、例外はいる。まだ今回は会えてないが。
 ざっざか倒して、それなりに気分も高揚して笑みが浮かぶ。救済と愛。そしてこの手で殺す感覚。これは彼らへの私の答えだ。
「……何をしている」
 えっ。
 いや、うん。マジ?
 赤い髪のイケメンである。うーん。何でここにいるんだかな! 周回にこのパターンは無かった!
 頬が引き攣りそうになる。笑ってたの絶対見られたくなかった。だって、この人は、ディルックさんである。助けてくれ。あ、番には求めてないです。むしろ番がやったよねこれ。うん。ごめんね。蛍さんが来て欲しいです。
「討伐です」
 冒険者なので!!許せ!!


・・・


 ディルックは旅人によるヒルチャール等の討伐の案件を知った。だから、様子見に行こうと思った。旅人は止めようとしていたし、パイモンも焦っていた。ガイアは止めなかった。ジン達は止めなかった。それが答えだ。
 誰かがいる。あの旅人が止めたいと思うほどに、秘密にしたい何かがいる。秘密暴く趣味ではない。ただ、実力者がいて、協力者がいて、あの旅人の大切な人だと分かった。そこに愛が見えたから、確かめる必要があった。
 見えたのは女だ。白いワンピースの女が、ヒルチャールを相手に戦っていた。最近のヒルチャールは活性化している。それをものともせず、恐らく稲妻の武器、短刀で一撃ずつ与えていく。致命傷になれば即死。ならなかった場合は、しばらくもがいたヒルチャールは、"血を肌から吹いて"死んだ。毒だ。どんな毒かは知らないが。
 女はヒルチャールの巣を壊滅させ、殲滅すると、止まる。短刀を手に、真っ白なワンピースと、傷ひとつない肌で、笑った。
 幸せそうに、愛おしそうに、優しそうに。消えていく死体の山を、うっとりと。恍惚を浮かべて、笑っていたのだ。
 異常者である。はっきりと分かった。これは、危険だ。
「……何をしている」
 声をかける。女は気がつかなかったらしく、ハッとして笑みをやめて、こちらを見た。短刀はさりげなく後ろ手に回していた。その目には、確かな驚愕と、"嫌悪"があった。
「討伐です」
 にっこりと、拒絶の笑みだった。なるほど。敵対にする値する。
「冒険者なんです。ほら、身分証ですよ」
 見せてくるのは確かに冒険者の証明だ。ヒルチャール討伐の理由にはなる。だが、異常者を、狂人を、そのままにするつもりもない。戦うべきだろう。
 しかし女は言うのだ。
「あなたと戦うのは苦労しそうですね」
「何故だ」
 この女は僕を知らない。そのはずだ。
「だって、強いのでしょう?」
 女は信じている。
「私の番が、あなたを選んだのですから」
 やや、間が空いた。つまり。
「……既婚者か?」
「そうとも言います」
 それはそれで、疑問が深まるが?


・・・


 ディルックさんはぶっちゃけあんまり話したことがない。何故なら私が避けてるからである!私は知ってる。この人は妹の原神アカウントのガチャで私が引いた人である。レアリティはぶっちゃけ覚えてないが、妹が喜んでたので高レアのはず。強者はな、世界がおもちゃにしたがるし、おもちゃにしたがるんだ。大切なことは二回言う。何ならもう一回言おう。
 世界は強者を玩具にするのがお好きである。

 一気に距離を詰める。音は立てない。ディルックさんに警戒されてるのは分かるし私も嫌悪感がある。男性なのでな。まあでも近づいたのは理由があるし、九寸五分を警戒したのが瞬時に分かった。強者はこれだから困る。だが、私は攻撃したいわけではないんだよなこれが。
 腕を掴んで思いっきり、力の加減なんてせずに、後ろにノールックで吹っ飛ばす。強者なら受け身ぐらいはとれるだろ。取ってくれ。頼む。関係者たちに無闇な疑心は持たせたくない。やりづらいし、蛍さんに悪い。
 ディルックさんがいたところに矢が飛んでくる。九寸五分で弾く。矢は続く。雨のように降り注ぐそれを軌道を見て必要分だけ弾いて逸らす。気は抜けない。ていうか世界、私の番、玩具を壊すの好きだね。知ってた。
「っ!」
 ディルックさんが気がついてこっちに来ようとする。やめろマジ本当に安全地帯にいろ。
 矢を降らせてるのは数体のヒルチャール。はい、テイワット常識。ヒルチャールは低知能。
 この奇襲は完全にヒルチャールの必死の抵抗ではない。私の番が何か操作したのだ。うーん。番に多少の文句は言わねば。ていうか。
 今気がついたが、弓を構えたヒルチャールの中で、一体だけ、まだ攻撃していない。
「逃げてください!!」
 あれは、ディルックさんだけを狙っている。
 まあ、これで止まるんならテイワット世界の強者ではないんだがな!!


・・・


 女に突き飛ばされた、というより投げ飛ばされた。しかも容赦はない。思い切り地面に叩きつけられた。受け身を取る暇はなかった。女は全くディルック(僕)を見ていない。受け身ぐらいは自分でやれと言われた気がした。
 矢が絶え間なく降り注ぐ、ちいさな崖の上からヒルチャールが数体、弓矢を持っている。矢は雨のように降り注ぐ。止まらない。速度がヒルチャールのそれではない。異常だ。女は短刀で矢を弾いている。全ての矢ではなく、自分の体を守るための分だけだ。
 女に余裕は見えない。冷静ではありそうだ。ともかくディルックがやるべきは討伐である。だから、走った。のに。
「逃げてください!!」
 何かに気がついた女が矢を無理やり薙ぎ払った。上で、こたらを見て叫んだ。止まる義理はないし、意味もない。はず。だった。
 ヒルチャールが一体だけ、ひとつの矢を放った。それは確かにディルックの左上腕を引き裂いた。

 この程度で痛いとのたうち回る訳がない。なのに、強烈な痛みが走った。思わず体勢を崩す。女がヒルチャールのいる崖まで飛び跳ねて短刀で全てを切り裂いた。致命傷ではない。ヒルチャールたちはしばらく動いていたが、血を吹いて倒れた。死んだ。
 女が駆け寄ってくる。舌が回らない。手足が痺れてきた。毒だ。だが、これは何の毒だ。ヒルチャールが、矢に毒を塗った。その知能が、ヒルチャールにあるのか。
 思考するしかない。駆け寄ってきた女が短刀を投げ捨てた。そして、言う。
「治療行為をします」
 は?

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