セノ×カーヴェ/忘れ難き感情論/カーヴェ実装前幻覚です/幼馴染パロ


「カーヴェ」
「セノ」

 名前を呼び合う夢を見た。カーヴェは起き上がる。今日は早朝から、アルハイゼンが出張でいない。ぐっと伸びをして、朝の身支度を済ませてから、コーヒーを淹れた。

 随分と懐かしい夢を見たものだ。カーヴェは思う。あの頃はカーヴェもセノも幼くて、自分たちの境遇を考えもせずに受け入れて、身を寄せ合って耐えていた。繰り返される実験と理不尽に、互いがいる事だけで耐えていた。
 その砂上の城が崩れた時に、カーヴェとセノはやっと友達になれたのだ。
 共依存の幼馴染などではなく。

「カーヴェ、いる?」
「ティナリ?」
 どうしたんだと、製図用の道具を置いて玄関先に向かうと、ティナリが微笑んでいた。
「最近仕事に追われてたみたいだから、大丈夫かなって」
「心配してくれてありがとう。僕なら平気さ。それよりアルハイゼンが帰ってきた時に不機嫌だろうから、そっちの方が面倒だな」
「はは、そうかもね」
 優しい友人に、カーヴェは嬉しくなる。ティナリのことが、好きだ。彼は優しくて、善人で、他人をきちんと尊重する人だから。
「これからセノのところに行くのかい?」
「いや、コレイに筆記具を買ってあげたくてね」
「それこそセノも連れて行っておあげよ。彼はコレイのことを特別に思っていることだし」
「それもそうかな。じゃあ誘ってみるよ」
 そうだ、とティナリは改めてカーヴェを見た。
「本当に平気? 顔色が悪いよ」
「そうかな。まだご飯食べてないからじゃなくて?」
「まだ朝食前なの?! 一緒にカフェ行く?」
「いや、大丈夫。食料ならあるから、自分で作るよ」
「うーん、やっぱり一緒に行こうよ」
「でも、」
「コレイがさっきから待ってるよ」
「ええ?!」
 カーヴェは慌てて、すぐ用意すると走った。

 用意はすぐに終わった。最後に淡い香水をつけて、カーヴェは外に出る。鍵はちゃんと持った。
「お待たせ、ティナリ、コレイ」
「うん。行こうか」
 ティナリとコレイが並ぶ。カーヴェはその後ろを、眩しいものを見るように進んだ。

 古い記憶だ。いつだったか、記憶が曖昧で。もう、忘れてしまいたいのだと思う。でも忘れられないのは、きっと、あの時の幼い自分が幸福だったからだ。

 セノと合流する。ティナリとセノが会話している。コレイがそっとカーヴェの隣に立った。
「コレイ?」
「あの、カーヴェさん、」
「うん」
「あたし、カーヴェさんがすき、だから、」
「うん?」
「幸せになってほしいんだ、ぞ」
 頬を赤らめたコレイに、ありがとうとカーヴェは笑いかけた。

 それをセノとティナリが見ていた。
「面白くなさそうだね」
「何でもない」
 ティナリは苦笑する。
「教えてくれたらいいのに」
「何をだ?」
「好きなんでしょ」
「それは、言えない」
「どうして?」
「カーヴェはもう、地獄にはいない。きっと抜け出したのだから」
 そうは見えないけどね。ティナリはそっと目を伏せた。

 筆記具を眺める。カーヴェはコレイと並んでいた。あれこれと見ては、ティナリが指定した予算内で何を買うかと話し合う。コレイは素直で愛らしい。立派な少女であり、レディであった。
「あ、白いペンが」
「ん? ああ、セノの髪の色に似てるね」
「えっ、そうじゃなくて!」
「違うのかい?」
「あの、カーヴェさんの服、白いから」
「殆ど赤だと思うけど……」
「あと、学派ってやつの色が、白だって、聞いた、から」
「よく知っているね。白色は気に入ったかい?」
「うん、そうだ、ぞ!」
「予算にも合いそうだ。ティナリに聞いておいで」
「うんっ」
 コレイがティナリの元へ行く。カーヴェはそれを眩しそうに見ていた。
 そんな時に声をかけられる。
「カーヴェ」
「あ、セノ。どうかしたのかい?」
 ほら、と渡された小箱に、カーヴェはきょとんとする。
「家に帰ったら開ければいい」
「え? うん。ありがとう?」
「二人とも、もう行くよ」
「カーヴェさんっ!」
「分かった。行こうか、セノ」
「ああ」
 そうして、また四人で歩く。
 カフェで軽食を食べて、村に行く三人と別れた。気をつけてね、とカーヴェは見送った。

 家に帰ると、カーヴェは自室でそっと小箱を開いた。中にはインク瓶があった。
「限定カラーじゃないか!」
 手紙を書く時に使おう。そう笑みが溢れる。深い青色をしたそれは、カーヴェのお気に入りのメーカーのものだった。安くて、書きやすい。昔から、よく使っている。
 このインクを好んでいるのを、知っているのはセノぐらいだろう。カーヴェは、よく覚えていたなと苦笑した。
「もう忘れていいのに」
 自分たちの幼少期なんて、良いものじゃなかった。ただ、お互いがいた。それだけだった。今、こんなに幸福なのだから、互いのことなんて忘れていいのだ。
 カーヴェはただ、友達の幸福を願った。

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