ショウカヴェ/旅人の洞天にて/pixiv1300フォロワーお礼リクエスト企画より。通りすがりの旅人様リクエストありがとうございました!/ショウ→(←)カヴェかもしれない。わりと互いに無自覚です。


 カーヴェが仕事をする時の、その後ろ姿が好きだ。
 カーヴェが人に笑顔を向ける時の、気丈な姿が好きだ。
 カーヴェが大切な出来事を語る時の、愛情深い姿が好きだ。

 カーヴェ、の。

「ショウくん?」
 カーヴェが、きょとんと、している。旅人の洞天。カーヴェは旅人に頼まれて料理を作っていた。凝った料理をせっせと作る姿は慣れている。普段から家事をやるんだよ。カーヴェは言った。
「というか、僕は本当にショウくんって呼んでいいのかい?」
「構わない」
「仙人なんだろう?」
「仙だろうと、等しく旅人の仲間だ」
「そういうものかなあ」
「そういうものだ」
 カーヴェは手を止めることなく言う。カーヴェはよく洞天に招かれていて、ショウも然りだった。カーヴェは仕事を持ち込み、夜には家に帰る。ショウは璃月に危険がなければ洞天で過ごし、何かあればすぐに戻った。
 ここは悪いところじゃないけれど、カーヴェは言う。
「長いこと居ると、感覚が麻痺しそうだ」
「そうかもしれん。洞天は変わらない」
「うん。変化が乏しい。旅人が時の流れをなるべく操作してるって言うけど」
 でもやっぱり、この洞天は永遠じみている。カーヴェは苦笑する。
「どんな建築物も永遠ではない。洞天はすごいね」
「永遠がいいのか」
「違うよ。僕はスメール人だ」
「そうだったな」
 知恵を求めるものたち。ショウはカーヴェの調理姿を眺める。背中が大きく空いたシャツが、目に毒だ。あそこに、手を伸ばして、肌に触れたら。ショウは思う。きっと、とても心地良い。
「ショウくん、なんか視線が」
「何でもない」
「そう?」
 うーん、と首を傾げながら、カーヴェは次の野菜とフルーツのサラダへと向かった。

 夜になると、カーヴェはいつものように帰ろうとして、旅人に止められた。
「アルハイゼンから泊まらせて来いって言われて」
「何で??」
「なんかええと、要約すると」
「うん」
「休めって」
「あいつめ……」
 カーヴェは苛立ちを鎮めて言う。
「分かった。あいつも夕飯ぐらいなんとかするだろ。僕がしばらく休暇を作ってなかったのは事実だ。泊まらせてくれるかい?」
「もちろん! カーヴェのための部屋は既に用意してあるよ」
「え、なんで?」
「いつか泊まって欲しくて」
「ちょっと怖い」
 カーヴェはいそいそと部屋に向かう。ショウもちょんちょんとついて行った。
 旅人がカーヴェの為に用意した部屋は璃月式だが、モンドの調度品も混じる不思議な空間だった。意外と居心地が良さそうだと、カーヴェは目を輝かせる。
「すごいね、これだけ様式が違うのに、調和がとれている」
「えへへ、頑張ったんだ。ショウにも手伝ってもらったんだよ」
「そうなのかい?」
「ああ」
「ありがとう、旅人、ショウくん」
 カーヴェがそっと旅人の頭を撫でる。ショウもじっと見つめると、仕方ないなと頭を撫でてくれた。男性の手なのに、とても綺麗で、ショウは初めて触れたそれが好きになった。
「我もこの部屋に泊まる」
「え、寝具は一つだけど」
「共寝したい」
「ええっと」
「いいんじゃない?」
「た、旅人?!」
「我と寝てくれ」
「ショウくん落ち着いて。僕らはそれなりに大人だよ」
「ダメなのか」
「うっ、ダメでは、ない」
「ではいいな」
「はい」
 ショウが珍しく積極的だねと旅人は笑って、それじゃあ風呂は向こうだからと教えてくれて、寝間着なども置いて去って行った。

 カーヴェはとりあえずお風呂入ってくるよと、言うので、ショウも入ることにした。
 共に風呂に入る間、ショウはじっとカーヴェを見ていた。
「あの、どうかしたのかな」
 そんなに体を鍛えているわけではないから、恥ずかしいのだけれど。カーヴェの言葉に、ショウは言う。
「綺麗だ」
「あ、ありがとう?」
 困った様子だったが、嫌がってはいない。ショウはふむと考えた。共寝も拒否されなかった。流されやすいのだろうか。不安である。
「ショウくん、先に出るね」
「我も出る」
「あっハイ」
 寝間着は稲妻の浴衣であった。カーヴェは意外にもするすると問題なく着た。ショウは旅人の洞天に慣れているので、すぐに着替えられた。

 部屋に戻り、カーヴェは本棚を眺める。一冊、手に取ると、椅子に座って読み始めた。ショウはそんなカーヴェの隣に椅子を運んで、そっと座って眺める。ランプの灯りで本を読むカーヴェは美しい。本当に綺麗な人間だ。ショウはじいっと眺めた。

 やがて夜が更けると、カーヴェは本を閉じた。
「寝るのか」
 ショウの問いかけに、カーヴェはまあねと欠伸を噛み締めて言った。
 そして寝具に横になるので、ショウも入り込む。
「本当に一緒に寝るのかい?」
「ああ、そうする」
「物好きだね」
「そうだろうか」
 だって、とショウはカーヴェに抱きついた。もぞりと浴衣越しに体を揉む。
「ひっ、あ、」
「綺麗だ」
「やだ、やだやだ!」
「何もしない。ただ、少しは我が男だと分かったか」
「分かったから、だめだよ、お願い」
「ならいい。おやすみ、カーヴェ」
「ん、おやすみ、ショウくん」
 カーヴェはゆっくりと目を閉じる。すぐに眠った彼は本当に疲れていたらしい。無意識に擦り寄られて、ショウは彼を抱きしめる。抱き心地は大変好みであった。
 この身を苛む業は、変わらない。なのに、カーヴェを抱きしめると、人間がより愛おしくて仕方ないと思えたのだった。

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