鍾カヴェ/n回目の新婚旅行/ショウくんの漢字が表示されないのでカタカナ表記です。


 璃月に近い地域。スメールの雨林の間際。カーヴェはそこに立つ。高い場所から見下ろすと、雨林の奥底に眠る機関の鼓動を感じる。
 いのちのおとだ。
「カーヴェ殿」
「あ、鍾離さん!」
 カーヴェはひらりと振り返る。鍾離は微笑み、手を差し伸べる。
「璃月を案内しよう」
「うん。助かるよ」
 ついでに服も変えてみないか、と鍾離は笑った。

 旅人は璃月の探索をしていた。パイモンと共に、各地を回る。あれこれと依頼をこなして、探索を進めていると、見慣れた二人が見慣れぬ服で焚き火を囲んでいた。
「あ、旅人とパイモン!」
「久しいな」
「えっと、カーヴェと鍾離先生、だよね?」
「何でそんな赤い服で一緒にいるんだ?!」
 旅人の少女はそっと二人を観察する。赤と金の衣装は埃一つなく美しい。そもそも、赤は祝福の色である。めでたい色なのだ。例えば、婚礼の際に着るような。
「ねえ、カーヴェ」
「うん? どうしたんだい?」
「それ、花嫁衣装だよね?」
「そうらしいね」
 そうらしいね、とは。旅人は混乱した。鍾離は花婿衣装でにこにことパイモンと戯れている。カーヴェはピアスなどの装飾品も全て外して、璃月式の物に変えていた。
 まるで璃月に嫁いだかのようだ。
「旅人?」
「ええと、どうしてその服を着てるの?」
「鍾離さんに勧められたんだ。折角の璃月なんだから、現地の服を着るのもいいだろ?」
「だったら普段着を真似ればいいのに」
「鍾離さんが持って来たのがこれだったからな」
 つまり犯人は鍾離である。鍾離はそこで、優しい顔をして、カーヴェを呼ぶと、そっと肩を抱き寄せた。
「そういうわけだ。よろしく頼む」
「何がどういう訳なの?」
 旅人はツッコミをしたが、鍾離は笑うだけだし、カーヴェはきょとんとしていた。

 鍾離とカーヴェは璃月を転々としている。たまに焚き火で休みながら、さまざまな場所を巡っている。旅人はたまに目撃しては、話しかけたり、そっと見守ったりした。パイモンは、意外と仲良しなんだなと言っていた。
 宿に泊まるときは同じ部屋らしい。何度目かの会偶で、カーヴェが教えてくれた。旅人は鍾離を見た。何もしてないぞと彼は笑う。その言葉が出てくるところがもう信用ならない。だが、旅費を考えれば二人で同じ部屋をとるのは自然であった。同性ではあるので。ただし、両者共に見目麗しい。新婚夫婦にしか見えないのだ。性別、とは。

 そうして数日後、カーヴェと鍾離をどこの焚き火でも見かけなかった。何をしているんだろうと不思議に思って旅人はそっと行方を探った。すると、望舒旅館の一室にいることがわかった。
 ショウは何も言わずにいる。旅人は何も言えなかった。
 夜、月を見るのは、花嫁衣装を崩したカーヴェと、それを抱き寄せる鍾離だ。
 見てはいけないところを見てしまった。旅人は大変気まずかった。しかしショウは静かに言う。
「輿入れはすぐですか」
「いや、僕はスメールに帰るよ?」
「はは、ほんの幻の中だな」
「そうでしたか」
 ショウはやや不満そうだった。カーヴェは赤い布をたっぷりと余らせて、手を差し伸べる。ショウが近寄ると、君は良い子だと頭を撫でる。ショウは頬を染めて、目を伏せていた。

 失礼しようかな。旅人はそっとその場を去った。遅れて、ショウも部屋から出てくる。
「で、ショウとしては、アレはいいの?」
「長年の、想い会うもの同士だ」
「うーん。カーヴェの詳細が何にも分かんないね」
「実装を待て」
「わあ、メタい!」
 旅人は呆れたのだった。

- ナノ -