アルカヴェ/墓場まで持っていく/※幻覚です
※診断メーカーよりタイトルお借りしました。


 願い事があった気がする。遠く、遠く、古い記憶の隅に、誰かの声を聞いた気がする。
 たすけて、って言われた。だから、僕は、その手を取った。

 ゆめをみた。カーヴェは目を覚ます。長いこと、夢を見ている。まるで今この時も、カーヴェは夢の中にいるようだった。アルハイゼンの家で、一人きり。ああ、あいつは仕事か。カーヴェは何とか記憶を取り戻す。そうでないと、頭がぐわんぐわんと掻き混ぜられて仕方がなかった。
 天より与えられし才能を、遺憾無く発揮すること。
 カーヴェはそうでありたかった。でも、そうするには、カーヴェは凡人だった。平凡なカーヴェの肉体も精神も、才能は蝕んだ。ありとあらゆる手を使って、天才というものは、カーヴェを喰む。やがて心までその牙が届く頃。
 アルハイゼンが帰宅した。
「カーヴェ、何をしている」
「おかえり。本棚を整理してたんだよ」
「分類ごとに分けているのか」
「君ほどじゃなくても本の分類は分かる」
「本に慣れているな」
「今更かい」
「いや、好ましいよ」
「そう」
「カーヴェ」
 なに、と振り返る。アルハイゼンがじっとカーヴェを見ていた。
「君は才能を、墓場まで持っていくつもりか」
 カーヴェは何も言わない。言えない。カーヴェの才能を、人々は正しく理解できない。絶対に、理解も、利用もできない。全て、扱えるのはカーヴェの凡たる自己を削いだ、機械的な反応のみだ。
 芸術とは、人から離れた、尋常ではないものである。
 それを披露した際、言われることこそが、かみがかりである。カーヴェは常に、かみがかりをしていると、される。
 ただの、人間でしかないのに。
「アルハイゼンにはわからないさ」
「ああ、分からない。君と俺は違う」
「だったら放っておいてくれ。僕はまだ続ける」
 生きる為に命を捨てましょう。才能を手に、傷を抱きましょう。墓場まで持っていけば、どうせ誰にも迷惑はかからない。
「アルハイゼン、僕が死んだら砂漠の底に埋めてくれ」
「俺は望まない」
「それでも君はそうするよ」
 どうせこの身は砂漠に打ち捨てられるのが適切だ。

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