クロスオーバーpkmn×gnsn/アルカヴェ in grl!01/アルカヴェがガラルにトリップしてしまうはなし。年齢操作あり(子供になる)。


 まどろみの森。奥深く。英雄の眠る地に、ユウリとホップは来ていた。
「こうして二人でここに来るのは久しぶりだね」
「ユウリはチャンピオンとして忙しいし、オレも助手で走り回ってるからなあ」
 ザシアンとザマゼンタが先を行く。この二体こそがガラルの英雄であり、英雄が選びし王が、ユウリとホップである。その真実は、王を長らく得ていなかったこのガラルにおいて、何よりも重いが、ユウリとホップはその王の器で受け入れていた。
「あれ、あそこ……」
「えっ?! 人が倒れてるぞ?!」
 ホップが駆け出す。ユウリも続いた。

 それは二人の少年だった。銀色の髪の少年と、金色の髪の少年。二人は見慣れぬ豪奢な服を着て、眠っている。
「おい、大丈夫か?」
 とんとん、とホップが金色の髪の少年の肩を優しく叩き、声をかける。ユウリも真似して、銀色の髪の少年の肩を叩き、声をかけた。
 すると、二人は目を覚ます。銀色の髪の少年は緑の目に赤い瞳孔を。金色の髪の少年は深い深い赤色を、その目に宿す。
「なあ、オマエたちは一体何者なんだ?」
 ホップの問いかけに、二人は答えた。
「俺はアルハイゼンだが」
「僕はカーヴェだよ、あれ、なんか手が」
「子どもになっているな」
「何でだよ!? ここは秘境か何かか?!」
「ふむ。興味深いな」
「ええと、貴方たち落ち着いてね」
 ユウリがゆっくりと言う。
「アルハイゼンとカーヴェ、だね? わたしはユウリ」
「オレはホップだぞ!」
「わたしたちのことは知ってる?」
「知らない」
「有名人なのかい?」
「……ホップ、どう思う?」
「ちょっとまずいかもしれないぞ」
 ホップとユウリは視線を交わす。ホップとユウリがしでかしたあれやこれやは、ガラルを揺るがす事件と繋がっている。さらに、最も民に受け入れられるエンターテイメントこと、ポケモンバトルのチャンピオンとそのライバルだ。よって、二人を知らないと言うことは、ガラルの人間ではない可能性がある。なんなら、二人の名前と服装からして、どこの地方ともとれぬ、むしろ、古代のタペストリーに記される王のような雰囲気さえあった。
 ザシアンとザマゼンタがすり、とホップとユウリに二人に近寄る。アルハイゼンとカーヴェは二体を見て、驚いた。
「元素生物か?」
「いや、元素視覚が通じない。元素生物じゃないぞ!」
「待って」
「げんそせいぶつ?」
 二人は混乱した。いくらザシアンとザマゼンタがガラルの英雄にして、トーナメントで活躍していたとしても、他の地方の人間は知らない可能性がある。だけど、だけれど。だとしても、ポケモンだとは分かるのではないだろうか。
「なあユウリ、まずいかもしれないぞ」
「うん。これは、ちょっと」
 深刻な顔をする二人に、少年たちはぱちぱちと瞬きをした。


・・・


「何ですか急にアポイントメントも取らず、出直しなさい」
「ごめんってピンク!」
「ピンクは今関係ないでしょう!」
「ビート頼むよ! この子達を見てほしいんだぞ!」
「ぼくは医者じゃありません! おや?」
 ぴっと立つ二人の少年に、ビートはすっと目を細めた。
「……なるほど、まずはポプラさんに会ってください。ぼくは用意があります」
「助かる!」
「ありがとな!」
「ええと? あの、貴方たちは何者なんだい? それに、元素生物に似たものがたくさんいるけど……」
「正確な説明のために連れて来られた筈だが」
「その為の、ポプラさん(魔女)ですよ」
 ビートは言った。
「魔女とは知恵のある者。さあ、館はこちらです」
 アルハイゼンとカーヴェは、ユウリとホップに連れられて、アラベスクタウンの奥へと進んだ。

 館の中は薄暗い。だが、生き物たちがほうほうと光っている。
「やあ、客人だね」
 老婆は振り返りもせずに言う。椅子から立ち上がり、暖炉に薪を追加した。
「さて、運命は何を示したか、だね。ビートや、道具をお揃えなさい」
「はい。紅茶も淹れましょうか」
「ああ、それがいいね」
「分かりました」
 ユウリとホップがアルハイゼンとカーヴェを椅子に座らせる。ふわふわと、生き物が揺らめいていた。
「ポプラという。まあ、魔女という人もいるね」
「魔女か」
「魔女なんだね」
「驚かないの?」
「魔女ぐらい居るだろう」
「あまり他人と関わっていない筈だけどね」
「おお、やっぱりまずそうだぞ……」
「「?」」
 ポプラはくすりと笑う。
「大丈夫さ。ああ、おいでビート」
「道具を先に」
「ありがとうね。さあ、二人とも、この皮袋から石をお取り」
 アルハイゼンとカーヴェはそれぞれの袋から石を取り出す。アルハイゼンは黒い石。カーヴェは白い石だった。
「黒曜石と月長石だね。オブシディアンとムーンストーンだよ」
「……」
「はあ」
「偶然と必然、変革の力を示すのが黒曜石さ。ムーンストーンは豊かな愛情、流れを知ることを示すね」
「意味が通らない」
「石に意味を求める人たちもいるだろう、アルハイゼン!」
「サイコロを振ろう。11。二人は11歳の肉体を持っているようだね」
「今の僕ら11歳なのかい?!」
「若いな」
「ここからはビートの出番さ」
「紅茶が入りましたよ」
 ビートが静かにティーカップを二人だけの前に置いた。アルハイゼンとカーヴェは手をつけない。そのことをビートはよく分かっていた。
「飲むのではありません、水面を見ていてください」
「は?」
「どういうことだい?」
「ぼくは"それなりに"超能力者ですので」
 とんっと机を叩く。ゆらり、水面が揺れる。ふわ、とアルハイゼンとカーヴェのマントが揺らめいた。
「……なるほど。一通り、見させていただきました」
 アルハイゼンとカーヴェがぱちんと瞬きをする。
 ビートは言った。
「ここはガラル地方。海に、空に、大地に、ポケモンが住まう世界のいち地方です。あなたたちの住まうテイワットとは別世界ですね」
「は?」
「どういうことだい?!」
「知りたそうなことを言います。まず、ポケモンは不思議な不思議な生き物。まだ全貌は把握されていません。そしてポケモンと人は寄り添いあって生きるものです。次に、元素生物。元素というものはあなたがたの世界とこの世界では別の意味を示します。こちらではポケモンのタイプか最も近い。人間がそのタイプを持つことは極めて稀です。ポプラさんやぼくが、魔女とその弟子と言われるのも、普通とは異なる力を使う意味合いがあります。さて、あなたがたは本来成人した男性だけれど、ここでは子どもになっている。それは何故か。そこはねがいぼしが関係しています。ねがいぼしはつまり高エネルギー物質です。どうやら体内にあるようですね、ダイマックスを自在に操れそうです。そう、ねがいぼしは強い願いを持つ者の元に落ちてくると言います。あなたがたは強い願いがある。それを示すのが、あなたがたの持つ、神の目。神の目とねがいぼしは別物ですが、同じように願いを持つ者に引き寄せられる性質があります。結果、あなたがたはその二つを手にしている。元素の力はあまり使用しない方がいいでしょう。それこそ、ぼくは後ろ盾がいたから自由にいられた。後ろ盾がいなかった頃は思い出したくもない。まあ、そこのチャンピオンとそのライバルが後ろ盾に名乗りを上げればいいだけですけど、少し有名すぎますね。何せガラルの王たちですので。さて、最後に。アルハイゼンとカーヴェ。その名前は魂の名前。この世界において、唯一無二の、特別なもの。名乗るのは勝手ですが、使い所は見極めないとなりません。名前は個体を示す。これは全世界に通じます。あなたがたがここにいた形跡を残したいと思った時に大地に刻むのです」
 ビートは、ふう、と息をした。
「少し、使いすぎましたね」
「ビートの坊や、休みなさい」
「いえ、この二人はきちんと知るべきです。ぼくは情報を見ただけ。ポプラさんが運命を見た。ならば、自ずと質問がある筈だ」
 アルハイゼンとカーヴェは、静かに目を合わせてから、するりとポプラとビートを見た。
「つまり、別世界であり、俺には変革をすべき事柄がある、と」
「まるで明論派の講義のようだな。ええと、僕の方は愛情と、流れを知ること、か。大した役目ではなさそうだけれど」
「カーヴェ、君の愛情はここではより深い意味を持つのだろう。ポケモンとの共存、そこに愛があるのなら」
「ああ、ポケモンとやらが深く根差している世界か……ポケモンと人は寄り添いあって生きる、だったか。元素生物とは違うみたいだね。君の変革こそ、重たそうだ」
「どうでもいい。俺の望みは変わらない」
「平穏な日常。ここにそれを求めるのは厄介そうに見える」
「そうだ」
 二人の目に、ポプラは応える。
「偶然と必然の少年、豊かな愛情の少年。そたらを表に使いなさい。出身はアラベスクタウンを名乗るべきさ。多少、不思議なことがあっても、アラベスクタウン出身なら言い訳がつくよ」
「後ろ盾にはなれません。未知数すぎる。ああ、そうするとやはりそこのチャンピオンとそのライバルがふさわしい」
「わたしたち?」
「後ろ盾って言っても……」
「ただ、見守るだけでいいんだよ、坊やたち」
「それなら、なんとか?」
「うーん?」
「後ろ盾初心者の二人に課題を与えようね。何、不安がることはないよ。彼らにポケモンを与えなさい。最もふさわしいポケモンを、ね」
「ポケモンを与える?」
「どういうことだい?」
「あー、なるほど!」
「そういうことなら図鑑を持ってくるぞ!」
「研究所に行こう!」
「ソニア博士にメール送っておくぞ!」
「ん?」
「え?」
 首を傾げるアルハイゼンと、ぽかんとするカーヴェに、ポプラは微笑み、ビートはあの二人は全く落ち着きがないと呆れた。
「少しは保護者らしくなりなさい!」
「ビート、あの子達にそれを求めるのは可哀想さ。さて、黒曜石とムーンストーンを加工しようね。おいで、クチート。その口で二人のためにネックレスを作ろうか」
 ポプラがボールを投げてクチートを出す。クチートはその大きな口で器用に二つの石を噛み砕き、器用にビーズにする。ポプラはするすると紐でネックレスを仕上げた。
「アルハイゼンの坊やには黒曜石のネックレスを、カーヴェの坊やにはムーンストーンのネックレスだよ。時に身代わりにもなる。常に身につけておきなさい」
「……分かった」
「はあ」
 そこで、ソニアと連絡がついたからと、ホップとユウリはアルハイゼンとカーヴェを連れてプラッシータウンに、タクシーで飛んだ。タクシーってこういうのだっけ。アーマーガアタクシーの中で、アルハイゼンとカーヴェはじっとしていた。ちょっとこわい。

「で、その二人がトレーナーデビューするの?」
 ソニアはまず互いに名乗ってから、言った。
「「トレーナー?」」
「やっぱりね」
「あっそこから?!」
「あー!」
「トレーナーはポケモンを戦わせる人のことをいうの。まあ、ポケモンバトルをする人がポケモントレーナーを名乗れるわね。で? 二人はバトルしたい?」
「……ポケモンが戦うのか」
「僕らじゃないんだね」
「おおっと、なるほどね。アラベスクタウンに真っ先に行ったのはそういうことかあ」
「さっすがソニア! 話が早い!」
「ダンデさんより早い!」
「そりゃダンデくんよりは早いでしょ、世の中はバトルばっかりじゃないんだからね。えっと、ポケモンバトルを見てみる?」
「え、え、」
「ポケモンバトルとは?」
「そこにすっごく強い二人がいるんだけど」
「チャンピオンだよ!」
「そのライバルだぜ!」
「ね?」
「チャンピオンとは?」
「ガラルチャンピオンは、ガラル地方で一番強いトレーナーのこと。ライバルは、分かる?」
「競い合うってことかい?」
「そういうこと。じゃあ、バトルコートに行こうか」
 ソニアはそう言うと、四人を連れ、白衣を翻して、マグノリア博士のいる自宅へ向かった。

 マグノリア博士も見守る中、ソニアが審判を務める。
「使用ポケモンは一体、一対一のシングルバトル! 両者ポケモンを!」
「いっけー!ザシアン!」
「お願い、ザマゼンタ!」
「では、はじめ!」
 その次の瞬間から、アルハイゼンとカーヴェは目を見開いた。空気がガラリと変わる。神聖にして、戦場。ここは聖なる地と化す。ポケモンバトルは魂の交流である。ポケモンと人の生きる意味を問いかける。これら全てを、トレーナーとポケモンは相手とぶつけ合うのだ。
「いくぞ! せいなるつるぎ!」
「受けて、アイアンヘッド!」
 ワザとワザがぶつかり合う。ユウリとホップの目の色が違う。ザシアンとザマゼンタは生き生きと輝く。それを、アルハイゼンとカーヴェは全身で感じた。
「おたけび!」
「てっぺき!」
 変化技ですら、ポケモンの命を輝かせ、トレーナーの意義を問う。
「ギガインパクト!」
「頼むよ、メタルバースト!」
 バトルは、決着がつかなかった。
「そこまで! 残りHPから換算し、ユウリとザマゼンタの勝利とします!」
「よし! よく頑張ったねザマゼンタ!」
「耐久ならしょうがないか。よく頑張ったなザシアン!」
 よく頑張りましたね。マグノリア博士がそう告げてから、アルハイゼンとカーヴェを見た。ソニアもまた、二人に声をかける。
「で、どう? ポケモントレーナーになりたい?」
「それは、」
「……」
 カーヴェは口ごもり、アルハイゼンは無言になる。ソニアはにっこりと笑った。
「いいことだよ、ちゃんと考えるの。あの二人には、君達に渡すポケモンの候補をよく考えるように伝えておくから」
「いいのか」
「いいのかい?」
「だって、すぐに人生を決められるわけがないじゃん?」
「しばらくは、この屋敷で暮らしますか」
 ソニア博士とマグノリア博士はぱちんっとウインクをした。
 そんな頼もしい二人に、アルハイゼンとカーヴェは、こくん、と頷いたのだった。

・・・

「アルハイゼンはポケモンバトルがしたいかな」
 二人のためにと、部屋を片付けてくれた。そんな部屋のひとつしか無かったベッドに二人で潜り込む。カーヴェの問いかけに、アルハイゼンは言った。
「君がアレを好むとは思えない」
「……うん」
「だから俺が引き受ける」
「そんなの、悪いよ」
「今更だ。それに、君もいつかはポケモンバトルをする」
「うん。僕はまだ、決心がつかない、から」
「俺はできる。きっと、やれる。だから、君の半歩先で君を待っている」
「うん」
「いつか、並び立つように」
「うん」
「カーヴェ、」
「うん、アルハイゼン。僕はね、きっと、君のバトルが好きだよ」
「ポケモンもまだいないのに、か」
「だって君だからね」
 何にも代え難い、友人じゃないヒト。ただのルームメイト。でも、最も深く人生に互いを刻んだから。
「きっとここでも、僕らは」
「俺と君は鏡の側面だ」
「そうかもしれない」
 すうっと、二人は眠りについた。

 幼い二人が寝ついたことをワンパチの様子で気がついたソニアは、マグノリア博士に言う。
「ねがいぼしを宿している、か」
「ええ、ポプラから手紙が届いたの。通りで反応がある筈だわ」
「あの子達そのものが高エネルギー体で、ダイマックスのスポット。それはきっと、大きな事件が起きるよ……」
「大丈夫、あの子達はどうにも強いみたいだから」
「ダンデくんやユウリちゃんのようになるの?」
「いいえ、むしろ……闇雲な発言はやめておきましょうか」
「そう、わかった」
 わたしのほうも調べるよ。ソニアはそう言って、とりあえずは屋敷の自室に向かったのだった。

 外は満天の星空が広がる夜だった。

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