アルカヴェ/さよならの愛へ/失踪ネタです。名前付きモブが出て来ます。
目の前にブロンドの髪をしたおとこがいる。
指をさされた。
「お前が悪い」
そう、責められる。
「お前さえ居なければ良かった」
うん、そうだった。
「望まなければよかった」
そうだね。
「生まれたことすら意味を得ない」
そうだよ、僕は。
大切な人をころしたんだ。
『さよならの愛へ』
トントン、カーヴェは包丁を使って野菜を刻む。作り置きのおかずを用意するのは、もう馴染んだ作業だ。ずっと昔から、そうやって生きてきた。母は塞ぎ込みがちだったから、カーヴェが家事をした。
何一つ、おかしいことはない。カーヴェにとって、母の幸福を思えば、家事を受け持つなんて軽いことだった。学院祭のあと。亡くなった父のことを、アルハイゼンが教えてくれた。そうだったんだと、思った。礼を言えて良かったと思う。
ただ、スメールに留まる理由も無くなった。
「ただいま帰った」
「あ、アルハイゼン。夕飯ならできてるぞ」
「食べる。着替えてくる」
「あと本棚に本をしまっておいた。一応、区分は考慮したけど、読めない字は適当に並べたからな」
「構わない」
ああそうだ。アルハイゼンがカーヴェに近寄る。カーヴェはそこで初めて、振り返った。
「なんだ、え?」
アルハイゼンはスメールローズを手にしていた。美しいスメールローズの花束だった。
「どうしたんだ? 誰かにもらったのか?」
「違う」
「花瓶に入れよう。少し待ってくれ」
「違う」
「アルハイゼン?」
彼はじっとカーヴェを見ていた。カーヴェは苦笑する。
「贈ってくれた人の好意を無碍にしてはいけないだろう。ほら、今、花瓶を」
「だったら、受け取れ」
「……」
カーヴェは口を閉じる。アルハイゼンは真っ直ぐに、カーヴェだけを見ていた。
「好きだ」
「……」
カーヴェは答えない。花も、受け取らない。カーヴェの表情は、ごっそりと抜け落ちていた。
「……ごめん」
「構わない」
だが、これは君のものだ。アルハイゼンはそう言って、テーブルに花束を置くと、自室へ戻った。
カーヴェは料理の手を止めて、花束のための花瓶を手にすると、スメールローズを飾った。
これは、あくまでアルハイゼンの花だ。カーヴェは思う。彼の言葉を、言葉を重んじる彼の言葉を、無碍には出来ない。だから、カーヴェは断った。
ずっと決めていた。
「メラック」
すっとメラックが寄ってくる。カーヴェは小声で指示をした。
「部屋で待機してくれ」
カーヴェはそうして、調理に戻った。
夕食を終えて、風呂も終えると、カーヴェは自室に戻る。メラックを解体し、点検する。ざっと部品を組み替えて、プログラムを書き換える。全て終えると、また草の神の目が光る。メラックが再起動した。
「やあ、メラック。行こうか」
カーヴェは何もかもを置いて。否、メラックだけを連れて、窓から飛び出した。
雨林を歩く。カーヴェはふわふわと歩く。何事もなく、歩き続ける。人目を避けて歩いて、キノコンやアナンナラと進み続ける。
そして、一晩、歩き続けると、璃月の土地に入った。
カーヴェは宿場町で宿を借りる。仮眠をして、風呂で汚れを落とす。服はメラックに仕舞い込んで、新しい璃月式の服のお下がりを宿屋の主人が与えてくれた。カーヴェは全ての代金を払おうとして、それよりもとスメール式のオルゴールの修理を頼まれた。どうやら大切なものらしい。カーヴェはテキパキと直す。カーヴェとしては簡単な作業だが、知識のいるものだ。
「ありがとう」
「こんなことでいいんですか?」
「ああ、むしろ私の方からお代を出さなきゃいけないぐらいだ」
「そんな、困ります」
「ああ、そうだろうね。代わりに、そうだ! あなたがここに泊まったことを秘密にしよう」
訳アリなんだろう。そんな主人の言葉に、カーヴェはありがとうございますと頭を下げた。
璃月式の生成りの服で、カーヴェはふわふわと進む。璃月港に行くつもりはない。軽策荘に行きたいな。カーヴェは進む。
何日かかけて、宿場町で泊まりながら、カーヴェは軽策荘に辿り着いた。民泊をしている家があると聞いて、カーヴェは進む。
その家は、身寄りのない子供たちが身を寄せ合って暮らしていた。シェアハウスのようなもの。でも、それよりもっと強固な絆で結ばれた子供達の家だった。
「民泊、できます。俺は守田です」
「大谷です! 守田と俺が食事担当だぜ! あ、畑は俺が中心な!」
「結衣だよ! 軽策荘の子供たちに字を教えてるの!」
「水鳥です! 食料調達担当でーす!」
「あ、杏ですっ、えっと、一応医学の心得があって、医者みたいな……」
「青樹です。会計は私が担当しています」
「成澤だよー。食料調達は任せてねー」
「僕は、」
「あなたは川辺さんで」
「か、川辺って誰?!」
「いけませんか?」
首を傾げる青樹に、成澤がいいねーと笑う。結衣が訳アリなら偽名ぐらいないとねえと笑っていて、カーヴェはもうそれでいいやと苦笑した。
「じゃあ、宿代は」
「私たちへの授業でどうですか。私たち、それぞれが学びたいことがあるんです」
「先生になってほしいと?」
「はい。川辺さんはどうやら高名な方のようなので」
「ええ? そんな事ないよ」
「分かるものです。何事も」
青樹はそう言って、杏と水鳥にカーヴェの住む部屋へと案内させた。青樹が仕切っているが、一応、リーダーは守田らしい。だが、守田は比較的放任主義なのだと水鳥と杏が教えてくれた。
カーヴェに与えられた部屋はとても綺麗に整えられていた。壁に花の絵が飾られている。これは、何の花だろう。
「じゃあ、自由にしててください!」
「俺たち、やる事があるので……」
困ったらその辺の誰かに聞いてくださいねと、二人は出ていく。カーヴェはメラックを起動して、危険物がないかをチェックしてから、壁の絵を見た。何の花かは、分からない。だが、名前も分からぬたくさんの花が描かれた、花─束のような絵だった。
カーヴェは家の中を進む。どうやら屋敷であり、朽ちていた古民家を子供たちで建て直したらしい。
一通り、食堂や風呂などの場所を把握して、カーヴェは見かけた守田に声をかける。
「昼食の準備中に、ごめんね。紙と筆記具を借りられないかな」
「紙と筆記具なら、結衣が余り物を揃えて持ってます。西の部屋で幼い子達に字を教えているので」
「西の部屋ってところに行けばいいんだね」
「はい」
「分かった。ありがとう」
「いえ」
どうやら守田はお喋りなタイプではないらしい。
西の部屋には教室と札があった。
子供達の声がする。カーヴェが戸を開くと、結衣が、どうかしましたかときょとんとしていた。子供たちは懸命に字を書き写している。
「ええと、紙と筆記具を借りたくて」
「それならたくさん余ってるのでどうぞお! 何に使うんですか?」
「絵でも描こうかなと」
「それなら、えっと、この辺の紙切れ全部と、この辺にある筆記具、何でも使ってくださあい!」
「いいのかい?」
「はい! ただ、絵の具とかは無いから、必要なら青樹さんに相談してくださいっ!」
「そうなんだ。わかったよ」
「はあい!」
そうして、結衣は授業に戻った。
カーヴェは藁半紙と細い木炭と鉛筆を手に、外に出た。
軽策荘。川辺を名乗りながら、すれ違った人と挨拶する。スケッチに良さそうな場所に腰を落ち着かせて、カーヴェは絵を描いた。
「きれいだねー」
「っ、あ」
「成澤だよー、獣くさいかなー?」
「そんな事はないよ。狩りをしてきたのかい?」
「うんー、あと果物も取ってきたよー川辺さんは果物が好きそうーって聞いたからー」
「え?」
カーヴェが驚いていると、成澤はにこにこと笑う。
「何となくわかるんだー僕らはそうやって生きてきたからねー」
「それ、は」
「世の中は生きづらいねー。でも、生きるに値するんだよー」
だって、こんなにも綺麗。成澤はカーヴェの描いた絵を指でなぞった。
気がつけば夕方で。夕飯を守田から貰って食べる。粥に漬物だった。充分である。果物を少し食べて、カーヴェはとんとんと屋敷を歩く。地下があったので、進むと、本が沢山詰め込まれた部屋があった。
まるで、図書館か、アルハイゼンの書斎みたいだ。カーヴェは懐かしさに包まれる。アルハイゼンの家に懐かしさを覚えるなんて、おかしな話だけれど。
「書架に御用ですか」
小さな机と椅子に、青樹がいた。彼女はランプの灯りで本を読んでいた。
「これらの本は私たちに知恵を与えてくださった物です。全員が読んでいますよ」
「これだけの本を、全て?」
「はい」
「すごいね。お金もかかっただろうに」
「もうボロボロで商品にならない本を譲ってもらったこともあります。あまり、状態は良くないですね」
「でも、読める」
「はい」
「すごいことだよ」
「生きる為ですから」
何となく、分かるんです。青樹は本から顔を上げた。
「必要な人が、ここに来る。さて、あなたは何が必要なのでしょう?」
カーヴェは何も言えなかった。
自室に戻って、カーヴェはメラックの点検をする。そして、絵を仕上げていく。絵の具はいらない。モノクロの絵が良かった。眠たくなるまで描いて、ベッドに転がる。すぐに眠った。
・・・
はなのゆめをみた。
・・・
カーヴェは、うっすらと目を開く。朝だ。
それから、カーヴェは軽策荘で生活しながら、モノクロの絵を描いて港に行く水鳥等に売ってもらってお金を稼いだ。また、館の子供達に知る限りの知識を教える。一人一人、必要とする知識が違ったので、カーヴェは何とか工夫して彼らに知恵を授けた。
ひと月、ふた月と日々は過ぎていく。カーヴェはすっかり髪が伸びた。切るかと思ったら、勿体無いと、結衣が髪を結い上げてくれた。その日から、カーヴェは色々な髪型を少女たちから教えてもらった。
カーヴェはこの館に来てから、ずっと、はなのゆめ、を見続けている。花畑にいるのだ。不思議なものだなと、カーヴェは自室にある花束のような絵を見て思う。相変わらず、花の名前は分からなかった。
ある日、カーヴェが絵を描いていると、こんにちはと声をかけられた。それは真っ黒な子供だった。髪は黒く、目は黒く、服は黒く、肌は白い。
「ねえ、きみはなんであの館にいるんだい?」
「それは、僕が、逃げてきたから」
「ほんとうに?」
「え?」
「だった、逃げるなら、ここからもっと遠くにだって行けばいい。それをしないのは、あの館でやりたい事があるんだよ」
「それを、あなたは何故指摘する?」
「だって、子供達は可能性だ。あなたは大人だよ。でも、あなたの心の奥底はずうっと子供だからね」
だって、ね。
「ぼくはこどもがすきだよ」
にっこりと、黒い子供は、笑うと、消えた。
カーヴェは暫しぼんやりとしていたが、絵を描くことに戻った。
館でやりたいこと。カーヴェは歩き回る。建築デザイナーとしてやりたい事があるわけではないようだ。だったら、何が。
「はなのゆめを見ますか」
杏がいた。彼はこっちですと、書架へと進む。
書架の奥。進むと、植物の植木鉢が多く置かれた部屋に出た。地下だが、天窓から光を取り込んでいる。青樹が、からんからんと石を転がしていた。
「来ましたか」
「やはり俺たちに、」
「そうだと思ったんです」
「ええと?」
「先輩は魔女。僕は魔法使い……まあ、男女で呼び方が違うだけで、同じように魔法を扱う人って事です」
「魔法……」
魔法とは。
「魔法は、この世ならざる法を基に、奇跡を起こす行為です。その法は人間から見れば非道とも思えるかもしれません。でも、それこそがこの世ならざる世界と繋いで奇跡を起こす方法なのです」
「俺たちはそれが出来る。貴方の、願いを聞きます」
「僕の……」
願いなんて、ひとつきりだ。
「お願いが、あるんだ」
──アルハイゼンの記憶から、カーヴェ(僕)を消して欲しい。
・・・
はなのゆめをみた。
それは、咲き誇る大輪のスメールローズを、手折る夢だった。勿体無いのに、酷く安心した。
これで、あの子は幸せになれるから。
・・・
カーヴェは軽策荘で、絵を描いて過ごす。三ヶ月は過ぎていた。そろそろ、住み始めてから四ヶ月は経つだろう。自然の中で、カーヴェの感覚が研ぎ澄まされていく。体が浄化されていく。カーヴェの罪と罰が、精算されようとしていた。
「いいことだね!」
にっこりと、あの日の黒い子供がいた。
「何の意味もない罪だ。何の徳もない罰だ。そんなもの、ひとつもいらない」
「そうだね」
「あなたはもう生まれ変わったんだ! よかったね」
「うん」
嬉しそうに、子供は笑うと、また、消えた。
・・・
半年が、過ぎた。カーヴェはすっかり軽策荘に根付いていた。川辺さん、川辺さんと、子供達に好かれながら、絵を描く。物事を教える。カーヴェは白い服を着るようになった。名前を、忘れそうだった。
花の絵は、いつの間にか、名前が分かるようになった。
アジサイ、アネモネ、キンセンカ、ラベンダー、オシロイバナ。そして、キョウチクトウ。
綺麗な絵なのに、やけに物騒な花達だと、カーヴェは不思議に思ったのだった。
・・・
そして、一年後。カーヴェの元に、白い少女がやって来た。
「カーヴェ、ここにいたんだね」
「あなたは?」
「忘れたの?」
「何をだい?」
彼女はひどく傷ついた顔をする。そして、言った。
「アルハイゼンが待ってるよ」
「アルハイゼン?」
「ずっと、誰かを待ってる。あなたなんだよ」
「僕を? どうして?」
だって僕は。
「しあわせに、」
何だっけ?
・・・
少女はカーヴェを無理矢理連れて行く。館の子供達はいつでも戻って来てくださいねと送り出してくれた。少女は苦々しい顔をしていたが、子供達に悪意はないと言った。
「あの子達は願いを叶えるんだよ」
「願いを?」
「そういう、一種の世界装置。やられた。あなたは何を望んだの?」
「さあ?」
「そう……」
少女は旅人と名乗って、パイモンという幼子と、カーヴェを連れて長い旅をした。
着いたのはスメールシティだった。
カーヴェは結い上げた長い髪を揺らす。白い服をひらひらと動かして進む。
とある家の前で、旅人がノックした。扉が開く。そこにはグレーの髪をしたおとこがいた。
彼はカーヴェを見ると、すぐに抱きしめた。カーヴェはされるがままに、じっとしておいた。
旅人とパイモンはまた来るねと、いなくなる。おとこはカーヴェを抱き上げて、ソファに降ろした。
「俺はアルハイゼンだ」
「僕は、カーヴェ、だと、思う。僕らは知り合いなのかい?」
「分からないんだ。何も、分からない。だが、俺はずっと、探していた。その探し人が、カーヴェのはずだ」
「ふうん」
君は、とアルハイゼンは言う。
「俺が嫌いか」
「まさか! 人は幸せになるべきだよ」
「じゃあ、どうして、俺の記憶から君が消えたんだ」
「どうしてだろう? それが君の幸せだからかな」
「忘れる事が幸せだと?」
「忘却が癒すものもあるんだよ」
カーヴェの言い分に、アルハイゼンはそうかもしれないとだけ言った。
「カーヴェ。俺は何度も君を手放してきた気がする」
「へえ、そうなんだ」
「だから、今度は俺と一緒にいて欲しい」
「どうして?」
「君が、カーヴェだからだ」
「失くした記憶を取り戻したいんだね。いいよ、手伝おう」
カーヴェは契約だと、笑った。アルハイゼンはただ、苦しそうに息を詰めていた。
・・・
メラックはカーヴェと共にやった来ていた。カーヴェの部屋だと言われた場所をまず掃除して、アルハイゼンの失くした記憶を探す。何か、わかりやすい形はないものか。ウンウン唸りながら、カーヴェが探し出したのはスメール式のオルゴールだ。表面に花の絵がある。真っ赤な薔薇だった。
アルハイゼンが作った夕飯はあまり美味しくなかったので、カーヴェは次から自分が料理を担当しようと言った。
そうこうしていると、カーヴェは家事を一手に引き受けるようになった。絵を描いて、家事をして、仕事に行っては帰ってくるアルハイゼンの送り迎えをした。スメールシティの人々はカーヴェをよく知っているようで、ゆっくりすればいいと言ってくれた。どうやらアルハイゼンの失くした記憶のことを気にかけているようだ。
愛されてるじゃないか。夕飯の席で言えば、アルハイゼンは黙って聞いていた。
カーヴェは庭に出る。そこには花が咲いていた。カラフルなアジサイだった。カーヴェはアジサイの花をひとつ、手折る。水を張った皿に浮かべた。
「この花はどうしたんだ」
「咲いてたんだ。アジサイというんだよ」
綺麗だろう。カーヴェは笑った。アルハイゼンは苦しそうに、呻いた。胸を押さえて、アジサイを落とそうとして、踏みとどまる。
「君はっ!」
「うん」
「どうして、俺の記憶にないんだ、どうして消えたんだ。俺は、また、間違えたのか」
「きっと、違う」
カーヴェは言った。
「何もかも、幸せになる為に、僕らは生きているんだよ」
アルハイゼンは、叫ぶ。
「だったら、幸せなんて要らない!」
やめてくれ、もういやだ、カーヴェ、どうか、離れないで。
アルハイゼンが崩れ落ちるのを、カーヴェはただ眺めた。アルハイゼンが欲しいのは、記憶の中のカーヴェであって、今ここにいるカーヴェではないからだ。
そういえば、カーヴェもまた、アルハイゼンを忘れている。それでいいと、カーヴェは思った。
罪も罰も、ここにはない。
ほんとうに?
・・・
はなのゆめをみた。
はなのゆめをみた。
ははのめめをみた。
ななのゆめをみた。
花の夢は終幕する。
その為に、手折る。
その必要があった。
・・・
魔女と魔法使いはただ、言う。
「そろそろ花の夢の効果が切れますね」
「良いんじゃないですか? だって、変な話だったんです。好きなのに、拒絶するなんて」
「まだ私達には分からない恋心と言うものでしょうね」
「そうなんですか? よく分からない」
「さあ、魔─法を使いましょう。きっと、奇跡が起こりますよ」
・・・
朝。カーヴェは目覚める。
「っうわ! 寝坊した!」
朝ごはんの支度をしよう。カーヴェはパタパタといつもの白いシャツに赤い服を着て、キッチンに立った。
朝食を作ると、アルハイゼンが起きてきた。
「おはようアルハイゼン! 手抜きですまない。寝坊したんだ!」
「君は」
「どうしたんだよ、そんな幽霊を見たような顔をして」
「ああ、そうか。俺たちは戻ったのか」
「何の話だ?」
さあ、とアルハイゼンは言う。
「答えを、くれないか」
「ああ、スメールローズの? あのねえ、僕だって心の準備があるんだよ。君と違ってね」
「うん」
「僕もずっと君が好きだ。だけど、伝えるつもりなんて無かったんだ。だって、一緒に住んでるんだ。そんなの、もう、」
カーヴェは笑う。
「家族みたいなものじゃないか!」
その言葉に、アルハイゼンはゆるゆると笑ったのだった。
『さよならの愛へ』終