アルカヴェ/無神05・完/掌編


 迷っていた。そんな僕をかみがかりだと言う。
 ふざけるな。神の様に素晴らしいものじゃない。
 ただ、血を消費した。
 生き様をぶつけた。

 だから、僕は、こうして罰を背負えるのだ。


『無神』


「俺は君の姿をかみがかりなどと思わない」
 はっきりと言う。カーヴェはぱちんと瞬きをした。
「何だよ。どうしたんだい、急に」
「思い出したんだ」
 級友たちのひそひそとした陰口。あれは天才だと、天賦の才能だと、あれこそがかみがかりであり、凡人には到達できない境地だと。
 馬鹿馬鹿しい。
「君は只人だ」
「それが何だよ」
「君が"どうであれ"、俺が欲した者に変わりはない」
「あっそ。君に欲しがられた記憶なんてないけど」
「欲しいと思ったのは君を傷つけた時だった」
 アルハイゼンはもう間違えない。カーヴェはきゅっと手を握っていた。図面の前、いつもは滑らかに動く手が、止まっていた。
「君が離れたと分かった時に、分かったんだ」
 俺はカーヴェが欲しい。
「才能が欲しいって?」
「違う」
「おしゃべり道具?」
「違うな」
 俺は、君だからいいんだ。
「罪と罰を背負って、それでも尚(なお)、輝きを曇らせない。そんな君だから、俺は、君を只人であると思い、欲する」
「回りくどい」
「好きなんだよ、君が」
「嘘つき」
「俺は君に嘘は言わない」
「言いたいことしか言わない」
「そうだ」
「……僕は嫌だ。君と並び立つとみじめでたまらない」
「それが君の認知の歪みだ」
「訳がわからない。僕は罰を受けているだけだ」
「君が罰を受けたいなら止めないが、俺から離れるのは、認めない」
「分からない。何も、君のことが分からない」
「他人同士は真に分かり合うことがない」
「だったら、今のままでいいだろう。いつか出ていく、僕を止めるな」
「俺は君を手放さない」
「分からない、解らないんだ、本当に」
 僕にどうしてそこまで求めるのか。
 求めるくせに、僕の気持ちなんて知ったことがないとどうして無情に思えるのか。
「僕のことが嫌いなんだろう」
「すきだよ、カーヴェ」
「僕はきらいだ」
 楽園はここには無い。でも、今、カーヴェの言える最上級の愛の言葉だった。だから、アルハイゼンは満足して、読書を再開したのだった。

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