アルカヴェ/新約10・終/掌編


 かぞく、って何だろう。

 あたたかいもの。壊れてしまったもの。だが、本来家族とは、第一のコミュニティであり、社会へ巣立つための準備の居場所である。
 子は、いつか巣立つ。
「だから何なんだよ」
「俺はいつか君が巣立ってもいいと思う」
「じゃあ放っておけよ」
「今じゃないと言ってるんだ」
 剣呑な雰囲気に、二人だけは気圧されない。そんなものは二人の傷害にならない。
 ここはアルハイゼンの巣の中だ。
「君にも俺にも、もう家族がいない」
「ふざけるな。母さんが」
「君の母親は母親であることを放棄した」
「そうじゃない!」
「だから、君は俺の家族になるべきだ」
「何言ってるんだ! 僕と君は全くの個人だ。個人は家族になれない。僕と君は家族になれない」
「君の家族の定義はどうでもいい。ただ、保証がほしい」
「君にとって保証なんて些細なことだろう。真意が読めない」
「真意も何も無い。少なくとも、俺は、俺の家に君がいる事を許容した。だから、君も俺の我儘を受け入れろ」
「何だよそれは。我儘? どこが?」
 アルハイゼンはカーヴェの手を取る。カーヴェはびくんと震えた。怯えた男に、男は言う。
「家族になろう」
 ぼろ、り。カーヴェの目から涙が零れた。手の中に温かいものがある。まるいもの、ほそいもの。
 ああ、この手の中に"愛"がある。

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