アルカヴェ/新約05/掌編


 すきにならないで、きらいでいて。
 嫌ってくれるから、僕は息ができる。

「それでいいの?」
 無垢な旅人の目に、アルハイゼンは答える。
「ベストだろうに」
「どこが? 傷つけているようにしか見えない」
「あれは俺が嫌っていると思っているから、我儘が言えるんだ」
「確かにカーヴェはアルハイゼン以外には典型的な"いい子"だよ。でも、だったら、」
「自己嫌悪からくるいい子か、それに益を求めると?」
「……カーヴェを癒したいんだよ」
「君には無理だ」
「アルハイゼンならできるの?」
「さあな」
 アルハイゼンは、ではなと、旅人特製のスープを持って、帰宅した。

 家の中。がりがりとカーヴェが設計図を描いている。一心不乱に、アルハイゼンの帰宅など知らないように、図面と向き合う。
 かみがかり。
 そんな言葉が過ぎる。馬鹿らしい。誰が、これを神にした?
 誰が、これに"かみ"なぞと言うレッテルを貼り付けた?
「あ、アルハイゼン」
「今帰った。スープはいるか」
「また旅人に貰ったのか。君がスープ嫌いだって知ってるのに、旅人は何故スープを渡すんだろう」
「知らん。興味もない」
「そう。とりあえずそこに置いておいてくれ。僕は仕事がある」
「明日は現場か」
「うん。打ち合わせ」
「君はまだ戦闘に慣れてない。俺も行く」
「君も仕事だろう」
「それがどうした」
「訳がわからない」
「君は本に所蔵印が欲しいのか」
「本こそ必要な人に渡るべきだ」
「だとしても、俺は君と共に行こう」
「あっそ、好きにしろよ」
「ああ、そうしよう」
 そうして、アルハイゼンは、カーヴェが用意してくれていた風呂に入った。

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