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 キクの花毒殺事件・序章
キクの花毒殺事件・序章

タイトル:キクの花毒殺事件

要素:クロスオーバー/友情/刀剣男士の個体差/本丸差/創作審神者/どうしたってよく喋る名前付きモブ/殺人事件/死ネタを含みます/ミステリーではない/化け物退治はある/トンデモ設定が斜め上にカッ飛びます

ジャンル:刀剣乱舞+名探偵コナン

一次創作から転用したモブがいます。


・・・


登場人物(サブキャラクター含む)

獅子王…刀剣男士、偽名「源獅子」大学生
鶴丸国永…刀剣男士、偽名「五条鶴」大学生

江戸川コナン…小学生
安室透…探偵

本間照久…富豪家
本間みどり…富豪の妻
本間リカ…富豪の娘
八坂光広…婚約者
相模墨明…サラリーマン
天野裕二…執事
羽黒恵奈…メイド
厚藤四郎…偽名「八坂厚」下宿人
亀甲貞宗…偽名「亀甲ましろ」服飾デザイナー

鶯丸…偽名「友成鶯」図書館職員
大包平…偽名「友成包平」花屋店員

山姥切長義…偽名「本作長義」政府職員


・・・


 やわらかな日差しに、目が眩む。きゅっとやわい手を掴めば、母はそっと自分の影にわたしを入れてくれた。
「さあ、お母さんの後ろにいなさい。ああでも、外で遊びたいのなら出ていかなくてはね」
 美しい母はそう笑うと、そっとわたしの背中を押した。遠くには同じくらいの背丈をした彼らが遊んでいる。果たして、若輩者のわたしはその輪に入れてもらえるのだろうか。不安を覚えて、母を見上げれば、大丈夫と優しい笑みを浮かべていた。
「彼らは貴方の敵ではないわ」
「ほんとうにそうですか」
「ええ、そうですとも。だって、彼らは歴史を守る物ですからね」
「れきしをまもる?」
「ええそう。そうね、きっと正義の味方なのよ」
「わるものをおいはらってくれるのですか」
「いいえ、斬り伏せてくれるわ」
 母がきゅっと目を輝かせた。美しい、人離れしたその目の色に釘付けになる。凡庸なわたしの目とは一線を画した、まるで神秘の塊のような目だった。
「おーい」
 こっちに来いよ。そう言って、兄弟の中で比較的背の高い彼がわたしに手を振っていた。戸惑ってその場から動けずにいると、焦れた彼が駆け寄ってくる。
「ほら、隠れてないで遊ぼうぜ!」
 それとも隠れんぼでもするか。そう悩んだ彼に、わたしは恐る恐る声をかけた。
「あなたはほんとうにわたしのかたな(・・・)なのでしょうか」
 茶色い目が見開かれる。紫のメッシュが入った彼の髪が風で揺れた。
「何言ってんだよ、当たり前だろ」
 貴方は俺の大将だ、と。


・・・


 季節は夏。蝉がまだ鳴いていない早朝。たたたと刀が走る。
「鶴丸ーいるかー?」
「なんだい、こんな朝っぱらから」
 突然鶴丸の部屋にやって来た獅子王は、鶴丸が暇だって聞いたからと話を続ける。
「とある本丸に依頼した物の受け取りに行くんだけど、一緒に来るか?」
「構わないが、依頼した物とは何だ」
 きょとんと金色の目を丸くした鶴丸に、獅子王は何でもないように告げた。
「貴重なゲームブック、としか言えねえな。詳しくは本を前にした時に教えるぜ」
「ははあ、驚きでももたらしてくれるのか?」
「ま、ある意味驚きはするんじゃねーかな」
 じゃあ、準備を整えたら門の前で集合な。獅子王は明るく告げてばたばたと部屋を出て行ったのだった。


 時代は二〇一〇年代。米花町のとある純喫茶に獅子王は鶴丸を連れて訪れた。からんからんとドアベルを鳴らして入店すれば、店員が声をかけてくる。獅子王はツレを探していると言い、店内を見回した。すぐに目当てのツレとやらを見つけたらしく、案内はいいからと店員の横を通って席についた。
 四人がけのテーブル。座っていたのは鶯色の髪と目をした青年。鶯丸だった。
「やあ。GM本丸の刀だろうか」
「そっちは花園本丸だよな」
「今回は図書室として来たんだがな」
 まあいいさ。鶯丸はそう言って、事態を飲み込めずにいる鶴丸を見た。
「そちらは付き添いか? 初めまして、友成鶯と名乗っている物だ」
「そりゃ丁寧にどうも。俺は五条鶴だ」
「して、鶴を連れてきたのはどういう了見なんだ?」
「暇そうにしてたから。あと、そっちに顔を合わせておいたほうがいいかなって」
「なるほど、きみの本丸の運営指針というわけか」
 まあいいさ。二度目のその言葉の後、鶯はふたつあった紙袋のうちの一つを持ち上げ、中身をテーブルに置いた。
 それは古い本だった。葡萄色の表紙に、金文字でアルファベットらしき単語が書かれている。中身も英字だぞ。鶯はくつくつ笑った。
「おい、これは何なんだい?」
「ゲームブックだぜ。それも当の昔に絶版したやつ」
 獅子王はその本をぱらぱらと確認し、ふうと息をかける。ぱらぱらと何かが散って落ちた。それを見て眉を寄せた鶴丸に、簡単な呪術だと鶯は言った。
「ウチで管理する本には簡単な呪術をかけている。仕組みさえわかれば鶴でも解呪が可能だろう」
「獅子は何で知ってるんだ?」
「何度か本を頼んでるからな」
 これぐらいは解呪できる。獅子王は持って来ていた紙切れを鶯に渡す。鶯が無事受け取ったと署名し、びりびりと重ねて三回破くと紙切れは鋼色の粉となって消えた。

「それにしても、そっちはどうなんだ?」
「どう、とは?」
「花園も、図書室も、運営の方は順調か?」
「順調さ。特に困ったことはないが……」
「俺の同位体については?」
 獅子王の指摘に、鶯は眉を寄せた。珍しい表情を見たと、鶴丸が目を見開く間に、鶯が口を開く。
「図書館(・・・)は上手く行っているらしい。向こうの文士も、悪いものではなさそうだ」
「それならいいけどさ」
 何かあったら力を貸すと、獅子王は念を押した。

 用事も済んだことだから。鶯丸はもう一つの紙袋を持ち上げた。中にはどうやら花が入っているらしい。
「何だ、花園の方で配達でも頼まれてるのか?」
「その通りだ」
「配達とはなんだい」
 首を傾げる鶴丸に、鶯は自身の本丸が花園本丸と呼ばれていること、審神者の友人から花の注文を受けたことを説明した。
「どうにも急に必要ということになったらしい。珍しい品種な為、普通の花屋では間に合わない、とな」
「で、鶯のとこにはあったわけか」
「まあ、偶然だがな」
 鶯はそう言って、獅子王と鶴丸にそっと花を見せた。
「品名は桜貝、だったか。薄いピンク色とも言えるが、だいたい白いダリアだ」
 俺はそこまでしか教えられてないんだがなと、鶯は言った。
「どこまで配達するんだ?」
「喫茶ポアロというところで依頼人と待ち合わせている。獅子と鶴も来るといい」
 どうせ暇なんだろう。その指摘に、バレたかと獅子王は苦笑した。
「でも、いいのか?」
「花を渡すだけだからな、良いも悪いもないだろう」
 そろそろ行くかと、鶯は立ち上がり、会計を済ませて喫茶店を出た。そして獅子王と鶴丸もそれに続いたのだった。


・・・


 喫茶ポアロは比較的空いていた。鶯が先頭になって入店すれば、おやと顔を上げる女性がいた。茶色の髪にピンク色の目。獅子王が既視感を覚えていると、女性は落ち着いた声で花園さんと声をかけた。
「お待ちしていました」
「やあ、待たせてしまったな」
「いいえ、そんなに待っていませんよ。そちらの方々も、職場の方なのですか?」
「こちらは友だ。では花を渡すとしよう」
 鶯が紙袋を女性に渡すと、女性は花を確認してほうと息をこぼした。
「素晴らしい花ですね。友人に花園さんのことを聞いて本当に良かった」
 どうやら花園という花屋からの配達という設定らしい。本丸だとは知らないのかと、獅子王が首を傾げた。その横で、鶯は良い花だろうと自信有りげに答えた。
「俺の弟分が揃えたんだ。立派なものだろう」
「ええ、とても。それにしても良かった、間に合ったわ」
 間に合った(・・・・・)?獅子王が眉を寄せる。鶴丸はそんな獅子王に気が付きつつも、口を開く。
「そんなにその花がないと困るのかい?」
「それはええと、」
「ああ、俺なら五条鶴だ。こっちは源獅子、あっちは知っているだろうが友成鶯だ」
「あ、いいえ、花園さんのお名前までは知りませんでした。私は本間リカといいます」
 どうぞよろしくお願いしますねとリカは柔らかく笑った。
 
「ねえねえ、今、お花渡したの?」
 ひょいと声をかけてきたのはコナンだった。そういえば喫茶ポアロの二階は探偵事務所だったかと、獅子王と鶴丸が僅かに顔色を悪くした。コナンがそれを見逃すわけもなく、久しぶりと声をかけた。
「獅子さんも、鶴さんも、久しぶり! そっちのお兄さんも大学のサークル仲間なの?」
「いや、俺は図書館職員だぞ。友成鶯という」
 鶯がさらりと答えると、そうなのとくりくりとした青色の目が鶯を捉える。鶯は顔色を変えることなく、見た目からしてそうだろうと訳のわからないことを述べた。
「見た目……うーん、エプロンが似合いそうだね」
「実際、仕事の時はエプロンをしているぞ」
「ふうん、汚れるから?」
「それもあるが、制服みたいなものだな」
「じゃあ、なんで図書館職員さんが花を届けるの?」
「弟分が花屋をしているんだ。手が空いていたのでな、配達の手伝いだ」
「そうなんだ!」
 そう話していると、あまり聞きすぎては引かれてしまうよと声がかかる。喫茶ポアロの店員こと、安室だった。
「あ、安室さん!」
 コナンの声に、鶯がふむと安室を見上げる。店員ならばと声をかけた。
「珈琲を頼む。獅子と鶴はどうする?」
「俺たちは荷物があるから帰るぜ。あんま長居したら迷惑なんだから、気をつけろよな」
 そうして安室、コナン、本間リカ、鶯に見送られて、獅子王と鶴丸は喫茶ポアロを出た。

 しばらく歩いて人気の無い路地に入ると、二振りは揃って帰還用の装置を起動したのだった。


・・・


 本丸に戻ると、時間は夕方となっていた。夜に出陣があるという獅子王と別れ、鶴丸は明日の演練について同部隊の同田貫に意見を聞きに行かねばと本丸を進んだ。


・・・


 翌朝。早朝も早朝のまだ空が白んできた頃。
 獅子王と鶴丸は緊急の札を使って審神者の執務室に呼び出された。
 何事かと駆けつければ、蜂須賀と山姥切長義が難しい顔をして座っていた。膝を突き合わせていた彼らは獅子王と鶴丸に気がつくと、よく来てくれたねとやはり難しい顔のまま告げた。
 単刀直入に言おう、と。
「本間リカが死んだ」
「……は?」
 蜂須賀がぶわっと空中に幾つもの画面を開く。長義がすいすいとそれを操作し、困ったことになったと言う。
「本間リカの死亡により、参考人の一人として警察が獅子王と鶴丸を探しているんだ」
「というわけですぐに用意を整えて米花町へ向かってほしい」
「へ?」
「蜂須賀、落ち着きなよ。獅子王と鶴丸も落ち着いて聞いてほしいんだけど、いいかい」
「え、あ、おう」
「【何故出陣するのか】には、明白な理由があるんだ」
 まさかと、獅子王が眉を寄せた。
「まさか、時間遡行軍の気配がする、とか?」
「ご明察。流石はこの本丸の第一部隊長殿だ」
 ということで、と蜂須賀は長義から話を継いで、改めて言った。
「獅子王と鶴丸に緊急任務を発令する。二〇一〇年代の米花町にある時間遡行軍の反応を調査し、発見次第殲滅せよ」
 頼むよと、蜂須賀が真剣な面持ちで告げた。


・・・


 獅子王と鶴丸が純喫茶を出た時間に出陣すると、鶯丸が紙袋を大事そうに抱えておやと片眉を上げた。
「どうしたんだ獅子も、鶴も。殺気立っているぞ」
「きみなあ、呑気すぎるぞ」
「時間遡行軍の気配がするって聞いたんだけど」
「時間遡行軍? この米花町にか」
 それは穏やかではないな。鶯はそう言っていて、緊張感が見えない。獅子王と鶴丸は顔を見合わせる。確かに、時間遡行軍の気配は薄い。それどころか、感じないとまで言えた。
「鶯はこれからどうするんだ?」
「ん? これから花を届けに行くと言っただろう」
 着いてくるかとの鶯の誘いに、獅子王は迷わず着いていくと告げた。その前のめり気味の言葉に、ははと鶴丸は誤魔化した。
「その花が見てみたいと思っていてな」
「花が? お前たちも花が好きなのか。だが依頼人に最初に見せろと言われているんだ。確か、痛むといけないからと」
 その言葉に何かが引っかかる。獅子王が指摘する前に、鶴丸がふむと答えた。
「ふむ、そうなのか」
「ああ、花は繊細らしくてな」
 鶯は何でもないように告げた。

 喫茶ポアロに入店すると、ぱちりと本間リカが顔を上げた。これからこの人が殺される。鶴丸と獅子王は僅かに息を呑んだ。
「やあ、待たせてしまったな」
「いいえ、そんなに待っていませんよ。そちらの方々も、職場の方なのですか?」
「こちらは友だ。では花を渡すとしよう」
 鶯が紙袋を女性に渡すと、女性は花を取り出して確認し、ほうと息をこぼした。しかし、鶴丸と獅子王はその花を見て今度こそ息を呑む。
 その花はマーガレットによく似ていた。
「素晴らしい花ですね。友人に花園さんのことを聞いて本当に良かった」
 鶯丸は自身有りげに答える。
「俺の弟分が揃えたんだ。立派なものだろう」
「ええ、とても。それにしても良かった、こんなに綺麗な菊の花を用意していただいて……本当に、綺麗ですね」
「ああそうだな、俺の弟分が手塩にかけて育てたんだ」
「そんな花を分けて頂けて感謝します」
 ふわと笑うリカと誇らしげな鶯に、鶴丸が待てを口にした。
「待て、その花は菊なのか?」
「ん? 確か、菊のはずだ。これは特別でな、見た目はマーガレットとやらと似ているらしいぞ」
「いや、そうではなく、それはダリアではないのか?」
「ダリア? 菊とよく似ている外国の花か?」
「ダリアと菊はよく似ていますから、思い違いをしてもおかしくありませんね」
 甚く花を気に入ったらしいリカが花を見つめたまま、鶯に管理方法などを質問する横で、こそりと鶴丸は獅子王に言った。
「……獅子王」
「ああ」
 言わずとも、獅子王には鶴丸の意図が分かった。

──歴史改変されている。

「鶴、獅子、俺はこの辺りで一泊するのだが、お前たちはどうする?」
「ええっと、俺たちは」
「あの……」
 泊まる場所にお困りでしたらとリカは告げた。
「泊まる場所にお困りでしたら、我が家はどうでしょうか」
 部屋ならありますよとリカは言う。どうやら安室とコナンも本間家に泊まるらしく、用意を整えていた。
「どうして、ええと、安室さんとやらも本間さんの家に泊まるんだ?」
「依頼ですよ」
 詳細は秘密ですと安室はウインクをする。その横で、コナンが安室さんは探偵なんだと言った。
 獅子王がきゅっと眉を寄せて質問した。
「探偵? あんたが?」
「はい。これでも私立探偵をしていまして」
「コナンくんはその安室さんに着いてくっていう……?」
「コナンくんは細かいことによく気が付きますからね」
 お泊りの許可はきちんと頂いていますよと、安室はにっこりと告げたのだった。





キクの花毒殺事件、開幕。



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