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 休日の過ごし方
姫鶴+小豆/休日の過ごし方


 暖かい。姫鶴は目を細めた。今日は良く晴れている。秋晴れというやつらしい。
「何して、にゃあ」
「南くん、眠そうだねえ」
「こんだけ晴れてれば……まあ今日は休日だし、にゃ」
「俺、ここに来てから初めての休日なんだけど」
「あー、そういえば」
「けんけんとごこの姿は見えないし」
「粟田口に誘われて夢の国に行ったにゃ」
「何?」
「まあ、遊園地だ、にゃ」
「ふうん」
「ま、好きなように過ごせばいい、にゃ」
「それが出来たら、ここで悩んでないんだけど」
「それもそうだ、にゃ」
 南泉は律儀にううむと悩む。本丸は最低限の警護の刀以外は、休暇となっている。審神者は護衛を連れて万屋に買い物に行っていて、短刀たちは遊園地。若い見目の刀たちはゲームに興じたり、現世に遊びに行ったりしている。古い刀は茶を楽しんだり、庭園の世話をしたりと微睡むような時間を楽しんでいた。
 姫鶴は何処にも行けず、縁側で寝ていた南泉に話しかけていた。
「あ、そういえば」
「何?」
「厨で長船の長い奴らが保存食作ってるはず、にゃ」
「長船っていうと、けんけんは居ないから……あつきがいる?」
「行ってみたらどうだ、にゃ?」
「南くんは行かないの?」
「俺は、ううーん」
 そこで猫殺しくんと声をかけられた。南泉がのろのろと振り返ると、長義がにこにこと笑っている。げえと、南泉は眉をひそめた。
「TRPGの時間だよ」
「別にいいけど、にゃ」
「てーぶるとーくあーるぴーじー?」
「ゲームだよ、姫鶴さん」
「面子はいつもの、にゃ?」
「物吉たちだね」
「あ、所蔵元の」
「そうだよ」
「俺が行かなくても刀数いるだろ、にゃ」
「もう猫殺しくんのPC作ったんだよね」
「勝手に作るな、にゃ!」
 じゃあねと長義が南泉を連れて行った。姫鶴はそれを見送ってから、厨に行ってみるかと立ち上がった。

 厨では燭台切を筆頭に、せっせと保存食作りが行われている。長船の太刀たちに加え、鶴丸と大倶利伽羅もいる。太鼓鐘は短刀なので、遊園地に行ったのだろう。
「おや、姫鶴かい」
 ここにちかづくなんてめずらしいね。小豆が振り返り、言う。ただし、木べらで鍋を掻き混ぜるのは止めない。柿ジャムだぜと鶴丸が言った。
「熟れた甘柿はジャムにして、渋柿は干すんだ」
「ふうん」
 鶴丸は大倶利伽羅と干し柿を紐で繋いでる。ぶら下げて干すのさと、笑っていた。
 小魚や川海老の佃煮を作る燭台切が、食材の下拵えをしながら、声をかける。
「小豆くん。姫鶴さんと休憩してくる?」
「いいのかい?」
「働き詰めでしょ。小竜くん、ジャム頼める?」
「任せて」
 小竜が小豆と交代し、木べらで鍋を掻き混ぜる。
 大般若が、休憩するならと、金柑のジュースと葡萄のコンポートを盛り付けて渡してくれた。

 背中を押されるままに厨を出た姫鶴は、小豆を見上げる。小豆は、やすまないともどれそうにないなと、苦笑していた。
「どこがいいかな」
「俺はあつきがいるなら何処でもいーよ」
「うーん」
 ああそうだ。何かを思いついたらしき小豆は、ついておいでと、歩き出した。

 そこは本丸の中にある花園だ。審神者が緊急で使う小屋を潰して作られたそこは、五虎退や江雪などの園芸係で管理されている。今日は大包平と髭切が当番らしく、すれ違った二振りに、挨拶をした。
 ガーデンテーブルとチェアに辿り着くと、ここがいいよと小豆は笑った。花に囲まれたそこは、とても安らぐような気持ちになる。審神者の霊力が濃く漂っていて、厳重に守られているような心地がした。
「じっさい、わるいものがちかづけないばしょ、だからね」
「ふうん」
「さあ、たべようか」
 小豆と机を囲む。金柑のジュースよく冷えていて、葡萄のコンポートは甘くて美味しかった。
 暖かな日差しを浴びて、きらきらと花が輝いている。きれいだね。小豆はよく手入れされた花園を愛でている。綺麗だね。姫鶴はそんな小豆を見ながら言った。
「すんごい、綺麗」
「姫鶴はすきなはながあるかい?」
「あつきは?」
「わたしはね……」
 そうして続いた花の名を、姫鶴はそっと胸に仕舞ったのだった。



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