ガーデン・ガーデン・ライブラリー


 魔女裁判殺人事件・転
魔女裁判殺人事件・転


 さて、一先ずの聞き込みは行った。コナンは獅子王の隣に立つ。迷宮のような思考の海に飛び込んで、考える。

 気になったのは、突如として落ちてきた凶器たる鉄パイプだ。獅子王がそっと問いかける。
「鉄パイプ、見たんだろ。どうだったんだ」
「とてもじゃないけど、人技には思えない」
 あの、ねじ切られた鉄パイプは人の手には負えないだろう。だったら、例えば何なら鉄パイプをねじ切れる?
「例えば何だ?」
「……今まで、獅子さん達と、見てきたような、化け物、なら」
 そう、化け物。細雪の言っていたそれが、コナンの頭の中を駆け回る。そう、コナンは見てきた。
 だが、コナンには記憶改竄が行われているはずだ。獅子王が眉を寄せる。
「覚えてるのか?」
「いや、なんだろう、頭が痛い……」
 酷い頭痛がコナンを襲う。だが、ここで屈してはならないし、負けてもならない。コナンは探偵の勘により、今もっと恐ろしいことが起きる筈だと気がついていた。

 そんなコナンを気にも止めず、則宗がうははと笑う。
「いやはや、人が死ぬなどオオゴトだ。そうだろう坊主」
「当たり前だよね。でも、それにしてはアマリリスさんはあまり驚いてないね」
 清光が赤い目を光らせてアマリリスを見る。アマリリスはくいと方眉を上げて語って見せる。赤い髪と赤い目が清光を見つめ返している。
「そうかい? 君たちこそ驚いていない様子だけれど」
「真逆! とても驚いているぞ。なあ坊主」
「そうだね」
 二口の飄々とした様子に、アマリリスはふいと視線を逸した。
「……血の匂いは薄いか」
 ぼそりと呟いたのを、コナンは聞き逃さない。遅れて刀剣男士たちも耳に入ったそれを、咀嚼する。何か、恐ろしいことが起きる。そんな予感をさせる声音だった。
 だが、刀剣男士にも、コナンにも、それが何かは分からない。

 泉がそっと肩を押さえた。ぎり、と血が滲むかのようなそれに、雪がそっと庇う。細雪は息を潜めていた。
 そのことに、コナンも刀剣男士も、気がつく由はない。

 灰原を蘭が見ている。大丈夫、私達がいるよ。そんな蘭の腕の中から、灰原が出てくる。その瞬間、灰原とアマリリスの目が合った。ニィ、笑うのはアマリリスだ。
「濃いのはこっちだ」
 跳ねるように、灰原の背後に回り、首筋に歯を突き立てようと口を開く。
「っ!!」
「哀ちゃん!」
 キイン、高い金属音。じゅわり、肉の溶ける音。異音、異臭。さっとアマリリスが灰原から離れる。真逆な。アマリリスの指先が爛れていた。曝け出された灰原の首には、蘭の渡した銀の鹿のペンダントがあった。



- ナノ -