ガーデン・ガーデン・ライブラリー


 魔女裁判殺人事件・起
魔女裁判殺人事件・起


 コナンは蘭に連れられて、喫茶7番目に来ていた。アンティーク調の家具や本が揃えられたそこで、オレンジジュースを飲んでいる。
 やや不機嫌そうなコナンを見て、笑うのは一人。
「お邪魔したわね」
「別にいいけどよ」
「コナンくん、パンケーキでいい?」
 うん、蘭ねーちゃん!
 コナンが元気良く応えれば、蘭は次は哀ちゃんねとメニューを眺める。そう、灰原が一緒にいたのだ。
「ったく、何で……」
「心が狭いわね」
「んなことねえ」
「はいはい」
「哀ちゃんはショートケーキでいい?」
「ええ、いいわ」
 じゃあオーダーしよう。蘭がすみませんと店員を呼んだ。
 その瞬間、ふっとコナンが窓の外を見る。すると、金色の髪をした青少年が通り掛かった。あ、とコナンは目を見開き、ガタッと立ち上がる。
「江戸川君?」
「わりい、行ってくる」
「え、ちょっと」
「コナン君?」
「蘭姉ちゃん、友達がいたから行ってくるね!」
「え?」
 なるべく早く帰るから。そう言われて蘭はきょとんとしていた。灰原は、相変わらずだ事と呆れていた。


・・・


 獅子王と大包平と鶴丸は米花町を歩いていた。
「んーっと喫茶ポアロだけど」
「行っても例の本丸の使者とは会えんだろうな!」
「だよな」
「おうい、獅子、包平」
 何だよ鶴丸。二口が振り返ると、コナンをかろく小脇に抱えた鶴丸がいた。

 はははと鶴丸は笑う。
「いや、こっちに走り寄ってくるコナン君が居たものだからな。抱えてみた」
「おい大丈夫か。気分は悪くないか」
「相変わらず子どもに優しいよな!」
「う、うん、平気……ちょっと気持ち悪いけど」
「だろうな。おい、どこかで休むぞ」
「おいおい、休むと言ったってどこにだ?」
「喫茶ポアロに行こうぜ! 一応の目的地だし。コナン君もいいか?」
「うん、大丈夫」
 じゃあ出発。獅子王の声で四人は喫茶ポアロに向かった。


 喫茶ポアロに安室は居なかった。買い出しですと梓が笑う。
「ハムサンドと、コーヒーみっつ。コナン君にオレンジジュースを頼むぜ」
「え、ボクもいいの?」
「当たり前だって! よろしくな」
 はいと梓はキッチンに向かった。
 客は他にいない。さてはて、どうしたものか。折角出会えたのだから、コナンの推理力をうまく使えないだろうか。そんな風に獅子王が考えていると、大包平がおいと口にした。
「どうしたんだ、包平」
「客が来る」
 カランカラン。音を立てて一人、客が現れた。いらっしゃいませと梓が対応する。コナンはちらりと客を見た。
 赤い髪に赤い目。派手な色を持つその人は、上等なスーツを着崩す事無く、着ている。夏なのに暑くないのか。コナンは目を細めた。探偵の勘が働く。なにかあるぞ、と。
 遅れて入店した客がいた。黒い髪に黒い目の青年。穏やかそうな人だった。
 二人は奥のテーブルに着くと、何やら話し込む。コナンが耳を澄ませていると、鶴丸もまた静かにしていた。獅子王と大包平が特に関係のない世間話で偽装する。ここまで来れば、ある程度展開が分かるほどに、獅子王たちはコナンに慣れていた。

 つまり、事件が起こるのだろうと。

「おや、こんにちは!」
 新たに入店した客がいた。声をかけられ、獅子王と大包平が振り返ると、特に大包平が目を丸くした。
 そこに立つのは白い御髪の少年だ。後ろには二人の女性がいる。以前にも会った人々だ。
「お前は確か、細雪か?」
「ごめいとう! ぼくは細雪です。こちらは雪さん。そして泉さんです!」
「こんにちは」
「こんにちは、どうしたんですか、お揃いで」
 泉の質問に、大包平が息を吐く。
「それはこちらの台詞だ」
「私達はあくまで立ち寄っただけですけれど……あら」
 泉が奥の赤い髪の人と黒い髪の青年を見つける。雪がそっと目を細めた。細雪こと今剣は、ついでにコナンを見つけておやまあと笑顔になる。
「なにかおきそうですね?」
「だろうな」
 たいくつはしなさそうです。
 細雪はそうしてくすくすと笑った。


・・・


 灰原と蘭が食事を楽しんでいると、隣席に青年二人組がやって来た。金色のふわふわとした髪をした青年と、黒い髪に赤い目の艷やかな青年だ。
「僕は珈琲を頼む」
「俺はアイスティーね」
 店員に注文すると、二人はふうと息を吐く。
 何だか不思議な雰囲気の人たちだわ。灰原は、江戸川君なら首を突っ込むでしょうねと頭痛がした気がした。蘭は、哀ちゃんどうしたのと不思議そうだった。
「何でもないわ」
「それならいいけど……あ、クリームついてるよ」
「え?」
 ほらここと、蘭の指が灰原の頬についたクリームを取る。そしてふわりと笑った蘭に、まるで私が子どもみたいと灰原は安堵の息を吐いた。


・・・


 喫茶ポアロ。喫茶7番目からそれほど離れていないそこで、コナンは違和感があるんだよねと告げる。
「って獅子さんが」
「ん?!」
「猫被りはいらないわ」
「まあ、雪。そう言わずに」
「そうですよ、わたるせけんはなんとやらですからね」
 泉はさてと口にした。
「何をしているかは知らないけれど、あの二人からは手を引いてほしいんです」
「何故だ!」
「こちらの事情でごめんなさい。どうしても、私達はあの二人を……」
 そこで二人が席を立つ。どうやら何かを話し込んでいたが、切り上げたようだ。刀剣男士たちとコナンと雪と泉はやや間を開けてから、彼らに続いた。
「一体何があるんだい?」
 鶴丸の問いかけに、コナンが耳を澄ませる。泉は普通は関係のないことですよと苦笑した。
「ちょっとした縁があるんです」
 何だいそれは。鶴丸がそう聞こうとすると、ドオンと衝突音がした。コナンが走り出す。獅子王もまた、走った。大包平たちも、遅れて走り出した。


・・・


 金色と黒色の二人組が店を出た。蘭と灰原も、食事を終えて外に出る。そして、美味しかったねと世間話をしながら歩いていると、ふっと遠目に金色と黒色の二人組が立ち止まっていた。
 あの二人、と灰原が瞬きをした瞬間。ドオンと衝突音。灰原は見てしまった。見知らぬ青年が、突風で煽られ落下した工事現場の足場、鉄パイプに、貫かれた。
 真っ赤な血飛沫。鮮血に、灰原はよろめく。蘭はその瞬間を見ていなかったらしく、ワンテンポ遅れて、見ちゃだめと灰原を抱きしめた。

 獅子王とコナンたちが事故現場に駆け寄る。工事現場に人はいない。居るのは赤い髪のスーツの人と、コナンと蘭と哀と、泉と雪と細雪と、刀剣男士たちと、金髪と黒髪の二人組。
「これはまた、派手だな」
「そんなこと言ってる場合?」
 やられた。黒髪の青年、加州が口惜しそうに言い、金髪の青年、則宗がまあこういうこともあるかと苦々しく眉を寄せた。



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