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 魔女裁判殺人事件・序
あなたと出会えた幸福と
あなたと別れる不幸せと
成功の下には歓喜の歌と
敗北の味には恐怖の色と
これは知恵持つあなたの
人と悪魔との契約という
世界で一番真っ赤なお話


『魔女裁判殺人事件』


「結構結構、僕を魔女と罵るか!」


タイトル:魔女裁判殺人事件
要素:クロスオーバー/友情/刀剣男士の個体差/本丸差/創作審神者(モブ)/どうしてもよく喋る名前付きモブ/殺人事件/死ネタを含みます/ミステリーではない/化け物退治はある
ジャンル:刀剣乱舞+名探偵コナン/一次創作

獅子王…刀剣男士、偽名「源獅子」大学生
鶴丸国永…刀剣男士、偽名「五条鶴」大学生
大包平…刀剣男士、偽名「池田包平」大学生

江戸川コナン…小学生
毛利蘭…高校生
灰原哀…小学生

鬼頭泉…警備会社員の事務員/変異種
塩野雪…プログラマー
ジェイド=アマリリス…英国商社勤め
高川音糸…看護師
今剣極…刀剣男士、偽名「細雪」
一文字則宗…刀剣男士、偽名「福岡則宗」
加州清光極…刀剣男士、偽名「加賀清光」


・・・


 染まるは赤。真っ赤な世界はすぐそばにある。血を吸い、糧とするものたち。吸血鬼である彼らは美しく飛び回る。


──絶対に出会ってはならないよ。


 そう言われた。そう言われたのに。

 恋に落ちた。


・・・


 夏の最中。蝉の声が響く本丸を愛染は駆け回る。今日は全部隊が休みとなることが決まっている。何故なら、本丸の設立日だからだ。GM本丸の担当が、年中無休な上に立場が危うい彼らに気を利かせて用意してくれる、年に一度の完全休暇に、刀たちは穏やかな時を過ごす。愛染はこんな日も駆け回るが、仕事をしているわけではない。ただ、じっとしているのが性に合わないだけだ。
「獅子王いるかあ?」
「おう」
 空き部屋の一つ、綺麗に掃除されたそこで獅子王が鶴丸と大包平と共に静かに過ごしていた。存外静かも好む彼らに、オレは合わないなと愛染は思う。若く見えるが、流石は平安刀といったところか。
「どうしたんだ?」
 獅子王がきょとんと見上げる。手には本があり、どうやら流行りの推理小説らしかった。金色のまつ毛がさらりと揺れる。細い体躯は、それでいて男性のものだ。
「ええっと、お使い頼めるか」
「お、いいぜ。なあ鶴丸、大包平」
「任せろ」
「愛染の頼みなら断らん」
「助かるぜ。いつもの特殊な本の受注でさ、2020年代でしか受け付けないって言われて」
「あー、図書館本丸か」
「花園本丸でもあるな! 頼めるか?」
「おう!」
「任せろ!」
「構わん!!」
「そっか! じゃあ受注書はこれ。喫茶ポアロで待ちあわせになってるけど、肝心の刀剣男士は不明」
「え?」
 驚く獅子王と鶴丸。不可解そうな大包平に、まあ特殊な本だからと愛染は苦笑した。
「本の特異性に見合う相手じゃないと話にならないってさ。うちの本丸だったら獅子王に適性があると思う。鶴丸と大包平も、悪くないぜ!」
「どういう適性なんだ?」
「うーん、説明が難しいんだけど」
「ん?」
「探偵小説の、亜種だな」
 もしかして。大包平が口を開いた。
「九十九か」
「詳細は開示されてないけど、おそらく九十九に近い力を持ってる。それがこっちは欲しいんだ。まあ、最悪受注できなくてもいい。観光気分でいいぜ!」
「ふうん」
 その依頼、受けるぜ。獅子王はにっこりと笑った。


・・・


 夕方、染まるは秋の紅葉。いつも秋ばかりのこの本丸には、優しい人ならざるものたちで溢れている。
「雪さん!」
「今剣、どうしたの」
「かるたをみつけたので、あそびませんか? 前田や平野がよういしてます」
「それはいいわね。私で良ければ」
「やったあ! はやくあそびましょう!」
 白い髪に紫色の目の雪と、白い髪に赤い目の今剣がじゃれている中、ふたりともと声がかかる。雪と今剣が素早く振り返ると、朱色の長い髪を結い上げた朱色の目の女性がいた。
「あるじさま!」
「どうしたの、泉」
「出掛けるの。少し時空を超えるから、護衛についてきてくれる?」
 一人だと出来る事が少ないから。そう笑う泉はそっと髪の結紐を解いた。服はとっくに現代服で、それを見た今剣は着替えてきますと跳ねて告げる。雪はもとから現代服だったので、前田たちに声を掛けてくるわと駆け出した。
 雪は政府の第三型特殊合成人間ブラックシリーズNo.2として生まれた。対歴史修正主義者を想定した兵器だが、心を許した泉とその刀である刀剣男士たちには顔を緩ませる。

 そんな柔らかな日常に、泉もまた、微笑みを浮かべている。

 元来、政府に買われた身。唯一の肉親である弟の無事を保証されたものの、行く宛のない泉に、最も大切にしてくれる雪と、信頼できる刀たちがいるのは、極めて幸福にして、稀なことだ。
 恵まれている。泉は確かに感じていた。自分はとても、恵まれている。だからこそ、責務を果たさねばならない。
「……人は、優しいもの」
 人は優しい。だから、泉は必ずや、歴史を守るのだ。


・・・


「やあ、坊主」
「何してんの」
「休暇だったんだが、ここに来てから働き詰めで何をしたらいいのか分からなくてな。暇つぶしに書の呪術の練習をしていたんだ」
「で、結果がそれ? 歪だね。猫?」
「うはは、うちの南泉の坊主に似てるだろう!」
「全然。南泉は貴重なオスのミケでしょ」
「む、三毛は創り辛いな」
「はいはい。で、任務だよ」
「おお、何だ?」
 加州がぴっと指令書を懐から取り出した。
「2020年代に出陣。俺とあんただけ」
「でえとか?」
「そう甘ったるいもんじゃないよ」
「では何だ?」
「ウチのケジメをつけに行くんだってさ。やられてばっかりじゃ嫌でしょ?」
 うはは、則宗は愉快そうに笑った。
「そりゃあいいな! 念入りに支度しよう」
「そうして。じゃあ2時間後に時空転移装置の前ね」
「うむ」
 さあ、久しぶりの仕事だ。則宗も加州も、口元には笑みを浮かべながらも、目は一切、笑ってはいなかった。

 それを見ながら廊下ですれ違った鶯丸が、抱えた本の背をなぞって、怖いなあとくつくつ喉を鳴らした。


・・・


「あ、哀ちゃんこんにちは」
「……どうも。どうしたの? 江戸川君なら工藤邸だけど」
「ううん、哀ちゃんに用事があったの」
 これ、と差し出した箱にはチョコチップクッキーが詰まっていた。
「お茶とどうぞ。あとこれ」
「え?」
 小さなプレゼントボックスに驚いていると、蘭は昔買ったものが出てきたのと微笑む。恐る恐る開けば、中にはシルバーの鹿のペンダントがあった。
「縁起物にもなるはずだから」
「こんないいもの、いいの?」
「うん。見つけたときに、哀ちゃんに一番似合うと思ったの」
 渡しちゃ駄目だったかな。そう蘭が小首を傾げるので、駄目ではないけれどと灰原はペンダントの凹凸をなぞる。
「気に入ってもらえたかな?」
「……ええ、とても」
 何も返せないのが残念だわ。そう灰原が言うと、お返しなんて要らないよと蘭は笑った。
「チョコチップクッキー、早めに博士と食べてね」
「……ええ、そうするわ。ありがとう」
「どういたしまして」
 じゃあまたね。蘭が阿笠邸を出ていく。それを見送ると、灰原はなるべく早足で自室に戻った。道中、阿笠が客人かのと顔を出したが、もう帰ったわと返事をしておいた。

「何も返せないのに」
 あの子は本当に優しい。灰原は泣きそうな顔でペンダントを握りしめたが、やがてゆるゆると手を開いて、首元につけた。学校では没収されてしまう。だから、この阿笠邸に居る間だけでも。
 一人でそう願っていると、博士と呼びながら駆け込んでくるコナンの声がしたのだった。



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