フェアリス/宝石と植物ときれいなもの4/鬼灯(弟)+オリビン中心


 雨だ。鬼灯はスフィアの外にいた。ぽつぽつと降る雨は、大方の植物にとって天からの恵みそのものだ。木陰、木の根に座って、心地良い湿気に包まれて、鬼灯はぼんやりと何もせずにいた。姉に見られたら、働けと言われるだろうか。わからなかった。それがどうでも良いと思うほどに夢心地だった。
 しかしそんな雨の中、何かがきらりと輝いた。誰かが雨の中を飛んでいる。緑色の鈍い煌めき。オリビンだった。かれはふらふらと明らかな不調を背負っている。
「ちょっと」
 鬼灯は思わず飛び出した。オリビンの腕を掴むと、彼は雨ですっかり濡れていた。いつもの輝きは無く、表情も暗い。木陰まで引きずった。
「なにしてんの」
 彼は何も言わない。鬼灯はああもうとこれ以上濡れる前に、近くのスフィアに飛び込んだ。濡れたオリビンを魔法である程度乾かして、暖炉の前のソファに放った。キッチンで温かいココアを作ると、ほらと差し出す。彼は無言で受け取り、そっと口をつけた。
「……あまい」
「助けられてからの第一声がそれなわけ?」
「助かったよ、とても」
「なにがあったの」
 鬼灯の追求に、オリビンは少し用があっただけさと苦笑した。
「魔法使いからのお使いがあってね。帰り道で雨に降られたんだ。太陽光はやはり大切だね」
「鉱物妖精たちは光がどうのってよく言うけど」
「そうだよ。私の今の不調もそのせいさ」
 だめだ、鬱々としてしまう。そうぼやき、弱りきったオリビンに、鬼灯は長いため息を吐いた。
「料理食べる?」
「……料理? お前が作るのかい」
「そうだよ。魔法使いのような上等な魔力は生み出せないけどね」
 腹が満たされるだけでも、随分と違うはずだ、と。鬼灯の言い分に、オリビンはこくりと頷いた。
「わかったよ」
「腹が膨れたらベッド寝ればいい。晴れたら起こすから」
「いいのかい」
「今更だろ」
 このリリエは妖精達の相互援助で成り立っているのだから。
 その言葉にオリビンはポカンとしてから、そうだねと神妙な顔で頷いた。
「とりあえずソファでココア飲んでて。僕が言うまで動かなくていいから」
「うん」
「誰か来たら僕を呼んで。対応するから」
「うん」
「……不調は妖精にはよくあることだろ」
 だから大丈夫だと暗に伝えれば、オリビンは目を伏せて、応えた。
「そうだね」
 ああ、これはだめだ。鬼灯はキッチンに駆け込んだのだった。熱々の炒飯でも作らねばならない、と。
 雨は当分の間、止みそうになかった。

- ナノ -