宝石と植物ときれいなもの2/フェアリス/オリビン(成年体)+鬼灯(弟)(成年体)+煙水晶(成年体)
※弊スフィア設定です。


 オリビンが目覚めると、スフィアに見慣れぬ妖精がいた。彼は、と瞬きをすると、ぱっとこちらを見た。
「やあ、オリビン」
「……ああ! 鬼灯かい」
「そうだよ。漸く成年体になれたんだ」
 やれやれと肩をすくめる鬼灯に、オリビンはふむと彼を頭の先から足の先まで見る。
「かっこいいね」
「え、そうかな」
「私のような美しさはない」
「鉱物妖精と張り合うつもりはないよ!」
「同じ妖精だろうに。じゃあ、そろそろスフィアの入れ替えかな」
「入れ替え?」
 きょとんとする鬼灯に、オリビンはいつものことさと言う。
「ある程度データがとれたら魔法使いは別のスフィアに妖精を移すようにしてるみたいだからね。まあ、私は此処以外知らないけれど」
「オリビンは此処から出ないの?」
「たまたま此処を指定され続けてるだけさ。好きに動き回ってる」
 まあ、光を沢山浴びれればどこでも大丈夫だけれども。オリビンはうんうんと頷く。鬼灯はなら、と口にした。
「他のスフィアに行ってみればいいじゃないか」
「どうしてだい?」
「だって、その……いや、べつに……」
「鬼灯はたまに歯切れが悪くなるね」
「し、仕方ないだろ!」
 ぷうと不満そうな鬼灯に、オリビンは不思議そうに首を傾げた。さらりと、鉱物の澄み切った髪が輝く。確かに、このスフィアは太陽にしろ月にしろ、光が多く取り込めるように工夫されていた。
 鬼灯は歯がゆい思いをしながら、でも素直に言うのも癪だと口の中で言葉を行ったり来たりする。
 そこへ、ヘイと声をかけられた。オリビンと鬼灯が振り返ると、ふわりと別のスフィアから煙水晶が飛んできた。
「オリビンはいるかな」
「やあ、煙水晶」
「おや、起きたてかなー? 相変わらず綺麗だね」
「当然さ。煙水晶もよく輝いているじゃないか」
「勿論だとも」
 そのやりとりに、鬼灯はやや眉を寄せる。脳裏で姉が、鉱物と植物じゃ感性が違うんだよと、言った気がした。
 煙水晶は近々やる舞台の小道具のチェックをオリビンに依頼しに来たらしい。オリビンは資料に目を通すと、輝くものならと受けていた。
 煙水晶は男性的な見た目の妖精だ。オリビンは男性的ながらも、体は薄いし、髪も長い。完璧に美しいと自称するだけあって、とても美しい。鬼灯は、並ぶと絵になるんだよなあと二人の様子を見ていた。
 そこで、ふと、煙水晶がそういえばと鬼灯に声をかけた。
「鬼灯は画家なんだろう? 舞台のメインビジュアルのイラストを依頼しても?」
「えっ」
「ああ、嫌ならいいんだ。ただ、報酬としてこれを見てほしい」
「え?」
 そこには髪がいつもより長い、いわゆるスーパーロングヘアの幼年体のオリビンの写真があった。お人形のような澄まし顔で、椅子にちょこんと座っている。それはもう芸術的な写真だった。ただ、正面を向いて座っているだけなのに、だ。
「どうだい? 受けてくれるかなー?」
「うっ」
「煙水晶、何を見せてるんだい」
「ヘアケアの結果のやつだよー」
「ああ、何だか伸びたやつか」
「そんな認識なわけ?!」
「まあ、魔法使いが何とかしてくれたからね」
「流石は子猫ちゃんだ」
「何その子猫ちゃんって」
「魔法使いのことだよー?」
「ああそう……」
 メインビジュアルのイラスト、受けようかな。鬼灯の前向きな返答に、じゃあこれと新品の台本を渡して、煙水晶は去っていった。
 台本の表紙は真っ白だった。
「受けるとは思わなかったよ」
 オリビンが何気なく言う。まあねと鬼灯は息を吐いた。
「あんなの見せられたら、芸術家が何もしないなんて無茶だ」
「ふうん。よく分からないな」
「そうだろうね」
 まあ、同じ舞台に関わるものとしてよろしく頼むよ。オリビンが笑むので、鬼灯はよろしくと返事をしたのだった。

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