フェアリス/貴方と私/桜(兄)+オリビン


 とあるスフィアにて。オリビンがぼんやりとソファに座って外を見ていた。そこへ、桜が外からやって来る。
「何をしているのだ」
「特に何も。桜はどうしたんだい」
「魔物の討伐の帰りだ」
「そうかい。ご苦労様」
「うむ」
 コーヒーでも飲むかい。オリビンの誘いに、桜は貰おうと頷いた。
「じゃあ風呂で汚れを落としてくるといいよ」
「そうしよう」
 桜は淡々と風呂へ進む。オリビンはスフィアのキッチンでコーヒーを淹れ始めた。
 ちゃぷ、と音がする。湯加減はちょうど良いことだろう。
「ところでオリビンはコーヒーを上手く淹れるな」
「料理が趣味の妖精には敵わないよ」
「そうであろうな」
 それでも、他人(ひと)に淹れてもらうのは良いものだ。桜が微笑むので、そう言うものかとオリビンは首を傾げた。
「誰が作っても大して変わらないだろう」
「鉱物たちは皆同じことを言う」
「煙水晶とコバルトスピネルかい」
「そうだ」
 ウルフェナイトもな。桜が湯浴みを終えて、風呂から出てくる。オリビンは、もう少しでコーヒーが仕上がるよと告げた。
「ゆっくりでいい。向こうで武器の手入れをしている」
「分かったよ。怪我しないようにね」
「言われずとも」
 桜はリビングの奥、寝室に入る。寝室には物が少ないから、武器の手入れ道具を広げるのに向いているのだろう。桜の武器の手入れ道具は本当に多かった。
 こぷり。コーヒーが入ると、オリビンはコーヒーの入ったマグを二つ手に取る。そして、静かに寝室に入った。
 桜は武器の手入れをしている。刀を使う彼は特に手入れが大切だと、いつだったか語っていた。集中しているが、声を掛けねけばならない。
「コーヒーが入ったよ」
「うむ。助かる」
「どういたしまして」
 オリビンが微笑むと、桜も笑む。そして、桜は言った。
「ついでに歌か楽器を奏でてほしい」
「邪魔じゃないかな」
「むしろ作業が捗る」
「そうかい?」
 ではと、オリビンは魔法でバイオリンを出すと、ゆったりと奏でた。決してキインと耳に響くような音はしない。深みのある音だった。
 寝室の閉ざされた空間で、桜だけのために奏でられる音楽に、桜はとても満足そうだ。
「次は私に花を愛でる心を教えてほしい」
 バイオリンの演奏を終えると、バイオリンを仕舞ってから、コーヒーを飲み、提案した。桜は武器の手入れ道具を仕舞って、頷く。
「当然だ。オリビンは花の見方を覚えればもっと美しくなる」
「そうかい?」
「そうだとも」
 桜はそう言って、コーヒーが美味いと嬉しそうに笑った。

- ナノ -