シルカリ/運命


 誰のせいでもない。本当は分かっている。カリムはただ、母から生まれただけ。貼られるレッテルは、カリムが欲しくて手に入れたものではない。だけど、悲観するつもりはない。ただ、真っ直ぐに人の善性を信じていたい。そうやって、ただ、生きてきた。
 そんな中で、シルバーに出会った。
 眩しいぐらいに綺麗な人。御伽噺の妖精のような人。びっくりするぐらい優しくて、どこでも眠ってしまう体質で、何より、同じクラスになっただけのカリムをレッテルではなく、真正面から見てくれた。

「カリム、手を」
「なんでだ?」
「夕方の森は危ない。帰ろう」
「おう!」
 兎や鹿といった野生動物が、シルバーとカリムの後をついてくる。いいのか。そう問いかけると、昔から対処の仕方が分からないままなんだと言われた。
 なんだそれ。カリムは木の根に気をつけながら歩く。夕方、夜に溶けていく空は燃えるように赤い。明日は晴れる。シルバーが嬉しそうに言う。
「どうして晴れるって分かるんだ?」
「夕焼けがきれいだと、晴れると教えてもらったんだ」
「ふうん」
 おそらく、住む国や地域の差だろう。それでも良かった。シルバーの知識が合っていようと、外れていようと、カリムにとっては、シルバーが言うことに意味があった。
 心の底から優しい人。カリムはシルバーの手を改めて握り直す。ほんとのほんとに、綺麗な人。眠り姫みたいね、なんて凡庸過ぎる。シルバーはカリムの手が届かないところに居る人だ。
「ジャミルは?」
「バスケ部だって」
「カリムを放っておいて行くなんて珍しいな」
「んー、勝手に出てきた! 怒られたら謝るぜ」
「そうか」
 大切なジャミルに怒られてもいい。シルバーともっと一緒にいたい。でも、これ以上は共に居られない気がした。カリムの道とシルバーの道は、ずっとずっと合うはずがなかった。このナイトレイブンカレッジで、偶然、出会っただけ。でもその偶然を、カリムは運命だと思いたかった。

 カリムが絶対に出会うはずのなかった、綺麗な人が、シルバーだから。

 静かで暗い森の中、木の根が道に凹凸を生み、苔生している。滑りやすいぞと、シルバーはカリムの手を強く握る。無骨な手。だけど、とっても綺麗。冷たい風が頬を撫でる。湿気を多分に含む空気が、肺から体内を巡る。
「シルバー、あのさ」
 どうしようもなく、好きだって、言いたかった。

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