ひとつ、ふたつ、みっつ。せんぱいが私を恋に落とした数。

ひとつ目、私の蛸壺に落ちたせんぱい。私が見下ろした視界に広がる土と土にまみれたせんぱい。広がるせんぱいの猫っ毛の艶やかな黒髪。墨より黒い黒色の両目。その両目が私を見る視線には怒りなど無くて、ただ見ているだけで、感情の無いそれに私は恋に落ちたのです。

ふたつ目、私を気にしないせんぱい。私が会いに行ってもせんぱいは拒絶の言葉をいわない。でも共に何かしようとか、相手をしてくれることは無かった。私が話しかけていても、通りかかった他の五年生の元へ行ってしまう。関わってきたのが滝と三木とタカ丸さんと立花先輩ぐらいだからか、私の世話をやかないその姿勢に、私は二度目の恋に落ちたのです。

みっつ目、笑ったせんぱい。ありきたりなそれは突然訪れて、今、私の目の前でせんぱいがへたりと気の抜けた笑顔を晒した。どうしてそんなことにと言われたら、私はただ蛸壺を掘っていて、見つけた綺麗な石をせんぱいにあげた。それだけ。なのにせんぱいは困ったように、仕方ないように、愛情を込めて笑った。心拍数が上がって、私は三度目の恋に落ちたことを知ったのです。





恋は落ちるもの
(せんぱいはどうしてこんなにも私を恋に落とすのでしょう)


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