さみくも/かりんとうと恋バナ/五月雨さん不在(おつかい中)


 秋の頃合い。木の実が実り、果実が鮮やかに色付く。紅葉は佳境を迎え、動物たちが冬支度をしていた。
「雨さん、どこ?」
 村雲が五月雨を探している。今日の五月雨は休日だったはずなのに。村雲は眉を下げた。
 五月雨がいないのなら、と村雲は部屋に戻る。すると、部屋には来客がいた。
「やあ、村雲」
「よっ!」
「何で勝手に入ってるの?!」
 はははと笑うのは三日月で。獅子王もおやつを片手に笑っていた。熱い緑茶に、おやつはかりんとうらしい。そういえばこの二振りは平安の刀だったなと、村雲は遠い目をした。
「実はな、五月雨が大包平と万屋街までおつかいを頼まれたわけさな」
「雲さんのことを頼みますって、五月雨に言われたんだ」
「えっ、おつかい?」
「急に決まったからのう」
「二振りがたまたま主の執務室の前を通りかかったから、みたいだぜ」
「そうなんだ」
 頭からの頼みなら仕方ない。刀として、持ち主を優先するのは当然であり、村雲はとくに五月雨と約束などはしていなかった。
 まあ座れと誘われて、いやここは俺の部屋なんだよねと村雲は卓に着いた。熱い緑茶を湯呑でもらい、かりんとうの入った器を寄せた。なお、緑茶の茶葉は獅子王が持ち込んだものらしかった。
「三日月と獅子王さんって、大包平さんと仲良しだよね」
「まあ、所蔵元が同じだった時があるからな」
「仲良しといえば、三日月と村雲も仲良いよな」
「所蔵元が、だね」
「おんなじやつかー」
 獅子王はかりんとうをぽりぽりと食べながら、器用に喋る。村雲も一つ手に取ると、カリカリと食べた。甘ったるくて、苦い緑茶によく合う。
 三日月は、お土産に期待しようぞと楽しそうだ。
「お土産?」
「ちゃんと頼んだぞ」
「そうじゃなくて」
「お小遣いも渡しておいたぜ!」
「そうなの?!」
 お土産か。村雲はむむと眉を寄せる。村雲としては、五月雨が無事帰ってくるなら、お土産なんて要らなかった。
「控えめなのか、強欲なのか、分からぬぞ?」
「雨さんだからね」
「村雲は、五月雨のことになると、いつも通りだな。よきかな、よきかな」
「どういうこと?」
「雨さんがいないって落ち込んでいたではないか。のう、獅子王や」
「そうだな。うーん、なら、帰ってくるまで、五月雨の話でもするか?」
 村雲の五月雨談義が聞きたいな。獅子王の柔らかな声に、村雲はそんな大したことは言えないよと、やんわり断ったのだった。

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