さみくも+徳美組/まぼろば、空蝉、境界線


 はっとする、夏。

 じっとりと、汗が滲む。村雲はバンダナの位置を直した。五月雨は今頃は寝ているだろう。昼寝の邪魔をしないようにと、村雲は出来る限りそっと部屋を出たのだから。

 雨さんは気がついているだろうけど、気が付かないように俺が気をつけたことは、分かるから。

 村雲は木陰で水筒の水を飲む。ワアワアと、本丸は騒がしい。今日は審神者が決めた休日で、一週間のうちの日曜日に当たる、らしい。村雲にはよく分からなかった。だって本丸は外界から切り離されている。時の流れも曖昧だ。
「村雲さんっ」
 やっほうと鯰尾が村雲に駆け寄る。いつものジャージではなく、白いシャツを着ていた。
「何々、休憩?」
「まあそんなところ、鯰尾こそ」
「あはっ、俺も!」
 鯰尾は水筒の水を飲む。そして、どうぞと飴玉を差し出した。真っ赤なそれはいちご味だ。
「ありがとう」
「どういたしまして。早く食べないと溶けるよ」
 こんな天気だからねえ。鯰尾はぱたぱたと首元のシャツを動かす。いつものリボンが無いのか。真面目な粟田口の刀にしては珍しいなと、飴玉を口に入れながら、思った。
「長義と南泉と物吉が花札で遊んでてさ、後藤は五月雨を呼びに行ったの。あの刀、結構強いんだよ」
「駆け引きがうまいから、かな」
「たぶんね。で、村雲さん居ないなーって俺はこっち来たんだ」
 それなら、と村雲はキョトンとした。
「花札で遊んでくればいいのに」
「嫌だよ。だって勝てないし」
 ニシシと鯰尾は笑う。村雲は困惑して目をうろつかせる。
「遊戯なのに」
「遊戯だからだよ」
 だってさあ、他に負けるのはいいんだ。鯰尾は見上げる。木陰、木の葉が見えるはずだ。
「物吉に負けるのが嫌」
 それこそ。
「今更でしょ」
「やあっぱり?」
 だよねえ。鯰尾はくっくと喉を鳴らして笑っている。上機嫌だな。村雲は眉を寄せた。
 二束三文の己と話していて、何が楽しいのだろうか。分からない。
「村雲さんはこの後どうするの?」
「え、別に……」
「じゃあ厨におやつを頼みに行こう! これだけ暑いなら氷菓の買い出しとか、考えてるかも!」
「どうだか」
 でも、いいよ。村雲が眉を下げて笑えば、キマリと鯰尾が立ち上がり、手を差し伸べてくれた。
「さあ、行こう!」
「うん。あ、でも、」
 雨さんも一緒がいい。
 そう言うと、鯰尾はトーゼンだと笑っていた。
「一緒に声をかけに行こう! あの刀、今頃賭け金ボロ儲けしてるはずだから」
「賭博は禁止じゃないの?」
「ゲーム用のチップだって」
 お金じゃないよ。鯰尾はそう言って、さあさあと手を引っ張って、村雲を五月雨の元に連れて行ってくれたのだった。

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