さみくも+トーハク組/他愛もない日々を


「村雲ー!」
「え、何……」
 たたたっと彼にしては珍しく走り寄ってくる。初夏の本丸、村雲はやや屈んで、彼を迎えた。隣の五月雨は、きょとんとしている。
「獅子王さん、どうしたの」
「三日月と亀甲が会いたいってさ!」
「今日は集まる日じゃあなかったと思うけど」
「あの二口結構気まぐれだからなあ」
「まあ、確かにね」
 おやと、五月雨が首を傾げる。
「行くのなら、私も行きましょう」
「お、いいのか?! 実はボードゲームしたくて、そっちの人数が足りないんだけど」
「なにやるの?」
「モノポリー!」
 それは、控えめに言って戦争になるのでは。村雲はモヤっとしたが、五月雨はモノポリーですかと受け入れていた。そういえばこの刀、励起してからこの方、所蔵元繋がりの刀たちと結構ボードゲームしてたな。

 すだれを日除けに使った座敷。この小さな談話室は常に開放されているらしい。
「村雲や、よく来たな」
「村雲くん、大丈夫だった?」
「まあ、うん」
 所蔵元繋がりの刀が集まっていた談話室の片隅、ひさしが長い故に日差しが強くない窓辺に、三日月と亀甲がいた。
 五月雨は獅子王と厚に引っ張られて、几帳面にボードゲームの用意をしている大包平と毛利の元に向かう。
 そんな最中、小竜を連れてきたよと、大般若が顔を出した。
 この二口はいつものらりくらりとしているから、こういった集まりは不得意そうなのにと思っていたら、亀甲曰く、大包平(古備前)に逆らえないらしい。厳格なお祖父様か何かだろうか。

 古備前の二口はわりと元気で穏やかで賑やかに見えるけどな。
 村雲は考えたが、まあいっかと、五月雨を応援する。五月雨はひらりと手を振って、ボードゲームと向き合った。
「で、突然呼び出して何?」
「まあ、何でもないんだが」
「そんなわけないでしょ」
「そう警戒しないで。ご主人様が、村雲がまだ本丸に馴染めてないんじゃないかと心配してただけだよ」
「あー、雨さんとばかり居るからかな」
「その通りだとも。村雲なら平気だろうと言ったんだがな。あれは心配性らしい」
「頭としてはいい傾向じゃない?」
「程度に寄るよね」
 そこで亀甲が、お茶が入ったよと急須から三杯のお茶を注ぐ。鮮やかな緑色のそれ、口に運んだ緑茶は少し苦かった。
「落雁を貰ってきてるよ」
「食べようぞ」
「うん。雨さんたちは?」
「向こうは水羊羹だね」
 あーだこーだと賑やかなボードゲーム組に、五月雨は機嫌良さそうについていく。骨喰たちとよく遊んでいたからなあ。三日月はのほほんとしていた。
「遊戯倶楽部を立ち上げる話が本格化しているらしいぞ」
「幅が広すぎない?」
「うん。だから、ご主人様から細分化しなさいって言われてるんだって」
 兼部もアリだからね、と。亀甲が微笑む。雨さんなら歌の倶楽部に入りそうなものだな。五月雨はぼんやりと考えた。
「村雲は何か気になることはあるか?」
「倶楽部? 特には無いよ」
「五月雨くんのほうが気になるかな?」
「うん」
「それなら歌仙くんが、句会を立ち上げるんじゃないかな。そろそろ人数が揃いそうだし」
「今までなかったの?」
「人数がなかなか揃わなくてね。あと、一番熱を入れてた歌仙くんが、練度上げで出陣してばかりだったから」
「ちなみに俺は映画倶楽部に入ってるぞ」
「ぼくは機械工作倶楽部だね」
「へえ……」
 落雁を口に運ぶ。ほろりとした口溶け、甘ったるいそれは苦い緑茶とよく合った。
「菓子倶楽部が作ったんだよ」
「へ?」
「その落雁さ。小豆くんが試しに作ってみたらしくて」
「すごいね」
「うん。美味しいよね」
「俺も美味いと思うぞ」
「三日月はお茶も飲んでね」
 亀甲の指摘に、あなやと三日月が悲しげにする。
「俺は甘党なんだが」
「そうだったっけ?」
「本丸差、個体差の類らしい」
「ふうん」
 お菓子か。話しながら、村雲は考える。句会を開くなら、菓子も要るだろう。雨さんに渡せたらいいな。そう思った。
「ねえ、その菓子倶楽部ってどんなところなの?」
 亀甲は、それならぼくから小豆さんに話を通すよと、微笑む。三日月は、村雲はきっと良い菓子を作るだろうなと、嬉しそうにしていた。
「なんで?」
「謙虚だからだ。努力は惜しまないだろう?」
「物に寄るよ」
「それはそうだな」
 はっはっは、三日月が笑う。同じ部屋では、五月雨が物件をまた買ったとざわついて居て、どうやら雨さんはボードゲームに強いらしいと村雲は自分のことのように誇らしく思えた。

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