さみくも/戦う我らに翼はあるか


 戦場を駆け回る。

 五月雨は敵に気が付かれる前に駆け抜ける。村雲は投石兵を展開し、刀装を打ち破る。それらの間に、極短刀たちが走った。
 一気に間合いを詰めて一撃で仕留める。そんな短刀たちの横、五月雨の役割は頭役の遡行軍の破壊だ。村雲は露払いに徹し、五月雨と短刀たちを助ける。五月雨が、敵将を打ち取った。

 戦場から戻ると、お帰りと初期刀にして近侍の蜂須賀が出迎えてくれた。役割のため、村雲に疲労が溜まりやすい。部隊の交代だよと蜂須賀が言った。
 短刀たちはきゃらきゃらと風呂場に向かう。俺もまずは風呂だろうか。村雲が迷うと、五月雨が手を差し伸べた。
「雲さん、風呂に行きましょう」
「う、うん」
 そっと手を重ねると、五月雨は嬉しそうにその手を握ってくれた。

 五月雨が村雲を好いていることなど、本丸では周知のことではある。だが、と村雲は思う。
 果たしてその好きとは、恋愛感情なのか、と。
「村雲は五月雨が恋愛感情で好きなの?」
「そうだよ」
 そっかあと桑名は穏やかにしている。畑当番が休憩中だったので、そこに混ざったのだ。なお、五月雨は出陣中である。
「好いているなら、そう、伝えれば……いいのでは?」
 畑当番の江雪が不思議そうに言う。そうもいかないよ、村雲は水筒をくるくると撫でながら言った。
「俺なんかに好かれるの、嫌だろうし」
「そうかなあ」
「だって二束三文だし」
「そこに……恋愛との、関係が、見えないのですが……」
「価値が違うよ」
「ああ、村雲は刀意識が強いんだね」
「そうかも」
「なるほど……」
 江雪はようやく合点がいったと納得していた。桑名は、それこそ判断に必要ないけどねと笑っている。
「村雲が好きって言ったら、五月雨も同じことを言うと思うよ」
「好きって? でもそれは友愛だよ」
「外堀を、埋めるのも……手かと……」
「江雪さん意外とそういうこと言うよね」
「ええっと」
 どうしろと。迷う村雲に、桑名は考え過ぎなんだよと笑顔だった。
「好きが変わることだってあるよね」
「ええ……そうですとも……」
「そうかなあ」
 村雲は難しいやと息を吐いた。

 夜、村雲は図書室にいた。20時までだよ。図書係の歌仙が言っていた。
 恋愛とは、外堀を埋めるのも手である。本当にそうかなあ。村雲はため息を吐いた。
「雲さん」
「あ、雨さん!」
 どうしたの。そう問えば、図書室に返す本がありましてと言われた。
 五月雨の手には和綴じの本があった。
「そういえば、明日は星空観察会を開くそうですよ」
「星空観察会?」
「何でも、星に詳しい本丸から刀剣男士を招くそうで。天の川を主に観察するらしいです」
「へえ、変わった本丸もあるんだね」
 星か、村雲は思う。月はともかく、その他の星はあまり眺めたことがなかった。せいぜい、出陣中に方向を確認するぐらいだ。
「雲さんも参加しませんか」
「雨さんは参加するの?」
「ええ、良い機会ですから」
「じゃあ、俺も参加しようかな」
 五月雨はその返事に嬉しそうになる。村雲は、五月雨が嬉しいなら、星の話を聞いてもいいなと思えた。
「では雲さん、明日も早いですからもう寝ましょう」
「うん、分かった」
 村雲は手にしていた本を戻して、五月雨について行く。

──「外堀を、埋めるのも……手かと……」

 外堀か。村雲は眉を寄せる。あまりいい手とは思えなかった。村雲は五月雨が自由である方がいいと思ったからだ。鳥の翼を折るようなことはしたくない。
 きゅっと寄せた眉をぐいぐいと伸ばして、五月雨と共に部屋に入ったのだった。

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