さみくも/恋を伝え、愛を知る/一旦終わり?
夏日が続いている。
「雲さん」
「うん、雨さん?」
村雲はパッと起き上がる。場所は村雲の部屋。五月雨が訪ねてくるのはいつもの事だった。
「最近忙しかったので、休暇を貰ったのですが」
「うん。雨さんおつかれさま」
「はい。それで、その、万屋街まで買い物に行こうと思うのですが」
「ついてくよ」
「いいですか?」
「うん、ちょっと待ってて、支度する」
「では門の前で待ってます」
「分かった」
五月雨が出て行く。村雲はよしと気合いを入れた。
今日こそ、言おう。村雲は決めていた。
支度を済ませて門の前に向かうと、五月雨が一人で立っていた。雲さん、そう微笑まれて、村雲はへらと笑った。
「じゃあ行きましょうか」
「うん」
ふたり揃って、万屋街へと移動した。
万屋街は増設に増設を加えて、複雑化している。政府管轄となってからは、政府の者(物)たちが見回りしているらしいが、それでも全貌を知るものは居ないという。
「何が欲しいの?」
村雲が聞くと、ええとと五月雨が言った。
「湯呑が」
「湯呑?」
「欠けてしまったので」
ふうん。村雲は五月雨に続く。
湯呑が置いてある店を少しずつ見ていく。五月雨はどうやら気に入るものがなかなか無いらしく、難しい顔をしていた。
「ねえ、雨さんはどんなのがほしいの?」
「二つ揃いがいいのですが」
「二つ揃い?」
「ええ、雲さんと私で」
「……えっ」
村雲がぽかんとする。五月雨は目を細めて村雲を見上げた。
「大切なひとと揃いがいいと思いまして」
五月雨は笑っている。嗚呼。
「雨さんは、ずるいなあ」
顔が熱い。村雲は俯く。
万屋街の何でもない店の前。人が通るそこで、五月雨は言う。
「好きですよ、雲さん」
「ずるいよ」
「ええ、忍ですので」
「関係ないでしょ」
ああもう。村雲は言った。
「好きだよ、雨さん」
「ええ、知ってます」
「そうだよね」
「ええ」
五月雨の楽しそうな声に、村雲は楽しいならいいやと、くしゃり、笑った。
本丸に戻る。揃いの湯呑は村雲が紫色、五月雨が桃色のものになった。何軒も回ってやっと見つけたそれを給湯室で洗い、お茶を淹れる。
村雲の部屋で、ふたり、茶を飲む。揃いの湯呑が眩しくて、嬉しくて、村雲はふにゃふにゃと笑う。
時にと、五月雨は言う。
「人は恋と愛を使い分けるそうです」
「そうなの?」
「はい。それで、きっと雲さんは私を愛してくださっている」
「うん?」
「私は、それに見合うだけの心を持っているのか、不安なのです」
そんなの、と村雲は言った。
「見合うも、見合わないも無いよ」
心とは推し量れぬものである。
「好き同士じゃあ駄目なの?」
「……きっと、今は、大丈夫です」
でも、いつかそれが齟齬を生んだら。
それこそ、恐ろしい。
村雲はぽかんとする。五月雨の弱音に、驚いていた。
「雨さんは強いから、そんなこと考えないと思ってた」
「過大評価ですよ」
「うん。そうだったんだね」
あのね、と村雲は言った。
「例え、すれ違っても、また話せばいいと思う。俺、言葉が下手だけど、雨さんにならちゃんと話すから」
だから、怖がらないで。村雲がふわりと笑うと、五月雨はしばらく唖然とし、ゆったりと微笑んだ。
「そうですね」
その時はまた、話しましょう。五月雨は嬉しそうに告げた。