リドトレ/真っ赤なトルテのために5/完
※全てのPSを読んだわけではありません。
※捏造を多分に含みます。
※これは二次創作です。


 名前を呼んでほしい。たまに思う。どうか、その凛とした声で、己の名前だけを呼んではくれないだろうか、と。

 リドルは忙しい。勉強も、寮長としての仕事も、何事にも一切手を抜かない。そんな彼に息をつかせるのは、トレイの役目だ。小さなトルテと、紅茶を二杯。お茶の時間にしよう。そう言って、リドルの元に行くのは、己の特権である。
 独占欲とか、自己愛の喪失とか、何でもいい。ただ、リドルが息災であればいい。
 でも、頼りがないのは、なんてことは言えなかった。出来るなら、目の届くところにいてほしかった。そこから外れてはほしくなかった。そんなのは、愛ではないと、誰かに否定された。誰だったか、思い出せないけど。
 それは暴力を伴わなぬ、自傷行為だと。

「トレイ」

 トレイを思考の海から引き戻すのは、いつだってリドルだ。何だと不思議に思えば、真っ赤なトルテはボクだけかいなんて可愛らしい事を言う。
「リドルの分しか作ってないな」
「キッチンになら、予備があるんじゃないかい」
「よく分かったな」
「トレイのことだからね。ストックがあるだろうと思ったんだ」
 それでも毎回違うトルテだから、トレイはすごいね。リドルは当然のように言う。トレイは普通だよと苦笑した。事実、トレイにとっては大した手間ではなかった。
「同じ味だと飽きるだろう」
「トレイのお菓子なら飽きないよ」
「そうか?」
「そうだとも」
 ねえ、トレイ。リドルはフォークを動かしていた手を止めて、ふっと告げる。

 薔薇の中。人っ子の気配がないそこで、美しいかんばせが、トレイだけを見ている。

「好きだよ」
 知ってる。そう言いたいのに、喉が枯れていた。ああ、我が主。薔薇の寮長。長たるもの。我は騎士なりて、ただ、平服するのみ。

 なあ、リドル。俺はお前が思うより、ずっとずっと、お前を愛してるよ。

「知ってる」
 爽やかな風が駆け抜けた。やっとのことで絞り出したありきたりな言葉に、リドルは嬉しそうに微笑んでくれた。
 気持ちに順位と大きさをつけるなら、トレイの感情の方が大きくとも、それで良かったとすら、思えた。対等であれ、なんて思わない。ただ、今だけはトレイだけのリドルだった。

 この二人をよく知るチェーニャとケイトは、どっちもどっちだと笑うのだろうけれど。

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