リドトレ/真っ赤なトルテのために4
※全てのPSを読んだわけではありません。
※捏造を多分に含みます。
※これは二次創作です。


 己の価値観を肯定するために、他人を使うことは、己の身を滅ぼすことである。
 大体、そんなことは真っ当に分かっている。それでも止められないのは、もはや性なのだろう。
 それは腐るだけよ。いつだったか、ヴィルに言われたことがある。優しさで人を殺すんだわ。なんて、酷い話。

「トレイ」
 甘やかな声だ。リドルの声がする。虚ろな意識の中で、そっと目を開く。心配そうな顔が見えた。
「風邪だそうだよ。賢いトレイなら、お分かりだね」
「そうらしいな。今日は休んでおこう」
「賢明な判断だ」
 リドルは心配を振り切るように、そっとトレイの頬を撫でる。その手が柔らかくて優しくて、どうにも己に不釣り合いな気がするから、風邪が移るぞと言ってみれば、平気さと言われた。
「この程度で移るわけがない」
「そうか。それも、そうだな」
「何か食べたいものはあるかい。ケイトが用意するよ」
「ああ、あいつは器用だからな。でも別段食べたいものは無いぞ」
「そうかい? ボクならリンゴが食べたくなる」
「じゃあリンゴを頼めるか」
「言っておくよ」
 主体性がない。脳内で誰かが言う。うるさいなあ。トレイは声を他所に、静かにリドルを見つめた。
 相変わらず、美少年の名をそのまま体現したかのような人だと思う。それでいて、規律に厳しくて、己を甘やかさない人だ。トレイのことだって、めったに甘やかさない。どうやら風邪の時は別らしいが。
「行かないのか」
「行ってほしいのかい」
「いや、居てくれると、助かる」
「そう」
 リドルはそっとトレイの手を取った。左手、薬指にキスをひとつ。その独占欲は、己か、彼か。真か、虚偽か。トレイにとっては何もかも、どうでもいいことだけど。
「痕はつけてくれるなよ」
「つけないさ。ただ、トレイはボクの隣に立つ人だ」
「独占欲か?」
「よく言う」
 トレイの方がヤキモチ焼きだろうに。リドルがとろりと笑う。柔らかな笑顔に、トレイは胸の内側を擽られた気がした。
 愛しいひと。トレイはただただ、そう思う。

 静かなトレイの部屋。その片隅は、世界の小さな心の中。そこに住めるのは、トレイ自身と、トレイのトルテと、リドルだけ。
「明日には治る」
 治ったら、とびっきりのトルテを作ろう。トレイがくしゃりと笑うと、それは楽しみだねとリドルは囁いたのだった。

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