利害の一致2

キバネズ/ケーキバース/利害の一致2/細かい説明はググって調べてください


 今日もゆっくりとした時間が流れている。ナックルシティを歩き、橋を通り、トンネルを抜ける。
 ハミングと甘い匂い。キバナが伏せがちになっていた視線を上げると、シャッターの前でネズが立っていた。
 ふと、気がついたネズが振り返る。漂う甘い匂いに、キバナの空腹感がくすぐられる。

 ケーキは甘い甘い生き物なのです。

 でも、ほんのちょっぴり、スパイスがあったりして。キバナはそんなことを思いながら、愛しい恋人(ケーキ)に手を振った。


 今日のネズは昼間にライブをしたらしい。そろそろ夕陽ですねと、沈み行く太陽を背に、よっこらせとシャッターを越えた。自分もいいのだろうか、多少の不安を覚えながら、キバナはシャッターの下を通った。


 ネズのホームは、ケーキもフォークも極端に少ない。何、単に生き辛いんですよ。ネズはそう言う。真にその通りであろうが、キバナのナックルシティだって、ケーキもフォークも極端に少ない。公表していないだけの、潜在的なバース性もいるだろうが、ナックルでもスパイクでも、ケーキとフォークは生き辛いのは否定できない。何せ、制度が古いのだ。どちらの町にせよ、古い町故の歯痒い点だ。
 キルクスやエンジンでは手厚い保護があると聞くので、金銭に余裕のあるケーキとフォークはそれらの街に移住するのだろう。キバナは何となくそう思った。
 キバナはナックルのジムリーダーであることを、なんの疵とは思っていないが。

「歌をね、気に入ってくれたんですよ」
 ネズが振り返る。ふわり、ケーキの甘い香り。腕の中には小さなエレズンがいた。どうしたのそれ、そう問いかけると、ケーキの仔ですよと微笑まれた。
「保護しないと、フォークに食べれられてしまいますからね」
 バース性に遺伝は見受けられず、種の数が一定に達すると、必ずバース性を持つものが産まれてくる。統計の賜物のような生き物、それがケーキとフォークだ。
「この仔の両親は、ケーキでもフォークでもありませんから」
 困っていたところを、ケーキの先輩として引き受けたのみです。ネズは続ける。
「フォークに無理に食べられないように、その場の勢いで体を差し出さないように、そういう教育をしてあげるんです」
「ネズが、ケーキだから?」
「その通り」
 ネズはエレズンを撫でながら、言った。
「美味しそうな匂いがするでしょう?」
 その声に、まさかとキバナは驚いた。

 だって、キバナの鼻はもうネズにばかり、気を取られるから。
「ネズの匂いが美味しそうだから、わかんない」
「おや、そうでしたか」
 それは意外な。そう芝居がかって話すネズに、キバナはそうだなあと首を傾げた。
「なんか、ネズとそのエレズンだと、匂いが違うもん」
 オレさまはネズを食べたいな。そう呟けば、愛の告白ですねと茶化された。



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