推薦状
賑やかなナックルシティ。アーマーガアタクシーを見送って、キバナはふとぼやく。
「そういや、歌っていえば"唄うもの"ってのがあったな……」
まあ、あの少年、オッドの歌はそんな恐ろしいものではなかったけれど。
キバナは、二人がジムチャレンジするなら、自分のところまで勝ち続ければいいと願ったのだった。
・・・
「いいんじゃないかい」
「本気ですか」
アラベスクタウンのポプラの館。薄明るい部屋の、暖炉前のポプラとビートのやり取りに、オッドはやっぱりとくすくすと笑い、イミテーションはそれはそうだと呆れていた。
ポプラは、イミテーションを世間知らずに育ててしまった自覚があるからねと語る。旅に出てガラルを回れば世間を知るだろう、と。
それを聞いても、ビートは反対した。そもそもイミテーションは弱いし、オッドは暴走しかねない。ジムチャレンジ参加に値しない、と。
あーだこーだと言っている二人の横で、オッドがイミテーションに質問した。
「テアは行きたい?」
「私は、お店で留守番がいいかな」
「でも、テアの知りたいことを知れるかもしれないよ?」
「知りたいことって?」
「あるでしょう?」
そう言われて、イミテーションはきゅっと手を握りしめた。記憶の喪失、欠け、抜け。ただ、優しいものを奪われた感覚だけが、蜂蜜の苦味みたいに残っている。
きょとんと、腕の中のネマシュのシュシェが、目を丸くしている。
「……知りたいことは、ある」
もし知れるなら、行きたいな。そうぼやくと、ポプラがそらそういうのならと言う。ビートが、しまったもう止められないと、苦々しい顔をした。
翌朝、二人はポプラとビートに見送られ、推薦状を大切に鞄に入れた。そして、最初のジムがあるターフタウンへと、イミテーションとオッドはアーマーガアタクシーに乗ったのだった。