改変されし古の歌

 場所はワイルドエリア。オッドはキバナとバトルをしていた。
「バンギラス、じしん!」
「耐えろ、ジュラルドン!」
 ばちんとバンギラスのじしんが発動する。ジュラルドンは耐えた。流石だね。オッドは喉を鳴らす。
「貴方、ジムリーダーでしょう!」
「へぇ、よく分かったな!」
「それだけ鍛え上げていれば、世間知らずの僕でも分かるさ!」
 さあ、これに耐えられるかな。オッドは歌うように指示する。
「連続でじしん!」
「アイアンヘッド!」
 しかしその時だった。バンギラスが突如として苦しみだす。キバナは技の中止を指示し、オッドは苦しみ暴れるバンギラスに呼びかけた。
「バンギラスっ」
「危ない!」
 キバナがオッドを守ろうとしたが、オッドはその手を跳ね除けて、自身の胸に手を当てた。

 歌だった。

 見知らぬ言語。言語体系そのものが違う歌詞。なんとも言い難いそれを、オッドは歌う。"改変されし古の歌"だった。
 バンギラスが正気を取り戻し、すうっと立ち上がる。オッドは歌を終えると、にっこりと笑ってバンギラスに駆け寄った。
「うん、バンギラス、良い子だね」
「すごいな」
「まあね」
 もしかして、とキバナは質問した。
「見た目から思ってたけど、もしかしてアラベスクタウンの関係者か?」
「そんなところ」
「あのポプラさんが居るところの住人か、なら今の妙な歌も分かる」
 へらり。オッドは笑った。

「ジムチャレンジ?」
 キバナとオッドがバトル後のキャンプをしていると、キバナの方からその話が出た。
「ああ、年齢も丁度良さそうだし、実力も申し分ない。いいんじゃないか?」
「うーん」
 オッドはやや考える。思うのは何か。オッドの目からは何も見えず、キバナはただ待った。そして、長い沈黙の末に、オッドは口にした。
「ちょっと待っててくれる?」
「待つ? シーズンならそろそろ始まるけど」
「いや、そう待たせはしないよ」
 ただ、少しだけ時間がほしいとオッドは言った。


 オッドとキバナがナックルシティに戻ると、イミテーションとビートの周りから、ひと気が引いた頃だった。ビートがキバナに気が付き、その隣のオッドにぎょっとする。
「オッドさん!」
「やあやあ魔女の弟子くん」
「おー、知り合いか」
「ええまあ。キバナさんはどうしてオッドさんと?」
「まあ色々と。そっちの子は?」
 キバナに見られて、イミテーションはぺこりと会釈をした。
「ミセラニアス=イミテーションと言います。オッドが世話になったみたいで……」
「僕は世話になったかな、天候の魔術師さん?」
「むしろオレさまが助けられたかな。で、三人ともアラベスクタウン関係者ってわけか?」
「その通りですね」
 ビートがそう肯定した時、オッドがそうだと手を叩いた。
「推薦状なら僕ら二人でがいい!」
「え?」
「僕の妹、かわいいでしょ!」
「可愛いは可愛いけど」
「まあ醜悪な見目ではないですね……というか推薦状?」
「あの、推薦状って何ですか?」
 控えめにイミテーションが問いかけると、キバナがきょとんとする。
「え、ジムチャレンジの、トーナメント戦の……知らねえの?」
「ごめんなさい、私あまり世の中のことに詳しくなくて」
「そうだね! まあ僕もだけど!」
「待ちなさい。推薦状ならこちらで出します」
「いーや、ビートは僕達に出してくれないね」
「出すって言ってますけど?」
「後からネチネチ考えて止めるんだ。僕、知ってる」
「あまりに偏見では?」
 テンポの良いオッドとビートの会話に、キバナは仲が良いなと苦笑する。
「まあ、うん、ビートとポプラさんの知り合いならそっちからの方が自然だな。ところでそっちの子はバトルできるのか?」
「私はバトルはあまり……」
「できないですね」
「何をぅ! テアはね! やれば出来る子なんだよ!」
 強く反論するオッドに、帰ったらポプラさんと相談ですと、ビートは言った。

 アーマーガアタクシーに乗ると、キバナが、ポプラさんによろしくなと見送った。そうして、イミテーションとオッドとビートは、アラベスクタウンへと戻ったのだった。





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