ちょっとした非日常

 とある日の午後。アラベスクタウンは夜のように暗く、ほのかに明るかった。

 あれ? イミテーションは首を傾げた。
「蜜蝋がない……」
 おかしいな。イミテーションは困り顔だ。薬をコーティングするのに必要なのにと考える。
 致し方ない。イミテーションは腹を括った。
「オッド! いるんでしょう!」
「おやなんだいテア」
「蜜蝋が足りないの、どうしてか知ってる?」
「残念ながら、これはテアのミスだよ」
「ふうん。本当?」
「もちろんだとも! 何だい、こんな時間からワイルドエリアに蜜蝋を取りに行ってほしいのかい?」
「報酬に声変え薬をティースプーン3杯」
「そりゃいいね!」
 待ってて、とオッドは消えた。

 イミテーションは鍋を使って石鹸を作る。ハーブの石鹸はアラベスクタウンでは人気だ。これを今度ナックルシティでも売ってみることになっていた。
「戻ったよ、愛しい妹よ」
「ありがと、報酬はすぐに出すわ」
 イミテーションがハーブと柑橘類の皮を数種削って鍋で煮るとぽんっと音がして薬が完成した。きっちりティースプーン3杯を瓶に詰めると、やったあとオッドは無邪気に喜んだ。
「悪用はしないでね」
「もちろんだとも! ああでも楽しみだなあ。僕はテアが作る薬が大好きなんだ」
「別に特別なことはしてないわよ」
「わかるとも! でもね、妖精には分かるのさ。きみの中の微量の魔力が薬の中で調和している。うん、これもいい出来だ。成長したね、テア!」
「褒めてくれてありがとう。じゃあ蜜蝋はこっちに」
「あまいミツは瓶に入れておくよ」
「任せたわ」

 それにしても、蜜蝋なんてどうして使い切ってしまったのだろう。こちこち考えていると、あと思いついた。
「昨日の石鹸に蜜蝋を使ったんだった!」
 そりゃあ無くなるはずだ。オッドを疑ってしまってすまなかったなと、イミテーションは反省したのだった。





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