【探索編】02


 そういえば。水未は言った。
「ナックルシティに反応があるんだよね」
「何の?」
「会いたいから行こうよウィル君!」
「誰?」
 さあさと、水未は辰人を引っ張った。

 明らかな裏路地。治安の良さそうなナックルにもこういうところがあるんだなと、辰人は進む。案内をする水未は鼻歌でも歌いそうなほどに上機嫌だ。
「じゃあ、行こうかウィル君!」
 そこには未成年の外見にはふさわしくないバーの看板があった。

 真昼間のバーの中。ジュースを飲む男が一人。白黒の彼はひと目見て、この世界の主要人物の一人だと分かる。
「おや、物好きそうな子どもたちですね」
「まあね! ウィル君何飲む?」
「甘いやつ」
「エネココアと炭酸水をひとつずつ!」
 マスターに頼む。青年はグレープフルーツジュースでも飲んでいるらしい。
「ねえ、あなた、ネズでしょう」
「おや、ご存知で?」
「有名だもん、哀愁のネズ、でしょう?」
 誰だそれ。辰人は思うが、口を閉じる。水未の邪魔になってはならない。ただ、サポートはすべきである。
「おれはそこまで有名じゃねーですよ」
「うっそだあ」
「で、何をご所望で?」
「何にも? ただ、会いたかったの。ね、ウィル君」
「そんな感じ」
「ふうん」
 ネズは目を細める。辰人はそこでようやく挨拶をした。
「俺は辰人。こっちは水未。アラベスクタウンから来ました」
「あの町の、ね。初心者トレーナーですか」
「そうなんだよう!」
「スパイクタウンの今のジムリーダーは、マリィですよ。まあ、ジムチャレンジのシーズンではありませんが」
「マリィって誰ですか?」
「おれの妹です」
 ふうん。辰人は頷く。出されたエネココアをするりと飲んだ。甘くて温かい。
「妹さんはチャンピオンを目指してるんでしょう」
 水未は続ける。
「だからジムリーダーも引き受けた。違う?」
「それがなにか?」
「何にもならない。あたしには、ね」
 にっこり。水未は薄氷色の髪と目を揺らす。辰人は息を吐く。全く油断ならない。相手も、水未もだ。
「おれは、おまえたちを好きになれそうにありませんね」
「わお、勘がいいね! あたしは好き!」
「悪趣味ですね」
「強欲なの。ね、ウィル君!」
「そうだな」
 辰人の返事に気を良くした水未は、飲み物を飲み終えるまでは雑談でもしようかとネズに笑いかけた。ネズは迷惑そうに眉を寄せた。それだけだった。
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