【探索編】01


 ナックルシティのバトルコートの隣を通ると、やけに賑わっていた。中心には浅黒い肌に背の高い青年がいる。水未がすぐに言った。
「あれはキバナっていう、ナックルシティのジムリーダーだね。うーん、バトル指南の教室みたい」
「青空教室みたいな?」
「うん。誰でも参加できるらしいけど……」
「水未が気になるなら参加するか」
「ありがと、ウィル君。チョット気になるんだよね」
 気になる、とは。辰人はふうんとキバナを見た。

 キバナがふっと水未と辰人の方を向く。新人トレーナーかと、すぐに見抜いたらしい。こっち来いよとニッと笑った。
「お前たちこの辺じゃ見たことないな」
「アラベスクタウンから来たんだよ!」
「へえ、道路を抜けてきたのか。パートナーを見せてくれるか?」
「いいよ! ポニータ」
「出てこいヤバチャ」
 ポニータとヤバチャはすっとモンスターボールから出てくると、多くの人の視線に驚いたらしく、やや体を震わせた。
 人馴れしてないな。キバナはポニータとヤバチャを優しく撫でながら言った。
「バトルはどうだった?」
「む、あんまりかな」
「ポニータに任せっきりで、俺はサポートぐらい」
「そうか。うーん、ちょっと無理してる感じがあるな。なるべく早めにポケモンセンターで休ませること。あと、技を無理矢理使わないこと」
「無理矢理ってどういうことだ?」
「やだなあウィル君過負荷ってことだよ」
「ウィル君?」
 きょとんとするキバナに、そういや名乗ってなかったなと辰人は口を開いた。
「俺は辰人。ウィルはニックネームみたいなもん」
「あたしは水未!」
「ふーん。オレさまはキバナな!」
「そんなこと知ってるよう!」
「落ち着けって水未。それで、無理矢理技を使うって?」
 ああそのことだったな。キバナは柔らかく告げた。
「技に慣れないうちはPPが少ない技を使うと体に負担がかかるんだ」
「成長度合いに合わせるってこと?」
「そういうこと。やけに飲み込みが早いな」
「へへん、すごいでしょ」
「俺のヤバチャも水未のポニータもまだレベルが低いからな」
「道路でレベリングをお勧めする。ワイルドエリアはまだ早いな」
「はーい」
「教えてくれてありがとうな、キバナさん」
「どういたしまして」
 じゃあな。そうひらひらと手を振られて、水未と辰人はその場を離れた。

 しかし別れ際、そうだとキバナは声をかけた。
「ツユリってトレーナーに会ったら話しかけてみるといいぜ。たぶん、力になってくれるからさ」
 それは年の割にバトルが未熟な二人への親切心なのだろう。ツユリねえ。水未が口の中で呟いた。辰人は、そうしますと返事をした。

 トンネルの方へと歩き、街を抜ける。それで、と辰人は問うた。
「気になることはあったか?」
「月乙女はまだみたいだってトコロかな」
 月乙女は月の対地球侵略プログラムの総称だ。地球と月は不可侵条約を結んでいる分、月乙女が地球に降り立つのは特に条件が厳しい。
 ただその分、地球に降り立つと他の星にとっては厄介な相手となる。なにせ地球領争奪戦においてプログラムが最強と名高い太陽に次ぐ影響力を持つのだ。特に夜などは、他の星は光エネルギーの摂取手段として、月に頼ることも多いのも、弱みを握られているようなものである。月乙女とは出会いたくないな、辰人はぼんやりと思った。
「月乙女が好みそうな人間だったからね」
 でも"まだ"みたいで安心したよ。水未はにっこりと笑ったのだった。
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