【準備編】02

 水未はまずはと口にした。
「お金は宝石で換金できたから、オッケーとして。次は戸籍というか、トレーナーカードの登録かな」
「戸籍は勝手に作ればいいだろ、トレーナーカードって何だ?」
「身分証明書みたいなもの。戸籍はねー、よいっしょ」
 水未がしばらく目を閉じて黙ったかと思うと、ぱっと目を開いた。
「オールグリーン! 戸籍登録したよ」
「流石だな」
「カードはポケモンセンターで作れるみたい! 行こうよウィル君!」
「おいこら、走ると転ぶぞ」
 たたたと駆けていく水未に、辰人は全くと息を吐いて、ついて行った。
 アラベスクタウンでは不思議な生き物、ポケモンがふわふわと浮いていた。薄暗い街を、ポケモンやキノコが照らす。
 水未がこっちこっちと辰人を呼ぶ。あまり騒ぐと目立つぞと声をかけると、ウィル君が居るから平気と水未はにぱっと笑った。

 ロトム入りのパソコンでトレーナーカードを作る。名前と出身地と所持金が表示されていて、銀行のカード代わりにもなるようだ。大変便利なカードだが、失くすと大変だろう。
「リーグカードもあるみたいだな」
「あーそれね、ジムチャレンジしないから作らなくていいよ」
「了解」
 こうして、水未と辰人は無事にトレーナーカードを入手した。


「宿に泊まるのもアリだけど、ワイルドエリアに宿はないからキャンプ用品を買うよ!」
「ワイルドエリアって何?」
「自然を残した場所みたい。多くのポケモンの住処だってさ」
「ふーん。キャンプ用品でここで買えるの?」
「基本のセットはフレンドリーショップでも買えるみたい」
「じゃあそれで」
「あたしが選ぶね!」
 すみませーんと水未が店員を呼び、キャンプ用品を購入する。カードで一括と言う見た目小学生に、大した疑問も持たずに店員はキャンプ用品を売ってくれた。危機感が薄くないだろうか。
「いやだなウィル君。これは世界法則の効果だよ」
「何それ」
「子どもは10歳にもなればジムチャレンジに挑んだり、旅をしたりするんだってさ。だからあたしが大金持ってても、強いんだなーぐらいで済むの!」
「なんで?」
「バトルで勝つと賞金がもらえるの」
「バトルって何?」
「ポケモンバトル! ほら、ビートって人間も言ってたでしょ、ヤバチャは戦闘向きじゃないって」
「もしかしてポケモンを戦わせるのか?」
「そういうこと! 察し悪いよウィル君!」
「その割には楽しそうに喋ってたけどな」
「もー!」
 さて、キャンプ用品を手に入れた。次はと水未はサクサクと思考する。辰人はそれに従うまでだ。
「スマホの手配をしよう。ポケモン図鑑とか地図とか見れるの」
「電気屋行けばいいのか?」
「ここ、アラベスクタウンには無いみたいだから、ナックルシティにまで行かないと」
「水未がいればスマホなんざ要らないと思うんだけど」
「もー、小型化は目立つって言ったのウィル君でしょ!」
「あー、そっか」
 さてはて、一先ずナックルシティに向かうべきだ。

 アラベスクタウンからルミナスメイズの森に入る。アーマーガアタクシーを使う手もあるが、そもそもスマホが無いと呼び出せないらしかったのだ。
「ルミナスメイズの森、暗いねえ」
「ポニータ出したら?」
「光源になるもんね! ウィル君さっすが!」
 出てきてポニータ。そう言いながらモンスターボールを投げる。出てきたポニータが意図を察してふわりと光る。察しの良い子らしい。
 ついでにとヤバチャも出して、ふらふらとルミナスメイズの森を歩く。水未が世界情報から地図を参照して、すんなりとルミナスメイズの森を抜けた。

「ラテラルタウンだよ!」
「で、ここからまた移動か」
「6番道路通らないと」
「もう日が暮れそうなんだけど」
「じゃあ宿に泊まろ」
 空いてる宿に声をかけると、旅人慣れした宿の主人は水未と辰人を泊めてくれた。
 食事はと主人に問われて、食べたと答える。そもそも、水未と辰人は食事は必要ない。エネルギー摂取は太陽光などの光が主だ。夜は月がその役割を持つ。故に、新月の晩は水未と、ついでに辰人は活動を避けるしかない。

 ラテラルタウンの宿のベッドはふかふかだった。ぐっすりお休みよウィル君。そう笑った水未に、お前も寝ておけよと辰人は言った。
「エネルギーは貯めておくに限るだろ」
「睡眠中はエネルギー消費しないもんね」
 合理的だよ。水未はにこりと笑って、おやすみと向かいのベッドに飛び込んだ。
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