キバネズ/それもまた愛であると/口調分かりません/一人称も危うい/捏造しかない/これは二次創作です


!たぶん剣盾のネタバレ含みます!
!どこからがネタバレかわからないですがこれはクリア後クリア後の人間が書いてます!


 湧き上がる歓声、轟く響鳴、それを支配するのはステージの上のやせぎすの男。前を睨むようにマイクを持ち、哀愁の漂う歌詞をロックに乗せる。ああ、正しくここは彼の独壇場だ。キバナは一番後ろの客席で目を細めた。ロトムが写真を取らないのかと揺れている。まあ待てってと、キバナは片手でロトムを落ち着かせた。今はただ、ネズの歌声に酔いしれたかった。

 ステージが終わると、キバナはそそくさと舞台袖に向かった。椅子に座って肩で息をするネズに、おいしいみずを片手に近寄る。
「おつかれさん」
「……ああ、やっぱり」
 いやがったんですね。ネズはおいしいみずを受け取って、言った。キュと飲み口を開くとゴクリと水分を口にする。上下する喉仏、伝う汗。今は声をかけない方がいいとは分かっていながらも、キバナはどうしても言いたかった。
「やっぱ、ネズのステージは飛び抜けてるよな」
 キバナは人に誘わたり、個人的にと、ライブに行くことがままある。そんな風に今まで体験してきたライブの中で、キバナとしてはネズのライブは飛び抜けて興奮するものだと確信していた。

 ただ明るいだけのポップスではない。派手なだけのロックではない。心のやわいところを刺されるような痛みを伴うネズのライブは、そりゃあ確かにエール団が出来るわけである。中毒性が他に類を見ないだろう。

「キバナに褒められるとは思いませんでした」
 アナタには似合わない曲ばかりかと。ネズはそう言った。息はもう整ったようだ。
「オレさまにも色々あるんだって」
「悩み事とか無さそうですよ」
「あるに決まってんだろ?!」
「冗談ですよ」
 でもまあ、とネズは目をゆるりと細めた。
「ありがとうございます」
 そのまろやかな声に、キバナは嗚呼と叫びたくなる。
 兄の目と顔と声が、キバナに浴びせられる。そんな彼が愛おしくて、堪らなくなる。今すぐ抱きしめたくて、ぐっと堪えた。お前はオレの兄じゃないだろ。そう言いたくても、堪えた。ネズのこれは無自覚なのだ。無自覚なほどに、彼はどうしたって兄なのだ。
「どうかしやがりましたか」
「いんや、何も」
 ただ、もう少しでも長く共に居たい。そう願って、キバナはその場に立ち尽くした。ネズはそれを知ってか知らずか、椅子に座ったまま、ライブを手伝ってくれたポケモン達のケアを始めたのだった。

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