キバネズ/忘却5/完結


 ジュペッタの容態は安定している。そんなメールに、ネズはいいことですねと返事をした。タチフサグマがぐるると唸る。おまえには辛い思いをさせましたねと、ネズはケアに徹した。
 タチフサグマはかつて、ジュペッタに負かされ続けたポケモンだった。タイプ相性もレベル差も、どう考慮しても勝てない相手に共に涙を飲んだ仲だ。それが、こんな形でジュペッタに勝つなんてと、ネズにとってもタチフサグマにとっても、あってはならない事だったという自覚があった。

「ネズ、起きてるか?」
 よっと合鍵で家に入ってきたのはキバナだった。何事ですかと返事をすれば、まあ飲もうぜと酒を買ってきたらしい。
「まだ落ち込んでるんだろ」
「キバナだってそうでしょうに」
「あ、バレてる?」
 目の前でネズが喰われたかけたのだ。ショックだったと、キバナは告白する。
「オレさま、まだチャレンジャー時代にあのジュペッタが人を喰ってるところ、見たことあったんだぜ」
「おや、そうだったんですか」
「うん。めちゃくちゃ怖くてさ……本当、忘れないと前に進めなかった」
 ショックだったんだ。キバナは言った。
「ポケモンがモンスターだってこと、人間がいとも容易く堕ちること、そういうのに向き合うにはまだ早かったからさ」
「でも、助けに来てくれたじゃないですか」
「そうだけどさあ」
 辛かった。キバナは悔やむ。
「本当に、もっと早く気がついていたら、ネズに言えたら、喰われかけることもなかったんじゃないかって」
「ノイジーです。イフの話をされても仕方ありません」
「そうだけどさあ」
 ネズって案外リアリストだよな。キバナの言葉に、おまえこそ案外ロマンチストですねとネズは返した。

「ジュペッタの容態は安定しているようです。しばらくしたら野生に戻るでしょう」
「じゃあ、ネズに会いに来るかも?」
「それはありませんよ。彼女に、おれはもう要らないので」
 かみさまは神様じゃなくて人間だった。彼女は人喰いポケモンだったが、それは怨念からの指示でしかなかった。
「ああでも、彼女なら、気ままに各地を巡るぐらいはしそうですねえ」
 すっぱいきのみが好きでしたからと、ネズはカラカラと笑ったのだった。





『忘却』
Q.忘却と怨念は相反するのか。
A.それこそが救済である。

完結


・・・


おまけ


ネズ…喰われかけたが安定している。ジュペッタがいなくなったら家の気温が数度マシになった。ゴーストタイプだもんね。

キバナ…さり気なくトラウマ持ち。だが、乗り越えたら強くなれそうだと思います。現にこの話では強くなりました。

オニオン…ジュペッタを保護した。野生に帰るトレーニングをしている。順調らしい。

ジュペッタ…わんぱくな女の子。怨念により、性格が捻じ曲げられていたが、すっぱい味が好きなことはずっと変わらなかった。今後ネズに会うことはないが、ネズの無事を遠くからずっと祈っている。呪いではない。祝福でもない。ただ祈ってるだけです(重要)

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