キバネズ/忘却2/続くかもしれない


 白い息を吐く。今晩はよく冷えている。ネズは電話でオニオンにアポイントメントを取った。時間があるのでというオニオンに、明日会う約束をとりつけて、安堵したネズは自宅にいた。
 モノトーンの小さな家にはネズとパートナーたちに、ジュペッタだけがいる。マリィとはジムリーダーの全権限を譲渡してからは家を分かち、それぞれポケモンたちと別の家で暮らしている。
 ジュペッタが窓際でそっと雪が降る外を眺めている。パートナーたちはジュペッタから離れて、じっと見守っている様子だった。この中では誰よりも年長のジュペッタなのだ。様々な意味で経験豊富なことを本能で見抜いているのだろう。
「皆、ごはんですよ」
 自分の食事より先に、ポケモンフーズを配る。ジュペッタにも、微かな記憶を頼りに好みであろうフーズを渡した。

 昔、かみさまがいた。ネズはジュペッタがぽそぽそとフーズを食べるのを見守る。

 随分と昔、ネズにバトルのいろはを教えてくれたかみさまがいた。その人は鬼のように強かった。鬼のように、ネズにバトルのいろはを叩き込んでくれた。その相棒が、このジュペッタだった。うら若きカゲボウズから育て上げたジュペッタは、あのかみさまの最高のパートナーだった。
 ネズは思う。もしも、このジュペッタを手にできたら、自分はもっと強くなれるだろうか。だが直ぐに答えが分かる。否だ。
「はやく、おまえの住処ができるといいですね」
 それまではおれの狭い家で我慢してくださいね。そう告げると、ジュペッタはちらりとネズを見て、ニシシと笑った。
 ぼうやは大きくなったね。そんな皮肉めいた柔らかな声が聞こえた気がした。

 さて、自分は何を食べようか。酒とインスタントの食事でも摂ろうかと、買い溜めてある缶詰を探した。


・・・


 比較的温暖なナックルシティに雪が降った。冬の到来を告げるそれに、積もらないといいとキバナはぼんやりと思った。積もればポケジョブの申請を急遽行って雪かきの必要があった。そもそも雪に慣れなていない土地なのだ。僅かな雪が混乱を呼ぶ。

 それよりもと、キバナは回想する。考えるのはネズが見せてくれたジュペッタだ。あのジュペッタをどこで見たのだったか。どこかで、何処かで見覚えがあった。頭が痛い。自分は知っている。チャレンジャーとの記憶ではない。過去、遠い昔、どこかで、確かに彼女の断片を見た。
「考えろ、考えろ……」

 不気味に笑うぬいぐるみ。積年、降り積もった怨念と、ゴーストタイプの冷ややかな目と、何よりも、彼女のトレーナーは。

「あー、駄目だ。思い出せねえ……」
 何かが、キバナの頭で警笛を鳴り響かせていた。冬のガラル、爪先まで冷やす風が、外で吹き荒れていた。嵐にまでは、ならないといい。キバナはどこか他人事のように思考した。

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