キバネズ/とびきりのアイスクリーム/キルクスタウンにアイスクリームを食べに行きたいキバネズ


 アイスクリームが食べたい。それもとびきりのやつだ。
「ネズ! キルクスタウン行こうぜ!」
 やや興奮気味のキバナに、おまえはいつも唐突ですねと言いながら、オフのネズはのそりとベッドから起き上がった。

「マリィちゃんは?」
「とっくに朝食を食べて出掛けましたよ」
 ざかざかと冷蔵庫を漁り、適当な野菜を見繕うと味付けをした卵液の中に刻んで入れて、まとめてオムレツにする。キバナはその間に、ネズのポケモンたちを見てはお前たちはもうご飯食べたんだなと撫でて回っていた。
「おまえは食べたんです?」
「まぁだ」
「じゃあ作りますんで文句いわねーでくださいよ」
「文句なんて言ったことないだろー」
 ネズのご飯は安心するんだよな。キバナはそう言いながら、ポケモンたちのチェックを終えて手伝うことはあるかとネズの隣へやって来た。
「じゃあ、ミルクティーを頼みます」
「了解」
 すっかり勝手知ったるネズとマリィの家の戸棚から茶葉やらティーセットやらを出す。ヤカンに水を入れて、火にかけた。紅茶は充分に沸騰したてのお湯が肝だ。何かを作りながらだと見逃してしまいそうなお湯の音を、ネズは完全にキバナに任せてオムレツを二つ作る。あとは色味としてレタスとトマトとマトマを少し。昨日買ったパンを温めていると、そろそろ紅茶が上がるぜとキバナが声を上げた。

 オムレツにパンにミルクティー。二人で食べ始めた。すでに朝食を食べたポケモンたちにはおやつとしてきのみを渡している。
 キバナがじっとネズを見ると、ネズははいはいと頷いた。
「キルクスタウンなら行きますから、落ち着いて食べなさい」
「わぁかってるって」
「じゃあ何ですか」
「いや、ちゃんと飯食べてるネズは貴重だなと思って」
「ノイジーです」
 用意に少し時間がかかりますからとネズが言うので、キバナは待てと言われればいつまでもと笑った。

 ネズ達の家の戸締まりを確認し、SNSのチェックをする。ついでにキルクスタウンのおすすめアイスクリームトップ10を眺めていると、今年はチーズのフレーバーが人気らしかった。はて、ネズはチーズが得意だっただろうか。キバナが思い出そうとしていると、カラマネロがそっと冷蔵庫を指差した。中を見るとチーズがちょんと置いてあるものの、量が少ない。
 チーズを指差してふるふると頭を振るうカラマネロに、そうかとキバナは頷いた。ネズはチーズが得意というわけではないらしい。

 ならば定番のチョコレートやベリー系だろうか。ああでもキルクスタウンのアイスクリームショップでは、バニラもうまい。あれこれピックアップしていると、そろそろ出れますよとネズが自室から出てきた。
「それで、何が食べたいんです?」
「キルクスタウンといえばアイスクリームだろ」
「それは分かりますよ。おまえが、何を食べたいか、と聞いてるんです」
「ネズとアイスクリーム食べれればいいんだけど」
「だったらその辺のショップでもいいでしょうに」
「んー、でもやっぱ、ネズと出掛けたいし。デートしたいもん」
「はあ、そうですか」
「反応薄くね?」
「毎月言われればそれなりに抵抗力が付きます」
「まじで? 毎月言ってる?」
「嘘だと思うならプライベート用の写真フォルダでも眺めたらどうです?」
 ああほら、もうすぐタクシー乗り場ですよ。ネズの言葉に、スマホロトムを出そうとしたキバナは、置いてくなよと慌てたのだった。

 そして後日、キバナのSNSにアイスクリームの写真がアップロードされたのだった。

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