キバネズ/結実/望み甘え給え/マリィちゃんもいます


 スパイクタウンのネズとマリィの家で、キバナはソファに座っていた。ネズがどうぞと紅茶を出すと、サンキュと返ってくる。ティーカップではなく実用性重視のマグカップなのは、ガラルではあまり見かけない茶会の風景かもしれない。ネズはワールドツアー中に慣れてしまったけれど。

 ふと、マリィがとたたと外から帰ってきた。ただいまと大きな声で言ってから、あれキバナさんだと目を丸くしていた。いつもなら朝にはネズに何時に行くからとの連絡があって、その連絡をマリィにも見せるからだ。つまり、今日のキバナは突然来たわけである。
「どうしたん? なにかあったと?」
「マリィが心配するようなことはありませんよ」
「ポケジョブの調整だぜ。マリィも書類見るか?」
「見る」
「それよりも帰ってきたのだから部屋着に着替えるなり手を洗うなりしなさい」
「あ、わかった!」
 ぱたぱたと部屋に駆け込んだマリィを見送り、さてとネズはキバナが持ってきた書類を眺める。
「一難去ったと思ったらポケジョブの申請がこんなに増えるとは……」
「いやまあ、同感だけどよ。今までマクロコスモスに頼り過ぎてたんだろ」
「あいつのせいですか」
「頼ってたのはオレさま達ガラル人の責任だろ?」
「まあそうですね。おれも自分の街しか見てなかったわけですし」
 若き現チャンピオンが半数近くのポケジョブに対応している現状はあまりによろしくない。これではローズ元委員長の二の舞にならないか。そんな議論を重ねた結果、ポケジョブを使用しつつも比較的自給自足が多かったスパイクタウンにロールモデルを提出してくれないかとの話が舞い降りたのだ。
「こんなのマリィにはできませんよ」
「おう。だからこれ、ぶっちゃけネズ宛てでさあ」
「久しぶりに書類仕事しますかね……必要な資料一覧あります?」
「記録さえあればまずは皆満足すると思うぜ」
「記録なんてないですよ。町内で申請書のやり取りなんてしてると思います?」
「あー、そういう……」
「聞き取りと書類作成があるのでしばらく掛かりますと伝えてください」
「了解。じゃあ、それはマリィも手伝わせてやれよ」
「勿論です。いつかはそういう仕事もしないといけない立場ですからね」
 これもまた成長の一つ、人生の糧になるだろうとネズは確信した。

 そこで、マリィがばたばたと外出着のまま自室を飛び出してきた。スマホロトムがしゅんしゅんと動いていて、なにやらマリィは通話しているらしい。通話の向こうからは何かが暴れる音がする。何かなんて、こんな音、ポケモンしかありえない。マリィはネズに気がつくと、アニキと声をかけてきた。
「スパイクタウンの奥に野生のオンバーンが迷い込んだけん! マリィが見てくるから!」
「え、ちょっとそれはマリィの手に余ります!」
「じゃあアニキ、準備できたら来て! それまでマリィが対応しとるけん!」
「マリィ?!」
 ばたばたと出て行ったマリィに、キバナはすっくと立ち上がり、モンスターボール片手にネズに声をかけた。
「オレさまも手伝う。オンバーンなら専門の範囲内だぜ」
「助かります。おれは奥への道を閉鎖するためエール団に声をかけてから行きますので」
「分かった」
 そのままキバナが出て行くと、ネズは部屋着から最低限の外出着に着替えながら、エール団に街の最奥への立入禁止の対応を頼んだのだった。

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