キバネズ/鮮烈/灯台守と風船


 ワールドツアーを終えたが音楽活動は終わらない。
 ネズは新作のミニアルバムを引っさげてバウタウンにやって来ていた。ここは知り合いのギタリストの出身地であり、ジムリーダー繋がりのルリナに受け入れられたことから、小さなハコでライブをすることになったのだ。ルリナからはもっと大きな場所を提供されそうになったが、ネズはそう沢山歌うわけではないのでと、遠慮した。
 チケットの売れ行きは上々で、小さなハコは完売御礼。また機会があればバウタウンで歌ってほしいと頼まれたほどだった。

「よっ!」
「ああ、キバナですか」
 バトルのようなライブを終えてから屋台通りでの打ち上げを終えた頃。ひょいとキバナが顔を出した。暗い中、屋台の明かりが揺れるそこで、キバナは海でも見ようぜとネズを引きずって行った。もちろん、引きずられながらもひらひらと関係者に手を振ることは忘れない。彼らがいなければネズのライブは成り立たないのだから。

 海は珍しく静かな様子だった。灯台の近くでボケっとしていると、ほらよと程よく熱い缶コーヒーを渡された。
「そういえばジョウトやカントーの缶コーヒーは美味しかったんですよね」
「お、そうなのか? これもカントーのじゃなかったっけ」
「カントーでもジョウトでも普通に売られてましたよ」
「やっぱ向こうって味覚違うんじゃねえかな。輸入品とか割と何でもめっちゃうまいもん」
「一理ありますね。家庭料理に求めるレベルも全然違いますし」
「はー、やっぱそうなんだ」
 缶コーヒーを飲みながら海を見る。灯台の光がなければ真っ暗だ。まさに暗い穴のようなそこは、潮風で海だと分かる。
「ネズはさ、これからどうすんの?」
 ふと聞かれて、ネズはそうですねえと相槌を打つ。

 ワールドツアー、凱旋ライブ。まあジムリーダーをやめてからミュージシャンとしてやりたいことは粗方、終えてしまった。

 後はどうするか、何て考えたこともなかった。
「ただ生きるだけですよ」
「それだけか?」
「ええ、それだけです」
 歌って、バトルして、スパイクタウンの復興に力を注ぐ。いつも通りに、そうやって生きるしか、ネズには分からない。他の生き方なんて知らなかった。
「じゃあさ、オレさまとはどうなりたい?」
 ふむ。ネズは考える。だが、言いたいことはすぐに決まった。
「おまえが手を離さない限りは共にいますよ」
「なんだそれ」
「残念ながら、おれはふらふらとしがちですからね」
「いい得て妙ってか!」
 全国駆け回って、凱旋ライブをして、あっちこっちでスパイクタウンの宣伝をして。それら全部が自分の意思で、やりたいことだから。
「せいぜいしっかり手を結んでおくことですね」
 おまえだけに愛されるつもりは無いのですから。そうやって笑えば、あくタイプだなあなんて変な罵倒をされたのだった。

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