キバネズ/妖精の悪戯/ネズ+ポプラ+ビートがメインですがキバネズです/捏造しかない/これは二次創作です


 知らない坊や。

 ポプラの指先が辿る先に、何かがある。フェアリーの不思議な力を使える彼女を、人は魔女と呼ぶ。ネズはそんなポプラに頼って、アラベスクタウンにやってきていた。
「あなた、暇なんですか?」
 出迎えたビートの辛辣な一言に、暇ではないですよ、とネズは答えた。ジムリーダーを引退してから、むしろやりたいことが多すぎて余暇は減った。
「無理が祟ると病に落ちます」
 ビートは薬草を手にそっと戻ってきて、清めた水でその薬草を濡らすと、ぽんぽんとネズにふりかけた。
「妖精避けのまじないです。貴方はうっかり見初められかねないと、ポプラさんが言ってたので」
「それは、ありがとうございます」
「当然のことをしたまでですから」
 それよりも、ルミナスメイズの森を通ってはいませんね。しつこいまでに問われたそれに、ちゃんとアーマーガアタクシーで来ましたよとネズは答えた。

 ビートが通してくれた館の部屋には、暖炉脇のソファにすわるポプラがいた。彼女はすうっと顔を上げる。
「ああ、来たのかい。ようこそ、アラベスクタウンへ」
「来たのは知っていたでしょう」
「そうに決まっているだろう、坊や。ちょっと席をお外し」
「分かりました。何かあればすぐに声をかけてください」
 それではとビートは部屋から出ていった。ドアの向こうから、スパイスたっぷりのチャイでも持ってきますねと声がした。ポプラは頼んだよと見えないのにひらひらと手を振った。
「さて、とね」
 見せてくれるかい。そう言われて、ネズは左腕を差し出した。左腕の、普段は服で隠れた場所には、まだ生々しい、痛々しい傷跡があった。
「見事な妖精の仕業だねぇ、腕以外は平気かい?」
「はい。でも、二週間は経ってるはずなのに傷口が塞がらなくて」
「血は出てないんだね」
「はい」
 ならばと、ポプラはついとマホイップを呼んで小瓶を手にすると、飲みなとネズに差し出した。
「まずは毒を流さないとね。それを飲むと血が流れるよ。そう多くはないから血の流し過ぎでショック死、なんてことにはならないから安心をし。でも、念の為にバスタブの用意をしようかね」
 トゲキッスを呼びつけると、バスタブにぬるま湯を張るようにと指示をした。
 ネズは手の中の小瓶を眺める。とろりと粘度のある蜂蜜色の液体は、ポプラへの信用無しには飲めそうにない。

 バスルームに移動し、腕をさらけ出すために上の服を脱いでから薬をぐっと飲んだ。こくりと嚥下すれば、どくんと心臓が鳴った気がして、傷口から血が滲んでくる。その血は黒ぐろとしていて、明らかに何かを含んでいた。
 血が流れきると、バスタブのぬるま湯で洗う。ぬるま湯にはドライハーブが漬けられていた。

 部屋に戻ると、もう一度見せてご覧とポプラが言う。見せると、これなら処置ができるとビートを呼びつけた。ビートはチャイを手に戻ると、包帯やら傷薬やらを部屋の棚から取り出して、ポプラの指示のもと、テキパキと傷口の処置をした。

 そうしてチャイを飲み、暖炉で温まりながら語らう。
「早ければ三日で治るね。坊やが妖精のまじないにかけられた時よりはマシさ」
「ポプラさん、一言多いんですよ」
「そうかねえ。ああほら、最後に見せてご覧」
 ネズが包帯の巻かれた腕を見せると、ポプラはすうっと息を吸った。
「北の旅路、南の夜空、猫の額に、犬の尻尾。そうだねえ、ドラゴンにはお気をつけなさい」
「分かりました」
 治療の対価にと、ネズは氷の石を渡して、そっとアラベスクタウンから立ち去った。


・・・


「ネズ!」
 スパイクタウンに戻ると、何故かキバナが待ち受けていた。ネズはドラゴンねえと思いながら、キバナの前に立つ。
「ポプラの婆さんのとこ行ったって、」
「妖精にまじないをかけられましてね。治療してもらって来ました」
「そんなことは分かる! それで、大丈夫なのか?」
「三日もすれば治るそうですよ、それと」
「それと?」
「ドラゴンに気をつけなさいと言われたので、離れてください」
「何で?! オレさまは人間だけど?!」
「気分の問題です。おれとて長引かせたくないんですよ」
「そっか……じゃあ三日は我慢する……」
「メッセージも返信しませんから」
「そこまで?!」
 酷いと騒ぐキバナに、たった三日ですよとネズは呆れた顔をした。
「これ以上酷くなる前に対策はしておくべきってもんです」
「それはそうだけど」
 オレさま、寂しくて死んじゃう。そうぼやいたキバナに、ネズは可愛らしいなあと思いながらも、それではと無情にも自宅に戻ったのだった。

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