キバネズ/計算外/捏造しかない/これは二次創作です/範囲内の続きです/おしまい!
夕飯はポトフだった。丁寧に下拵えをして煮込んだそれはほろほろのとろとろでとても美味しかった。煮ただけですけどねえとネズは言うが、それだけではないだろう。優しい味付けは普段からマリィに料理を振る舞っているからに違いないと思えた。
シャワーを浴びて、部屋に戻るとネズはキバナの手持ちと遊んでいた。自分の手持ちはどうしたんだと問えば、ボールの中でもうおやすみですと返事が来た。
「全員を出したまま寝させられるほど広くないので」
「それもそうだな。おーいおまえら、ボールに入るぞー」
ボールに戻すと、唯一、ヌメラだけがきょろきょろと当たりを見回して拒否した。ジグザグマですかねとぴんときたネズがボールからジグザグマを出せば、ぴとりと二体はひっついた。仲良しなのは良いことだ。
「じゃあお前らはそのまま寝るか? ネズ、どうだ?」
「いいんじゃないですか」
そもそも、このジグザグマは一人じゃまだ眠れないんですよね。ボールに入れても結局出て来てしまいがちだとネズが言うので、なら今日は丁度良くヌメラがいて良かったと笑った。
ゲストルームで寝てくださいねと言いながら、ネズはホットミルクを作り始めた。寝る前に飲むといいんですよとネズは言う。
「マリィの寝付きが悪い時に便利なんですよ」
「おお、オレさまもはよ寝ろってか」
「おまえは特別にブランデーを垂らしてあげますよ」
「寝ろってことじゃん」
まあそうとも言いますねとネズはくすくす笑った。その優しい顔に、どこまでなら許されるんだろうとキバナは思った。
「なあネズ、」
「なんですか」
「オレさまが眠れなかったらどうしてくれる?」
なあなあと聞けば、そうですねえとブランデーを出しながら言った。
「添い寝でもしてあげましょうかね」
はいどうぞと、ホットミルクを差し出された。
キバナはそれを受け取って、机を挟んでネズと向き合いながら、カップを傾ける。ネズもまた同じホットミルクを飲んでいるようだ。
「マリィではないのだから、ナイトティーでも良かったんですけどね」
おまえ、寝付きが悪そうですし。そう言われて、普段はよく眠れるってのと返した。今日は上手く眠れるか分からないけれど。
「何か音楽でも流します?」
「いや、へーき」
「そうですか? 何だか静かなおまえは不安になりますね」
「不安になってくれるのかよ」
「当たり前でしょう」
おまえは元気が取り柄ですからね。そう言われて、そんなこと無いとは、何故か言えなかった。
ホットミルクを飲むとゲストルームに入った。ベッドに寝転がると、ぱりっとしたシーツが肌に心地良かった。
眠れないかと心配したが、ネズとのゆっくりとした会話とホットミルクに、思いの外素直にキバナは眠りに落ちた。
・・・
夢を見たような気がする。スマホロトムのアラーム音で目覚めて、キバナは着替えるとゲストルームから出た。ネズはリビングにいないようだ。部屋だろうかと見回していると、よくよく見るとソファに影があった。
「っは?!」
思わず駆け寄って見れば、ネズがソファで眠っていた。その目の下のクマに、まさかと嫌な予感がよぎる。こいつ、深夜まで作曲をしてたのではないか。
そっとジグザグマとヌメラの方を見ると、起きていたヌメラがコクリと頷いた。流石はオレさまのポケモン。トレーナーの思考をバッチリと読めている。
「ネズ、ネズ、おーい」
眠るなら部屋で寝ろ。というかベッドで寝ろ。そう揺さぶると、ううんと目を開いた。
「ああ、おはようございます……」
「おはようさん。言うことはあるか?」
「……よく眠れたようですね?」
「おまえのことだってば」
深夜まで作曲が長引きましてと、ネズは反省など一ミリも見せずに言った。こちらには早く寝ろと急かしておいて、これである。まったくようとキバナは息を吐くと、朝飯作るわと台所へ向かった。
「いや、おれが作りますから」
「手元が危なっかしいんだけど?」
「う、それはそうですけど」
メニューは何の予定だったと聞けば、ネズは素直にメニューを述べたのだった。
サラダにハムチーズトースト。ミルクティーも作れば完璧だ。
ソファでうつらうつらしていた彼に朝食を食べさせると、美味しいですねえとへらと笑われた。普段の年上前とした雰囲気が全て削がれていて、キバナはこんなの聞いてないと顔が赤くなった。
「ともかく仮眠でも取りますよ。深夜作業のお陰でだいぶ曲が良くなりましたし」
「おー、寝ろ寝ろ」
「またポケモン達のこと頼んでもいいですか」
「構わないけど、そんな簡単に任せていいのか?」
さり気なく言えば、ネズはきょとんと目を丸くした。
「簡単も何も、おまえだからですよ」
ネズは指折り数える。
シークレットライブをしたのも、作曲中にポケモンを任せたのも、夕飯を作ったのも、ホットミルクを飲んで語らったのも、全部全部。
「全部、おまえだからですよ」
分かりませんかと薄赤い口内が揺れて、首を傾げられて、キバナはぼっと頬が熱くなった。
「な、なんつーことを」
「そもそも、おれがバトルを拒否しない時点で分かりませんか?」
艷やかな笑みとさらりと揺れた特徴的な髪が、朝日の中で眩しく輝いていた。ああもう。この男は。
「そんなの、分かるか!」
そうですかねえ何て、ネズはくっくっとあくタイプ使いらしく笑ったのだった。