キバネズ/あなたのすきなところ/口調分かりません/一人称も危うい/習作です/捏造しかない/これは二次創作です


!たぶん剣盾のネタバレ含みます!
!どこからがネタバレかわからないですがこれはクリア後クリア後の人間が書いてます!


 音がする。キバナはそっと耳を傾けた。微かな鼻歌はどうやら本人の意思を無視しているらしい。今、ネズは歌詞を書いている。ささやかなメロディはライブでは転じてロックになるのだろう。キバナはこの始まりの音が好きだ。最初の、ネズのインスピレーションの塊が好きだ。
 ダイマックスを使わなくともキバナとバトルできる。それでも同じ土俵に立てるこの男の、ジムリーダーやチャレンジャーとは違う側面。人によってはどちらかの側面しか知らないかもしれないそれを思うと、キバナは随分と贅沢をしている気分になる。

 ロトムがきゅっと動く。紙面の歌詞は写してはいけない。それはネズとキバナが共に過ごすようになり始めた頃に決めた。
「本当はこんな時に誰かと居るなんて考えらんねーですよ」
 そうぼやいていたことをキバナは未だ覚えている。そんな彼は時折、机の上のキーボードを叩いてはヘッドホンに耳を澄ませている。今日はいつもより集中しているらしい。キバナは嬉しくなる。
 きっと、良い曲が出来るだろう。いつも良い曲だが、今回はとびきりだ。そう確信して、キバナはそっと遠目に写真を撮った。もちろん、シャッター音は最小だ。撮ってもいいですけど、音を消すことだけはやめろってんですよ。以前言われたそれをキバナは素直に守っている。写真を撮る許可が出ただけ上々だ。

 ああ、でも。キバナはゆるりと唇に弧を描いた。"告白のようなもの"は交わした仲だが、面と向かって告白したわけではない。好きだ、愛してる。そんな凡庸な言葉を、あのネズが素直に受け止めてくれた時。ネズのその時の顔はきっととびきりだから、写真に残せないかもしれない。だってそんな顔をされたら抱きしめたくてたまらないだろう。
「何ニヤついてんです」
 不気味ですと振り向かれて、キバナはいんやと手をひらひらと振った。
「ちょっと考え事してただけだぜ」
「はあ……」
 まあいいですけど。ネズはトンとペンを置いた。歌詞を練っていた紙を雑に束にすると、机の隅に無防備に置いた。試されているのか。そんなことを考えたこともあったが、単にキバナが信用を勝ち取っただけのことだ。
「そろそろ昼にしますかね」
「お、なら行ってみたい店があるんだけど」
「お好きに」
「なら決まりだな!」
 立ち上がり、行こうぜとネズの手をとる。町中では手を繋がないと決めていたが、まだネズのねぐらの中だから構わないだろう。ネズは深い為息を吐いてから、そっと手を握り返してくれた。ぞくりと己の肌が震えたのは見ないふりをして、兎も角は食欲を満たそうと進んだのだった。

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