キバネズ/晩ごはん/2021武者修行アンケートより


 ふわりと、ミルクの匂いがする。
 キバナはそっと目を開いた。かちゃかちゃと小さな音がする。ネズの家で寝ていたようだ。ソファはキバナが寝るには小さすぎて、やっぱり買い替えたいなと思った。キバナが楽に眠れるソファになると、特注品となるが。
「キバナ、起きたなら手伝いなさい」
 ネズが振り返ることなく言った。ミルクティーがふわふわと香る中で、ポケモンたちの晩ごはんの支度をしていた。
 ネズとキバナという、所謂一流のトレーナーのポケモンは、幾分か気難しい傾向にある。ごはんもそのひとつだ。個人メニューを、その日の体調に合わせて、せっせと用意する。キバナは手伝うと立ち上がった。
 きのみとフーズを混ぜ合わせたごはんを各自に配る。腹が減った彼らは、それでも、良いと言われるまで手を付けない。全員に配ると、キバナとネズがそれぞれのポケモンたちに、食べる許可を与えた。
 ミルクティーに入れるモーモーミルクは、地方によって濃さや味が違うらしい。食べているもの、環境の差でしょうね。ネズは言っていた。ポケモンバトルと似ているように思う。
「ネズはこのあと、レコーディングだっけ?」
「はい。一晩かけます。朝になったら戻るので、それまで家の番を頼みますね」
「了解。マリィは?」
「チャンピオンたちと武者修行らしいですよ。ワイルドエリアに泊まり込みです」
「若いな」
「おまえもそれなりに若いでしょうに」
 ネズはそれじゃあ支度しますかと、自室と自宅の作業スペースを行き来する。キバナは真っ先に食事を終えたジュラルドンの体を拭きながら、忙しいなあとのんびり考えた。
 ジムチャレンジのオフシーズン。キバナにとっての休暇の時期だった。一ヶ月の休みに、キバナは体と心を整える。そして、キバナがいなくとも、ナックルの宝物庫が守れるのだと、ジムトレーナーたちに思い知ってもらう機会だった。
 キバナがいないと何もできない、なんて、そんな組織はいらないのだとすら、思えてしまう。全体主義的。ネズがくつくつ笑う気がする。アーティストであるネズは、ネズ居てこそのジムだったし、アーティスト活動なので、キバナとはステージが違いすぎた。
 だが、そういう全く違う二人だからこそ、お互いを高めあえる。キバナはそう信じていた。
「なあ、ジュラルドン」
 月光浴でもするか。そう伝えると、ジュラルドンは嬉しそうにきゅいきゅいと肌を揺らしたのだった。

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