キバネズ/理由を教えて


 白い息。冬のスパイクタウンはよく冷える。ネズはスパイクタウンをぶらりと歩いていた。作曲活動の息抜きだ。ついでにプディングでも買って帰りますかね。ネズは寒さの割に上機嫌に鼻歌なんか歌っていた。

 歩を進めること、十五分ほどだろうか。ふとベーカリーの軒先を見れば、大男がジュラルドンと立っていた。
「なにしてんですか」
 思わず声をかける。そして、大男こと、キバナがこちらを見る。あ、ネズ。と、本当に気が付かなかったらしい。
「シナモロールとパイ、どっちにしようかなって」
「ハァ」
「ネズならどうする?」
「どっちも買いますよ」
「へえ」
「マリィに好きな方を渡して、おれは残ったほうです」
「なるほどな」
 お兄ちゃんだなあと、キバナはへらりと笑った。どうやら弱っているらしい。隣のジュラルドンがじいとこちらを見る。仕方ないやつ。ネズはため息を吐いた。
「どちらも買ってあげましょう」
「え、いいの。お金なら別に」
「そして半分こ、です。いいですね」
「あ、はい」
 キバナを軒先に置いたまま、ネズはベーカリーに入ってシナモロールとパイを購入した。

 ネズの家に入る。引き連れてきた大男は、スパイクタウンの奥にはこんな閑静な住宅街があったのかと驚いていた。鳥の声さえする、静かな町並みは、ロックを歌う町にしては静か過ぎた。
「おれは結構好きですよ」
 それに、静かな方が作業が捗ります。手洗いうがいを済ませて、キバナとジュラルドンをソファに連れて行く。ふたりがそれぞれ座るのを見てから、ミルクティーでいいですねとネズは決めつけた。

 トースターにパイを入れる。シナモロールはもう半分にカットした。沸騰したてのお湯をティーバッグを入れたポットに入れて、蒸らす。砂時計が落ちきる前に、トースターから音がした。熱々のパイを半分にして、ジュラルドンにはおやつのガレットを引っ張り出した。
「どうぞ」
 ミルクティーとシナモロールとパイ。ジュラルドンにはポケモン用のガレットを。手慣れてるな、キバナは顔を和らげた。
「ありがとう、落ち着くぜ」
「そりゃ良かったです」
 にしてもと、ネズは聞く。
「一体全体何があったんです?」
「あ、聞くんだ」
「まあ、ここまでおもてなしさせたんですから、聞くぐらい構わないでしょう」
「嘘でもいいからって?」
「当然です」
 嘘でも、何でも、理由が聞きたかった。ネズが続けると、ずるいなあとキバナはへらりと笑った。
「ちょっと疲れてたんだ。まあ、事務作業が徹夜続きだったんだよ。やっと片付いて、何となく、スパイクタウンに来てた」
「そりゃ光栄ですね」
「うん。スパイクタウンはさ、知らない町だろ。オレさまのことに興味がある人も少ないし」
「そりゃあ、ナックルよりはね」
「そう、だから、安心した」
 ここなら、オレはただのキバナだ。そうして、キバナはパイにかぶりついた。

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