キバネズ/良いお年を!


 仕事納めを済ませて、キバナは家路につく。今日はナックルの家に帰ろう。もう夜も遅いから、ネズを起こしては申し訳ない。しかし、ナックルの家にはキバナと愛するポケモンたちしかいないだろう。ネズがいない。それだけが、寂しい。
 いつの間にこんなに貪欲になったのだろう。キバナは息を吐いた。白い息。気がつくと雪がちらついていた。

 ナックルの住宅街にある一室。ガチャリと鍵を開いて開けると、ひょいと白黒の髪がリビングから顔を出した。
「おかえりなさい」
「えっ、ネズ?!」
 なんでこの家に。キバナが目を白黒とさせていると、合鍵を渡したのはおまえでしょうなんて、見当違いなことを言う。
「夕飯作りますかね」
「でもこんな時間っ」
「夜食もたまにはいいでしょう」
 手洗いうがいの後に、ポケモンたちへ先にフーズを。ネズはそう言うとエプロンを片手にキッチンに入った。

 年の瀬も年の瀬。てっきりマリィと過ごすものかととキバナがしどろもどろに言うと、チャンピオンたちとホップの家にお泊りですよと楽しそうに言った。
「新年を友達と迎えるなんて、今までじゃ考えられなかったですからね。いいことです」
「ネズは寂しくないのか?」
「寂しいですよ。だからここに来たんです」
 分かりやがれ。ネズはくつくつと上機嫌で笑っていた。
「おまえにもメッセージが来てるんじゃないです?」
「え、マジ? ヘイ、ロトム!」
 スマホを見れば、ダンデから楽しそうにパーティをする子どもたちの写真が送られてきていた。仕事に追われて全く気が付かなかった。良きパーティを。そんなメッセージを返信して、スマホロトムを自由にさせた。
「何作るんだ?」
「ジャガイモのプディングを用意しておいたので、温めます。あとはコールスローと、ワインとチーズを」
「じゃあ秘蔵のワイン出すぜ」
「おや、いいんです?」
「元からそのつもりのくせに」
「まあね」
 手洗いうがいの後に、ポケモンたちにフーズを配る。ワインセラーから秘蔵のワインを一本出して、リビングに向かえばネズがテーブルのセッティングをしていた。相方はカラマネロで、エスパータイプの力を丁寧に使ってネズの手伝いをしていた。
「テレビつけます?」
「カウントダウンのやつ何かやってるかな」
「あ、そういえば。カウントダウンではないですが、ヤローとルリナのエキシビションマッチが、そろそろ始まりますね」
「お、いいね。見ようぜ」
 テレビをつけて、エキシビションマッチを横目に、ネズがワインを開けるのを眺めた。グラスに注ぎ、くるりと回す。これはいいワインですね。ネズは満足そうだった。
「にしてもこんな日にエキシビションマッチ組むとか、ヤローもルリナも凄いな」
「まあ、仕事ですからねえ。試合が終わったらすぐに家に帰るんじゃないですか?」
 プディングと、コールスローと、ワインとチーズ。それらが並んだテーブルと、ネズとキバナの写真を、ダンデに送る。すぐに、子どもたちが羨ましがってると返信が来た。パーティをしただろうにと笑えば、子どもたちは今はバトルの組み分けでくじを作っているらしい。
「バトルして年始を迎えるわけですか。どいつもこいつも、バトルジャンキーですねえ」
「でもまあ、いいんじゃないか?」
「そうですね」
 ワインで仄かに桜色になったネズの頬に、笑みが浮かぶ。マリィはきっと楽しいことでしょう。我が事のように喜ぶネズが愛おしくて、キバナはあのさと口にした。
「オレたちもバトルする?」
「いいえ。それよりカウントダウンのテレビでも見ません? おれ、毎年マリィと見てたんですよ」
「じゃあそうするか」
 エキシビションマッチが終わる。良いお年を。ルリナとヤローがカメラに向かって手を振っていた。今夜はきっと、誰もが新年を待ちわびている。この空気は嫌いじゃない。キバナはテレビをチャンネルを変えながら、ネズと過ごす年末年始に思いを馳せたのだった。

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