キバネズ/太陽の果てに愛を夢見る
タイトルは脳味噌ナイチンゲール化計画(旧自作サイト)より。


 空を見た。快晴だった。

 ネズは窓越しに空を見上げる。晴れている。ほうと、息を吐いた。薄寒い部屋にぶるりと身震いして、意を決してベッドから出て暖炉に火をつけた。

 部屋が徐々に温まる。毛布を被りながら、もぞもぞとポケモンたちの食事を用意する。すっかり整うと、今度はマリィと自分の朝食を作ろうとした。だが、今日のマリィは泊りがけでヨロイ島に行ったのだと思い出した。無事鍛錬に励めればいい。ネズは願った。
「ネズー! おはよう!」
「朝からノイジーなやつ……」
「お、起きてる」
 外の冷気を纏いながら、キバナがやって来た。マリィちゃんはと問われて、外出ですと適当に答えた。
「外さあ、こんなに晴れてるのにめっちゃ寒くて」
「あー、おまえはただでさえ、寒さに弱いですからね」
「ドラゴン使いの宿命かなあ」
「そうかもしれませんね」
 で、飯でも、食べますか。ネズが問いかけると、キバナは、オレが用意するから毛布を置いてきなと、にっと笑った。

 毛布をベッドルームに戻して、朝の身支度をする。やっと髪をくくると、よっこらせとリビングに戻った。
 ポケモンたちが朝食中だ。キバナは器用にスクランブルエッグやスープを作り、パンを温めていた。
「おはよ、ネズ」
「おはようございます」
 二人でご飯だ。

 外は嫌になるほど快晴である。太陽は、おまえですかね。ネズはぼんやりと食後の紅茶を飲みながらキバナに言った。
「オレかあ? ダンデか、現チャンピオンじゃね?」
「おれにとっては、ですよ」
 そうして掴んだ先に、愛があったのだ。までは言わない。キバナは好きだと言ってくれた。ネズは応えた。それだけだ。
 少しは言葉にしないととは思うものの、キバナが何も言わずに隣にいるのだから、困る。おまえがいないと寂しいだなんて、言いたくない。だってそんなの、負けたようじゃないか。この恋に、勝ち負けなんてないけれど。

「日向ぼっこしようぜ」
 その青い肌が少しは良くなるだろ。キバナの言葉に、ネズはむっと眉を寄せる。
「そんなに不健康ですか」
「どうせしばらく家から出てないんだろ?」
「詰めてたんですよ」
「たまには気分転換だって。別に家から出ようなんて言わないから、窓辺に行こう」
「そうですか」
「断るなって」
「でも」
「でも?」
「おまえには必要ないでしょう」
 ネズの言葉に、きょとんとしたキバナは、ははっと笑った。
「オレはいーの。ネズが幸せなら、それでさ。」
 あ、これが愛だ。ネズはぽかんとした。これぞ、愛である、と。本能で察した。むず、と胸が痒かった。好きだな、屈託ない笑みを浮かべるキバナに、ネズは目をそらした。好きだという気持ちが、膨れて、膨れて、きゅっと抱きしめられたようだった。
「すき、です」
 目をそらして言えば、キバナはオレも愛してると笑っていた。ネズとキバナの恋愛は今日もゆったり進むのだ。

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