花の盛りに生きた人5/終/花吐き乙女パロkbnz
※ジムチャレンジャー時代捏造
※家族設定捏造


「ルリナぁ!」
「え、何?」
「恋愛相談、してくれ!」
「それなら、ダンデにでも頼りなさいよ」
「ダンデに恋愛相談なんかできないだろ!」
「まあ、あのバトル狂いにアドバイスなんてできないでしょうけど」
 私もなかなか不器用なんだけど。ルリナがぼやくが、キバナは、オレよりはうまいだろとルリナを個室の酒場まで案内した。なお、バウタウンでは有名な酒場だったとか。

「で、何? 恋? アンタ何かすっぱ抜かれたの?」
「何にもない」
「あっそう。ええっと、完全にプライベート?」
「うんそう」
「何か問題が?」
「何にもないから問題なんだよ……」
 キバナは魚のフリッターにかぶりついて言った。
「オレさ、ネズが好きなんだ」
「……は?」
「で、花吐き病なの」
「えっ」
「ネズに花吐き病を移した」
「何してんの?」
「それはもう何年も前のことだから、時効だろ? で、そのネズに、なんか、フラレたっていうか」
「うっそでしょ、時効なんて無くない?」
「フられたの!!」
「まあ、でしょうね……」
「でも、好きだって言われた」
「んーーー?」
「好きだけど大嫌いだって、信じないって言われた……」
「それはまた、複雑ね」
 あーあと、キバナはぼやく。
「オレ、純白のユリを吐きたいのに」
「ああ、花吐き病は純白のユリを吐くと治るんだっけ?」
「ウン。恋が実ったら、純白のユリを吐くの。ロマンチックだろ?」
「全然。グロテスクよ」
 え、とキバナがルリナを見る。あのねえと、ルリナは言った。
「恋という心を計るバロメーターってことでしょ? グロテスクだわ」
「ぐ、グロテスク?! 二度も言う?!」
「悪趣味ね、人の心は計れないものだわ。だからこそ尊いのに、キバナは純白のユリに憧れて、何も見えてないじゃない」
 ねえ、とルリナは問うた。
「ネズとちゃんと話したの?」
 キバナは何も言えなかった。


***


「いやもうビックリ」
「すみませんね、ソニア博士」
「ソニアでいいってば。ネズさん、ほら水」
「おれもネズでいいですよ。ありがとうございます」
 驚いたんだから。ソニアは息を吐く。
「ナックルの道端で花吐きながら、うずくまってるんだもん」
「一応裏路地に入ったんですがね」
「そこは私の勘が働いたのかしらね。ネズ、水まだいる?」
「いえ、大丈夫です」
「そう?」
 で、とソニアは問うた。
「花吐き病ってことは、恋してるの?」
「ええまあそうですね」
「誰か聞いても?」
「キバナです」
「ああ、キバナくん……キバナくん?!」
 なんで、とソニアはぼやいた。
「キバナくんの好きな人って、ずっとネズだけじゃない!」
「え、なんですかそれ」
「何でも何も、ジムチャレンジャー時代に言ってたし、ずっと花吐き病が治らないし……彼、ダンデくんや私の前ではよく花を吐いてるの。我慢しないでって伝えてるからだけど」
「ええっと、キバナはそんなに前からおれを知ってたんです?」
「うん。なんかちっちゃい頃に会ったって」
「さっぱり記憶にありませんが」
「吐いた白いバラを渡したとか。覚え無い?」
「白いバラって」
 それは、とネズは思い出す。
「あの時の子どもがキバナですか?!」
「あ、やっぱり覚えてたんだ」
「最近思い出したんです。あれでおれは花吐き病になったんだなと……」
「そう。私もダンデくんもそうとう叱ったんだけど、同世代じゃ特に意味もなくてね。ケロッとしてたわ」
「ああそうですか」
「にしても、キバナくんが好きなら両思いじゃないの?」
「ソニアは、花を吐いたら好きだと思いますか? 好きだから花を吐くと思いますか?」
「え?」
 ネズは神妙な顔をしている。
「あのですね、おれはこれでも怒ってるんです」
 あのお坊っちゃんが、恋を語るだけなのが許せないのだ、と。
「おれ、哀愁のネズなんですよ」
 愛とは痛みと共に。ネズがふんと笑うと、うわあくタイプだとソニアはちょっと引いた。


***


 スパイクタウンの自宅にて。久々に作曲作業が捗ったと、ネズが満足して作業部屋から出ると、外から声がした。
「ネズっ!」
「えっ」
 キバナだった。

 家に招きに入れる。キバナは、あの、と口にした。
「オレさ、ちゃんと言ってなかっただろ」
「何をですか」
「あの、オレさ、ネズが好きなんだ。ずっと前から」
「そうらしいですね」
「オレの、花吐き病は、母さんから移されたものなんだ。母さんは純白のユリを吐いた、よ」
「へえ、そりゃ幸福ですね」
「うん。そう。幸福だから、オレもそうなると思ってた」
 不思議だな。キバナは言う。
「ネズのことが好きでさ、純白のユリを吐く日ばかり夢見てた」
「そう」
「でも、それって、手段と目的がごちゃまぜになってたんだ」
 オレは、とキバナはネズの目を見て言った。
「ネズが好き。他の誰にも渡したくないぐらいに。オレが一番、ネズにふさわしい男だ」
 ああ、とネズは笑った。
「おまえは結局、傲慢ですね」
「うん」
「純白のユリは無くていいと」
「うん。いらない。ネズが欲しいよ」
「そう……まあ、」
 ネズはゆっくりと言った。
「まあ、及第点ですかね」
「えっ」
「おれもおまえが好きですが、おれの愛も哀愁も、おれのもの。おまえに純白のユリを吐かせるぐらいなら、おれが花に埋もれて死んでみせましょう」
 おまえを思った花に埋もれて死ぬのだ。
「ね、最高のハッピーエンドだ」
 ネズが笑う。キバナは、こほ、と花を吐いた。赤いバラだった。
「あなたを愛しています」
 キバナの声に、ネズは笑った。
「ええ、愛していますよ、キバナ」


***
***


今回採用した花言葉
赤いバラ…あなたを愛しています


***
***


おまけ

テーマ:××年後にようやく純白のユリを吐くことになるキバネズ

キバナ
元気いっぱいな花吐き病。夢見がちロマンチスト。ネズにきちんと向き合えたら純白のユリを吐けるぞ。

ネズ
元気いっぱいな花吐き病。リアリストで、若干のジャイアニズム持ち。キバナが純白のユリを吐いたのを見たら、やっとキバナと自分の恋を信用して純白のユリを吐くことになるぞ。

マリィ
兄が心配。いつか話してくれるぞ。

ルリナ
恋愛相談は向いてないつもり。花吐き病ではない。

ソニア
キバナくん一途だなあと思ってたら拗らせてて「嘘でしょ……」となっていた。花吐き病ではない。

ダンデ
オーナーダンデ。名前だけ登場。花吐き病ではない。

- ナノ -